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切ない恋におちていく

 リオンはその後も、頻繁に夜更けになるとセーラのいる聖堂を訪れた。

 ふたりが会うのはいつも礼拝堂か、広間か、厨房でお茶をするかのいずれかだった。

 外に出たのは、あの時、聖域に行った一度きりだった。


 逢瀬を重ねれば重ねるだけ、そのことがかえってセーラへの思いを強くしてしまうことをリオン自身は自分でもわかりきっていたが、それでも会いにいくことをやめることはできなかった。


 ――遠からずセーラは俺の気持ちに気づく時がくるだろう。これ以上の関係を望まないならばやめるべきだ。


 幾度もそう思いながらも、未だにこの関係を断ち切れないでいる。


 ――最初にここに来るようになったばかりのころよりも、比べようがないほどに、俺はセーラを愛してしまった。


 セーラにとって、何が一番の幸せかをいつも考えた。

 会いに行くたびに、聖堂でのその日あったことを話してくれるのが好きだった。


「わたし、ここに働きにこられてよかった。ずっとここにいたい」


 仲間の娘たちとのことを、とても嬉しそうに話すセーラを見ていると、生活のすべてを変え、自分のものになってほしいとはとても言えなかった。


 ――だからこそ、俺はあなたが好きなんだ。


 そう思いながら気づかされた。

 自分が誰かとしたいと長く望んでいたのはこんな恋だったのかもしれないと。





 一方、セーラは妖精たちのためのドールハウス作りをずっと続けていた。

 リオンはよくそれを手伝った。

 その作業の合間に、悪戯好きな妖精たちが不遜にもリオンの頭の上にさも当然というようにして居座るので、鬱陶しげに払いのけようとする姿を何度も見た。


「こいつらは俺のことを召使いだと思ってるんだ。子供のころのことをいつまで経っても覚えているから」


 リオンは前にそう聞かせてくれた。 

 けれど上辺は忌々しげにそうは言いつつも、リオンの妖精たちへの眼差しが優しいことにセーラは気がついていた。


 その所作を知るたびに、


 ――つらいこともたくさんあったけれど、子供ひとりで残されても、わたしがなんとか生きてこられたのがどうしてだったか、今ならよくわかる。リオンの一族の方々が守っていて下さったから……。


 リオンの横顔を見ながらセーラはそう思った。

 もう着ることが当たり前になった、聖堂の制服がさらに大切なものに感じられた。


 聖域に行った日、リオンから守るように抱き寄せられ、誰にも話せない一夜の出来事で恋をした。


 ――この時間が限りあるもので、いずれいつか終わることだと分かってる。わたしは好きになった人が、国王様だっただけ……。


 セーラはそう思った。


 同時に、隣にいるリオンも口には出さずに、


 ――俺のこの気持ちは明かせない。一度でも打ち明けてしまったらもう抑えられなくなる。俺の結婚を心から待ち望むエドガーたちの気持ちは分からなくはないが、それ以上に俺はセーラには自由で誰よりも幸せでいてほしい。この先に想われるのは俺じゃなくていいが、俺がセーラ以外の誰かと結婚することは、その相手を不幸にするだけだ。それなら独り身のままでいい。これは俺が生涯で貫く唯一の我儘になるかもしれない。


 ふたりはお互いがお互いのことを思いながら、不意に目が合った瞬間にそらした。

 本当はもっと見つめ合っていたい気持ちばかりが募りながら……。


 そして同時にリオンと頻繁に過ごすその時間のことが、セーラは一番の友だちになったカティアにも言えない秘密を作る原因になってしまっていた。

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