申し出
ギルドを後にして、そのままエンドルド辺境伯の下へと向かう。
サンシタに乗る僕とアイビーの後ろには、空を駆けるレイさんと空を飛んでいるアイシクルの姿がある。
アイシクルの同行には既に許可をもらってはいるけれど、一応念のためにね。
街のことを考える辺境伯に、出掛ける時に挨拶をするのは礼儀だと思うし。
それに、また僕達のことで迷惑をかけてしまうかもしれないし。
改めて声をかけておいた方がいいよねということになったのだ。
「当然ながら、私も行くぞ」
「はい、よろしくお願いします」
レイさんと一緒に頷き合う。
一緒に訓練も、旅も、色んな話もしてきた。
その強さを知っているからこそ、心強いと思える。
魔物は各地で暴れているという。
いくらアイビーと僕が頑張ったところで、一人に一匹で全てのカバーができるわけじゃない。
戦力はいくらあっても構わないので、レイさんに参戦してもらえるのは嬉しい。
「一応確認するんですけど、レイさんが表舞台に出ても大丈夫なんでしょうか?」
だってレイさん、勇者じゃないですか。
教えてくれたところによると、勇者のことって王国でも一部の人しか知らない機密事項なんですよね。
あんまり表に出しちゃいけない情報な気がするんですが。
「ああ、大丈夫だ。一応出撃自体は問題ないと、事前に許可ももらっているしな。それに……」
ジッと僕の方を見つめるレイさん。
そのまま肩の上にいるアイビーへ視線が移る。
アイビーが「みいっ!」と鳴きながら、ぶるっと身体を震わせる。
顎下を触ってアイビーとじゃれていると、レイさんは最近よく見せるようになってくれた、自然体な笑みを浮かべて、
「きっと私の情報がバレても、何も問題などなくなるさ」
その言葉に、アイビーがドンッと胸を張る。
『目立つのは私に任せて!』って感じだろうか。
ビクビクしていた時もあったけれど、なんだか最近は吹っ切れたのか、彼女に度胸がついてきた気がする。
なんだか男らしく……って痛たたたっ!?
噛まないで、冗談だってば!
アイビーは立派なレディーだよ!
レイさんが言っているように、アイビーが本気を出すとなると、今回一番目立つのは彼女になるのは間違いない。
戦闘態勢のアイビーは、良くも悪くも人目を引くからね……。
「でもアイシクルもいいの?」
レイさんの隣にいるのは、高飛車インセクトクイーンこと『昆虫女王』アイシクル。
なんと驚いたことに、今回は彼女の方から自発的に、僕らと共に戦いたいと言ってくれていた。
戦力が足りないから、強引に連れていくつもりだったので、正直意外だ。
というか、魔王軍幹部である魔王十指の彼女が、同じ魔王の手下達と戦ったりしても問題はないものなんだろうか。
共食いというか、同士討ちというか……そんな感じになるような気もする。
「私はアイビーとブルーノにテイムされただけですわ。サンシタと同じ、ただの一匹の魔物に過ぎません……」
【同類でやんす!】
なぜか嬉しそうに叫んでいるサンシタ。
そういえばサンシタは最初からレイさんに敵対的で、アイシクルとは仲が良かった。
彼に敵愾心があったりしたのは、もしかしたらレイさんが勇者だったからなのかもしれない。
「人間は私達魔物を殺して、身体からあらゆる素材を剥ぎ取る蛮族だとばかり思ってましたが……接していくうちに、どうやらそこまで見下すほど下賤な者達ばかりでもないと知りました」
……魔物視点だと、僕達はそんな風に見えてるのか。
たしかにちょっと、というかかなり野蛮だ。
最近はアイシクルも随分丸くなった。
頭にサンバイザーをつけて養蜂作業に精を出す姿は、高飛車な女王様というより農家に嫁いできた良家の令嬢といった感じだ。
男性からの人気もなかなかに高いらしく、農家の男達の中には本気で彼女を狙っている人もいるとかいないとか。
「はい、それなら皆で――この国を、守りましょう」
「「おおっ!」」
【守るでやんす!】
レイさんもアイシクルも、出会った時と比べると大分変わったように思える。
でもきっとそれは僕やアイビー、サンシタも同じで。
この世に変わらないものなんてない。
きっとどんな生き物だって、変化せずにはいられないのだ。
自分達のことはあまりわからないけど、僕やアイビーだって変わっているはずだ。
でも、変わるのは悪いことじゃない。
変化を良いものにするか、悪いものにするか。
それはきっと、自分達の行い次第なんだと、僕は思う。
そのまま貴族街にやってきた僕らは、エンドルド辺境伯の屋敷へと向かい挨拶をする。
そこで意外な声が上がった。
「妾も連れていってほしいのじゃ!」
「面白いことには、私も混ぜてほしいかな?」
なんとカーチャと遊びに来ていたシャノンさんの二人までが、同行を申し出てきたのである――。




