↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/58

国王と次官の深い苦悩(1)

 ――数週間後の王宮。


 その日、リオンはエドガーと共に、王宮内の広間のひとつで行われている、各地を王家に代わって治めている領主たちが一堂に会する会議に出席していた。


 噓偽りのない本心を言ってしまえば、ふたりにとっては毎年必ず一度は行われるこの定例の集まりは、年間を通して予定されている行事ごとの中でも、とりわけ避けたいことのひとつだった。

 例に漏れず今回も、国王が同席している事実を鑑みても余りあるほどに酷い殺気立ったやりとりが、参加者たちの間では繰り返されている。


 王都に割合近くそれなりに財政に余裕がある地区と、国境沿いの鄙びた地域とはどうしても埋めようもない格差が存在し、それこそが領主たち同士の間で、長年の不満の温床となっていたからだ。

 その為、こういう全員が顔を突き合わせる場では、予算の奪い合いを含めた、日頃の鬱憤を遠慮なくぶちまける者まで現れる。

 この会議の紛糾はいわば約束された流れだった。


 集まった全員からの意見をありがたく拝聴する、という体をとりつつも、リオンとエドガーは時々目立たないように目配せしあい、一体どこでこの話を中断させるべきかのタイミングを、ふたりは模索し続けているところだった。

 なりゆきに任せてきたものの、開始からもうかれこれ休憩も挟まずに五時間強は過ぎたころだろうか。


 ――リオン、この者たちには長く好き勝手喋らせましたし、幾ら何でももういいんじゃないですか? 何より聞き飽きました。解決の糸口のない話を毎回毎回繰り返してばかりで、たまにはもっと景気のいい話を持ってくればいいものを……。


 すぐ横に座るエドガーの底冷えした視線からは、そういう感情をまともに感じ続けており、リオンはそれを看過できないこととは思いつつも、未だ沈黙を貫いていた。

 こういう時にエドガーとは付き合いが長い分、面倒な局面での対応に出なければならない時にも便利に働くのがまだ救いだ。

 沈黙していようとも、隣に座ってさえいれば、大体はお互いのことが分かる。

 意志疎通が出来る相手がそばにいれば、ひとりで聞くよりは遥かに状況はましだった。

 そしてリオンとエドガーのふたりが果たすべき役割は、目の前の者たちを可能な限りに納得させ、あとはなんとか締めて散会させるだけになっていた。


 ――ただ、それが一番難しいんだよな。さあ、どうしてくれようか。


 リオンは心の中で、この目の前の依然前途多難な現状に、内心ため息をつきたくなるような心境でそう思った。





 ――今日のこの定例の会議は、確実にまたどうせ大荒れになる。


 数週間前からそう予見し、暗澹たる思いで臨んだものの、やはり昨年と殆ど変わらないままの現状に頭痛すら覚える。

 リオンとエドガーが抱える苦悩は深かった。


「……皆さんの言われることはよくわかりました。では出来る限り極力善処するよう検討をし……」


 一秒でも早く閉会を通告したいエドガーが、頃合いを見て書類の束を手早く揃えながら、淡々とそう言い放った時、会議の参加者の何人かが、『速攻で待て、それでは困る』と次々に立ち上がって、更に声が大きくなった。

 収拾がつかなくなって益々混沌さを増した状況を見ながら、リオンはこのままではまずいと心底思った。


 ――ああ、そうでしょう、そうなることも当然分かっていますよ。既定路線すぎて笑えもしません。今すぐここで全員くたばってくれてもいいのですがね。


 時々血の気が多くなるうえに、自分と同じで実は血統の割にかなり素行が悪いエドガーが、そんな物騒なことまで考え始めているのが伝わってくる。

 この辺りが限界だろう。まずはことを収めようと自ら率先して動いてくれたのはありがたいが、エドガーだけでは全てのことを収めるのはやはり無理だな、とリオンは思った。


 ――エドガーだけに話を託すと、いずれは怒りの矛先が王宮にまで向いて、革命の原因まで作りそうだな……。


 そんな物騒なことまで思ったリオンの横で、そのくだんの国王と気心が知れ過ぎた臣下は益々怒りを募らせ、


 ――このまま終われば、あなた方は自分の領地にめぼしい収穫を何も持って帰れず、自分の立場としては不都合だと言いたいのでしょう。だが、もう終わりです。あなた方の要求を、毎回こっちが全部きいていたらきりがないんですよ。


 リオンにとっても、今のエドガーの心の内にあるはずの、こうした正直な意見の数々にはおおむね同意するものの、自分までそれをここで見える形で晒してしまっては元も子もなくなる。

 しかもエドガーの我慢がこれ以上持つとも思えなかった。


 これ以上側近の次官に何かさせるより自分が動いた方がいい、リオンはそう判断した。

 自ら動くことを決めた後の、リオンの行動は素早かった。

 表面上は努めて冷静かつ模範的とも言えるような品行方正な動作で、リオンが皆の前で予告なく起立した。


 するとエドガーが即座に入れ替わるように着席する。

 その瞬間、場内が一瞬にして、一斉にしんと静まり返った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。