名誉ある役に選ばれたのは(1)
――数日後。
「今年はカティアとわたしが、王宮にパンを届ける役になるんですか?」
「マグノリア様、それ、本当ですか!?」
セーラの横にいたカティアが思わず身を乗り出し、割り込んできて言った。
たまたま居合わせ、その話を聞くことになったふたりの周りにいた娘たちが俄かにざわめきたった。
祈り係の娘たちから口々に語られる、余りあるほどの驚きの言葉の数々がセーラの耳にも聴こえてきた。
「なんですって?」
「名誉あるあの仕事を、雑用係の、しかも今年入ったばかりの1年目の新人が担当するの? そんな話は聞いたことがありませんわ」
「いったいどういうことなの?」
「異例すぎますわ」
などなど。
だから噂話にはとことん疎いセーラにも、自分が大変なことを任されたのだということだけは分かった。
しかもどうやら自ら辞退するという選択肢もなさそうだということも。
その場でカティアだけは唯一勝ち誇った顔で、そんな祈り係の娘たちの集団を横目に見ながら早口で高らかに、
「わたし、喜んでやります! やらせてください!」
「あら、カティア、わたしの記憶ではあなたは毎年パンを届ける役になるのだけは、自分がもし祈り係だったとしても嫌だって言っていたのではなかったかしら? 王宮に直接関係する行事は堅苦しいから、って、そうではなくて?」
「それは去年までの話です! 気が変わりました!」
「?」
マグノリアはカティアの返事に、明らかにしっくりいかないような表情で首を傾げた。
「ま……まあ、カティアにも何かしらの心境の変化があったのでしょうね。人は日々成長するものですから、働き続けていれば時にはそういうこともありましょう」
「あの……」
「なんですか、セーラ。質問があるなら気兼ねせず、どうぞ遠慮なくおっしゃい」
「はい、カティアは分かりますが、なぜまだ入ってまもないわたしも一緒に、王宮にパンをお届けする役をやらせていただけることになったのでしょうか?」
「答えは簡単ですよ。今年から作った者が届ける役も両方を兼任してはどうかというお話があったからです。だからその王宮から示された方針に従うことになりましたので、セーラとカティアがおやりなさい。いいですね?」
「元々今までだって、そうすればよかったのにね! セーラ、一緒に頑張ろうね! わたし、俄然やる気が出てきたよ!」
「まあ、カティア、あなたからそんな力強い言葉が聞けるなんて。セーラが入ってくれてからのカティアは、本当に前とは別人のようですね。あなたたちはとても気が合うのですね。良い出会いだったようで何よりです。これからももっと自分を信じて邁進なさい」
「はい! マグノリア様!」
「良い返事で大変結構。それにどんな物事に前向きに取り組むことは大変良いことですし、すべての仕事は大切なものです。そういうわけですから、セーラにも王宮への件は頼めますね? あなたはまだここに今年入ったばかりの身で今回のことは大役ですが、パン作りのことは、カティアが経験者でよく知っていますので、ふたりで協力するように」
「わかりました」
セーラとカティアは声を揃え、ふたりで横に並んで同時に頷いた。
「それではわたしは素晴らしいパンが焼きあがる報告を楽しみに待つことにしましょう」
そう言ってマグノリアは他の場所に移動して行った。




