警戒
「大変です、アキレス様!」
「なんだ不躾に、折角優雅なティータイムを楽しんでいたというのに……」
そこは王国は東部に位置している、シナモンという港町。
風光明媚な観光地として知られるこの街を収めているのは、アキレス・フォン・ゼッタという男だった。
金色の髪は獅子のように伸びていて、顎髭がもみ上げと繋がっている。
体格はかなりゴツいが、見た目に反してその所作の一つ一つは美しい。
彼は優雅なものを好み、食後の優雅な一服を何よりも好む。
自分の大切な時間を邪魔され、明らかに不機嫌になっているアキレス。
けれど目の前に居る兵士のただならぬ様子に、すぐに考えを改める。
目を血走らせた兵士は、アキレスへこう告げる。
「大量の海の魔物達が、こちらへ近付いてきています!」
「――なんだとっ!?」
報告では海の王者とも呼ばれるキングサーペントのような魔物から、海に暮らす魚人であるマーマンといった人型の魔物まで、多種多様な魔物達がこの街目掛けて進軍をしているということだった。
それだけ多種多様な魔物達が統率されて動くことは、通常ではあり得ない。
たとえばホブゴブリンがゴブリンを従えるように、同じ系統のより上位の魔物が下の魔物
を従えることはあっても、まったく別種の魔物がやってくることは通常はありえないのだ。
それを為すことができるのは何か魔道具を使った場合か、もしくは……魔物を統率することができる能力を持つ、強力な魔物のみ。
魔王軍の名が、アキレスの脳裏に過る。
「黒の軍勢だと――魔王軍の侵攻は、もう来ないはずではなかったのか!?」
先ほどまでの優雅な仮面を脱ぎ捨てたアキレスが叫ぶ。
黒の軍勢――魔王によって率いられる、魔物達の混成軍。
今の王国民は、魔王島の存在を知ってはいたが、その脅威をほとんど感じてはおらず、なんら対策を打ってもいなかった。
だがそれはある種当然のことでもある。
何せ魔王島から魔物が最後にやってきたのは、今より百年以上も昔のこと。
長い間まったく動きを見せていない様子に、人々はその恐怖を完全に忘れ、平穏な日々を過ごしていたのだ。
神託を知るのは、王国の中でも限られた上層部の人間のみ。
故にアキレスのような下級貴族からすると、突然の襲来は正しく寝耳に水のできごとだった。
「ええいっ、こうなっては優雅になどとは言っていられない! ありったけの冒険者達をかき集めろ! その間に急ぎ、各地に援軍の要請を!」
こうしてシナモンの街は慌ただしく動き出す。
そしてほとんど時を同じくして、王国の他の地域でも同時多発的に魔物の襲撃が起こっていることが発覚。
更にこの騒動は国内だけに留まらなかった。
魔物の襲撃は隣国であるセリエ宗導国にまで及んでいた。
各地を襲撃する魔物達を迎え撃つため、王国とセリエは手を組むことが決まる。
そして魔物の迎撃にあたるため、騎士から冒険者まで、戦える者達は狩り出されることになる。
そして各地へ出されることになる救援要請は、アクープの街でゆっくりとしているブルーノ達の下にまで届くのであった――。
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