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 勉強がほとんどだけど、入学後1か月経つと、人と話す練習、声を出す練習として、週に2回、火曜と金曜にアフレコの授業がある。全員で同じセリフ量があるキャラを演じるっていう授業。

なりたい自分に少し近いキャラを演じるように、入学時にアンケートに記入した結果が反映されたキャラ設定になっているみたい。


 私は、”大親友の女の子がいる元気な女の子”というキャラを与えられた。

女の子全員から無視されたとき、誰かひとりでも私の味方になってくれる親友がいたらよかった。うつむくだけでなく、明るく元気な女の子になりたい。そんな私の気持ちを表したような理想のキャラ台本が送られてきたとき、恥ずかしいような、嬉しいような複雑な気持ちで、ちょっと画面越しに泣いた。


 授業当日は、台本には目を通していたけど、実際クラスのみんなの声を聞くのは初めてだからすごくどきどきした。台本のまま性別を受け取っていいなら、このクラスは私含めて男女各2人ずつだ。


可愛くて皆から愛されている女の子

お調子者だけど皆の兄貴的な男の子

男友達の多いクールな男の子


 他のみんなに与えられたキャラをみても、私たちはだれかに愛されたかったんだろうな。って、皆同じ気持ちなんだな。ってわかるのが何か安心した。


 私たちは自分の番になったらそのキャラのセリフをなりきって読めばいい。

授業開始時にウッキー先生が言ってくれた言葉「自分ではないキャラなんだから、自分が思うままに演じていいんだよ。ちょっとオーバーに演じてくれて方がいいかな。」の言葉を励みに、言われた通り役になりきって声を出した。



「プティちゃん、おっはよぉ!今日は魔法の授業があるんだって!初めてだからどきどきしちゃうねぇ。」


「パティちゃん、おはよう。お花さんたちにお水をあげるのが最初の授業。ってハーくんから聞いたよ、頑張ろうね。」


 自分のセリフを緊張しつつもつっかえないで言えたことに安堵してたら、次にセリフを読み上げためっちゃくちゃ可愛い声にびっくりした。めっちゃくちゃに可愛い声だった。

 思わず声が出そうになって必死にこらえたけど、初めて聞いたクラスメイトの声はすごく可愛かった。


「プティ!俺が全員分の花に水まくから失敗してもいいぜ!任せろ!」


「おいおい、お前が全部やったら授業にならないだろ。」


 可愛い声に酔いしれていると次は他のクラスメイトの声が聞こえてきた。始めの人は、男の人にしては中性的な高めの声。女の人でもいそうだし、もしかしたら男の人ではないのかな?なんて考えてたら、2人目の人は、すっごく聞きやすい声でドキドキした。落ち着いてるし、同い年とは思えないくらい。


 学校行かなくなってからアニメとか動画サイトみるようになって、自分の好きな声の種類というのがわかったけど、この男の子の声はかなり好き。まだ友達がいた時に推し声優が~って言ってた人の気持ちがわかった。


 あと意外だったというか、私の考えが浅はかだったのか、最初に思っていたアイコンは全く違った。


猫アイコンが、声が素敵なクールキャラを演じた人、

虎アイコンが、中性的な声の兄貴を演じた人、

象アイコンが、かわいい声の女の子を演じた人だった。


 声を出している時にそのアイコンだけが表示されるから誰がいつセリフを言うのかわかりやすいのもよかった。





 入学して半年以上経ったけど、普通の授業だけではなく、アフレコの授業にも慣れて楽しくなってきた。最初から楽しかったけど、気恥ずかしさがなくなったみたい。自分ではないキャラって思って演じているのも、新しい人間になれたような気持になる。


 通常授業も相変わらず楽しくて、進むと難しくなるかと心配していたのがウソみたい。特に数学が楽しい。自分が理数系の方が好きだったなんて初めて知った。もしかしたらここに入らなかったら一生知らなかったかもしれないけど。


 実際、ここの進学率は年々上がっているみたい。みんな勉強が楽しくなっちゃって大学行きたくなるみたい。口コミでも授業が分かりやすいってあったけど、本当だったんだな。って実感した。勉強が楽しすぎて趣味になってきたから通販で取り寄せては自主勉強している。親も勉強の本だと喜んで買ってくれるし。

 自信がついたからなのか、最近は大学に興味もでてきた。


「…大学のこと、真剣に考えてみよう。」


 そしたらこの独り言も直そう。いや、一人でなかったらひとりごとにならないから直さなくて平気かな。大学は人がすごく多いし、いろんな人がいるしでそのままの自分でも平気だってインターネットに書いてあったし。信じていいかわかんないけど。


 授業のアイコンも動物からアフレコのキャラアイコンに変わった。なんでもイラストレーターに依頼しているらしい。お金かけてる。ってのが最初に思った感想。でもさらにキャラに愛着沸くし、嬉しいんだけどね。


 クラスの人とは授業で組むようになった。たまに2人組の授業があるんだけど、そこで英会話とかしたりする。この学校少しずつ進んでくれるからすごくありがたい。色んな人と組んでるけど、どの人もすごく優しくて、私はこのクラスになってよかった。って日々感謝している。


 自然と家での食事も、一人で食べていたのを親と食べるようになった。今までは私の話なんて誰も聞いてくれないと思って話さなかったけど、聞いてくれなきゃそれはそれでいいや。って気持ちになったから、気にせず親に話しかけるようになった。


「最近、よく笑うようになったし、学校の話もたくさんしてくれるね。ありがとう。」


 親からまさかそんなこと言われると思ってなかったから、ちょっとびっくりして目見開いちゃった。


「あの学校に入れてくれて、お金出してくれてありがとう。」


 その場でちょっと泣きそうになっちゃったけど、親の前で泣くのは恥ずかしいから、お礼だけ言って、部屋でちょっと泣いた。



 毎日楽しく過ごしているからか、月日が経つのがあっという間で、2年生になっちゃった。引きこもってた中学3年の時は、学業行事の紙見ながら、皆は今頃何やってんだろう。それに比べて私は…。って辛かったけど、今はすごく楽しい。


 オンラインではさすがに体育はできないから、そういった授業がないから普通より進みはたぶん早い。授業では、各々が得意な授業は当てられるようになった。得意な授業だし、当てられて答えられると自信つくしで、数学の授業がすごく待ち遠しい。




 2年目になると自信がつく人が多いのか、アフレコの授業も台本をアレンジするような授業が出てきた。自分の演じているキャラへの思いや熱量がみんなあるから、みんな自然と発言できるようになってる。自分の気持ちを素直に言えるようになったし、実際に皆に会ったことはないけど、他のみんなのことは私は勝手に友達と思っている。


 一応学校として通ってほしいから、この学校には夏休みと冬休みもある。普通の学校より日数は少ないけど。2年生の夏休みから、クラスメイトと話せるようにクラス限定のIDと№が渡される。日中の9時~18時まで、好きな時に好きなだけいていいクラス限定ルーム。それを夏休み前に聞いたときは嬉しくて、クラスのみんなと、友達と過ごせる!ってはしゃいだ。


 夏休みは毎日そこに入り浸った。朝からいるのは、私とハヤトくんくらいだ。


「おはよー。ハヤトくん。」

「おはよー、ゆめ。」


 ハヤトくんは私と同じでだいたい1日中いる。


「ハヤトくんの声いつ聞いても良い声してるね~。」

「はいはい、ありがとうありがとう。」


 夏休み初日に名前だけの自己紹介をしてから、全員と名前で呼び合っている。さらに友達!って感じがしてすごく嬉しかった。


 ハヤトくんと勉強とかドラマとか、色んな話をして、お昼ご飯食べて、もう一度ルームに入ってしばらくたつとマミがルームに入るのがいつものパターン。


「やっと終わったよー。」

「マミ、お疲れ様~。」


 マミは家のことをやってからくるから昼以降に来ることが多い。そのあとは3人でしばらく話していると、コージくんは夜型みたいで大体くるのは夕方からくる。


「おそよー。」

「おそよー。あと1時間でルーム閉まるよ~。」

「うーん。ゲーム楽しくてさー。」

「休み満喫してるな。」


 コージくんは中性的な声だけど、男の人みたいで、ゲームも大好きみたい。それでもほぼ毎日ここにやってきてくれるのは、ここの居場所がいいのかなと思ったりしている。こんな感じだから、長い時間2人でいることが多いハヤトくんと1番話すようになった。マミは面倒見がいいみたいで、コージくんがくると、「ご飯食べたの?」「課題はやった?」とか聞いてるし。


 マミもコージくんも仲の良い友達って感じだけど、ハヤトくんと話す時間が長いせいか、ちょっと好きになっちゃった。顔も見たことないし、夏休み入るまではそんなに話したこともなかったのにね。授業で少し話すくらいで。今まで誰も好きになったことなかったのに。あの人気者の長谷川くんもこんな感じで好きになってくれたのかなぁ。なんて考えちゃう。


 ちょっとよく話すようになったくらいで好きになるとか、我ながら単純な気もするけど…。恋に落ちるときはわからないものなんだな。ってまた新しい発見をした。

最後までに読んでいただきありがとうございます。

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