天才と呼ばないで
私を天才なんて呼ばないで。
そうやって、私から離れていかないで。
私を一人にしないで。
魔法が人より上手く使えるなんて言われても。
ただ、楽しかったからやっていただけで、ズルイ事なんて何もしていない。
なのに、何でみんな「自分達とは違う」だなんて言って、悪口を言ったり、無視したりするの?
別にみんなの事を馬鹿にしているわけでも、自分を特別だって思っているわけでもないのに。
ただ私は魔法が好きなだけで、楽しくて、一生懸命頑張っていただけ。
それだけだったのに。
大人達は気にするなというだけで、私の言葉を聞いてくれない。
同じ歳の子達は、そもそも私と直接話してくれない。
だから、他にやれる事もなく、魔法の勉強や訓練をして。
その姿を見て、大人達は褒めてくれるけど、それだけ。
天才と言って、私を見ない。
ほかの皆は天才と言って、私と距離を置く。
もう、どうにもならないのかな?
これからずっと名前で呼ばれることなく、天才なんて呼ばれたくないモノで呼ばれ続けて――
一人でいなきゃ、いけないのかなぁ?
今日も一人で、街の外れで魔法の練習をして、そんな事を思った時だった。
「お前凄いなぁ! 俺、同じ年でそこまで魔法使える奴、始めてみたっ!」
見たことのない、男の子が私に向かって話しかけきたのは。
「えっ?」
「あっ、悪い。邪魔したよな。ただ、同じ年ぐらいの奴が、大人と同じ魔法を使ってるの見て思わず話し掛けちまった……ってどうしたんだっ。お前何で泣きながら魔法の練習してんだよっ!? どっか痛いのかっ。それだったら魔法の練習は一旦やめてどっかで休んだ方がいいぞっ」
最初男の子との距離は少し離れていたが、男の子は話しながら私に近づいて、私が泣いていることに気付くと、慌てた様子で私を気遣う。
「……うっ」
「今度は気持ち悪いのかっ? だったら、そこの木陰で横になって……」
どうしていいのかわからなかったのだろう。
男の子は、腕をばたばたさせて、辺りをきょろきょろと見回しながら、とりあえず休めそうな場所を見つけて私に声をかける。
でも。
「うわぁぁぁん!」
久しぶりに、普通に話しかけられたに感極まってしまい、私は泣き出してしまった。
誰かに笑顔で話しかけられることも、心配される事も。
もう、ずっとなかった。
だから、色んな感情がぐちゃぐちゃになって、止まらなくなってしまった。
「何かわからないけど、ごめんなさい!」
そんな私に、何故か謝る男の子。
違う、嬉しかったの。
そうやって、普通に接してもらって凄く嬉しかった。
本当なら、そう声をかければよかったのに、その時の私は泣くことしかできずにいて。
しばらくの間泣き続ける私と、必死になって謝り続ける男の子。
これが私達の出会い。
隣街から越してきた彼。
街を探検し、出会った私に天才としてじゃなく、一人の女の子として見てくれて。
私の事を知っても態度変える事無く。
一緒に学校に通うことになっても。
「魔法がそんだけ使えてマジで凄いっ。俺も負けないくらいに使えるようになってやる」
何時も私の隣で、魔法の練習をし。
「こいつの名前は、天才じゃねーよっ」
聞こえるように悪口をいう同い年の子にも、そうやって言ってくれて。
「お前ら、少しはこいつちゃんと見ろっ。別に偉そうにしてないだろうがっ。ちゃんと見て、話をして、嫌いになるのはそれからにしろっ。ちゃんと見ずにこいつを判断するなっ」
男の子と取っ組みのあいのケンカをしても、そうやって訴え続けてくれる。
そんな大切な友達の男の子。
何年もずっと一緒にいることになる、彼との始めてのやりとりだった。
彼のおかげで、私は一人ぼっちじゃなくなって、私の事をちゃんと見てくれる人は増えていった。
天才、と呼ばれる事はなくなったわけじゃないけど、前ほどは嫌な気分はない。
変わらず、天才と言って私の事を見ない人もいたけど。
でも、天才と言って笑いかけてくれる人もちゃんといる。
だから、その言葉をちゃんと受け止める事ができるようになった。
そして。
時折だが、彼も私を天才と呼ぶ。
魔法の勝負に熱中して、私に負けると。
「くっそう、今度は必ず勝ってやるからな天才」
などと心底悔しそうに言うのだ。
そんな彼に対し、私はこう返す。
あの頃と同じ言葉を、あの頃とは違う気持ちで。
「いいよ、何度でも勝負を受けてあげる。でもね一つだけ言いたい事があるの――」
冗談交じりの笑みを浮かべながら。
――私を、天才と呼ばないで。
お付き合いくださり、ありがとうございました。