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王宮の異変(1)

「俺の部屋から、急に家具が幾つも消えた?」


 若干十八歳の若さで王位を継承してから、既に在位期間が十年が過ぎた、第二十三代のこの国の現国王であるリオン・グラディランスが、その『不可解な話』を聞かされたのは、およそ数ヶ月に渡る、国境を接する隣国との会談や視察の長期の予定を終えて城に戻るなり、だった。


 角度によっては漆黒にも見える群青の髪と、同色の色彩の瞳を持つリオンは、帰還直後に自身の部屋に戻る間もなく、廊下で城の従者たちから直接報告を受けるような形になった。


 城の他の場所でのことならともかくとして、こと現国王自身の居室で連続して起きた話なだけに、従者たちの処罰を恐れての動揺ぶりは、とにかく相当なものだった。

 リオンは問題の消えた家具のことよりも、まず怯えながらも職責を果たそうと他の者任せにせず報告に来た従者たちに、心の底からの同情心を抱いた。

 体裁上は一応経緯や事情はそれなりにはきくつもりだったが、本音を言ってしまえば彼らを一刻も早く解放してやりたい気持ちの方が遥かに上回っていた。


「犯人は捕まえたのか?」


「いえ、それがまだで……申し訳ありません。何せ探したくとも、手がかりすら何も残っていない状態で……」


 報告に来た従者たちは、皆揃って青い顔をして平謝りでひたすら頭を下げ続けている。

 リオンは思った。


 ――だろうな。こういう真似をするのは、大概『あいつら』の仕業と考えてほぼ間違いないだろうからな。おとなしく留守番をするどころか、俺がこっちにいない間に、いったい何をやったんだ? 最近静かだったから油断していた俺も悪いが……。


 従者たちの誰にも非がないことは、リオンには詳細を聞かずとも、とうに分かっていた。

 不運にも今回の関係者になってしまった者たちが一人も責任追及の対象になるようなことがないよう、その対処方法だけは考えなければならなかった。

 ただその一点のためだけに、可能な限りに穏便に済ませる方法について、リオンはひたすら考えを巡らせていた。


 そうこうしていると、廊下の向こうからリオンにとってはよく見慣れた人物が、こちらに向かって、優雅な靴音を響かせながら歩いてきた。


「国王陛下、僕から一連の詳しい報告をお伝えします」


 近づいてきたのはリオンの最側近の従者のひとりであり、高貴な紫水晶を彷彿とさせる両眼を持ち、透けるような金の髪を長く背中側でひとつにまとめた、エドガー・エヴァリストラントだった。

 丁度いいと、リオンは他の従者たちはその場で全員解散させ、自分と同じ年のエドガーだけに執務室についてくるように指示した。





「帰ってくるまで、俺に何も知らせないままで黙っていたのは、お前の判断だな? エドガー」


 部屋に入るなり、リオンが切り出した。


「そうですよ、リオン。こんな程度の話は、あなたなら気にも留めないと思いましたし」


「だろうな。……で、事情を詳しくもう一度最初から聞きたいが、いったい何があった?」


「目撃した侍女たちの話ですと、ついさっきまでそこに置いてあったものが、忽然と消えてしまうそうです。それもあなたの部屋にあったものだけが、狙い撃ちされたかのように次々と。大きな家具が突然その場から跡形もなく喪失する、だなんていうことが、現実にはそうそうあるとも思えませんが」


 執務室のソファに腰を下ろした姿勢で、リオンはエドガーから一通りの説明を聞き終えた。

 今、この部屋にはふたりだけなので、リオンは気兼ねせず上着を脱いで、くつろぐように足を広げて座っている。


「そうだな。そんな怪奇現象めいたことは、そうはないだろうな……」


「しかも複数の人間が、一度に同じ事象を見ていることからも、その場にいた者らが何らかの口裏を合わせて偽りをいっているわけではないようなのです。しかも家具の中に片付けてあったものは、その場に山積みになって残されていたそうなので、賊にしてはその辺りは実に丁寧な仕事ぶりと言えますね」


 皮肉げなエドガーの言葉を聞きながら、聞き役に徹していたリオンはさして興味もなさそうに、


「……そうか。それは酷く問題だな」


「言ってる言葉の割には、話を全部聞いても、あなたはさっきまでと同じで、僕以上に今回の話にまるで興味がなさそうですね」


 そう言ったエドガーの言葉には、リオンは黙ったまま答えなかった。


「……で、報告は以上ですが、どう対処しますか?」


「対処のしようがないだろ。賊のたぐいではないのなら、もしかしたら地下の霊廟から出てきた亡霊が、夜な夜なそこらを好きに出歩いているのかもな。この俺の治世に文句をつけたくて」


「……それはこの国の中で、唯一あなただけが言うのを許される、たちの悪い冗談ですね」


 エドガーが閉口気味に言葉を返す。


「冗談のつもりで言ったんじゃない、そんな人外のような離れわざができるのは、そのたぐいの延長にあるような何かだろうと思っただけだ。なんにせよ、執務に差し支えないならしばらくは放っておけばいい。そもそも俺自身は家具や部屋の中の物には、まるきりこだわりがないしな」

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