魔王十指
王国やセリエ宗導国がある大陸は、その名をヘンディア大陸という。
ヘンディア大陸は東西に長く伸びていて、王国はその中では東部に位置している。
王国やセリエの東にあるのは、大星海という大海原だ。
けれど実は両国からそれほど遠くない位置に、一つの島がある。
ぐるりと海に囲まれているその孤島の周囲には、侵入者を排除するかのようにいくつもの岩礁が横たえられている。
よく観察すればそれらはただの岩ではなく、魔力の込められた属性石であることがわかる。 もしこんな場所を船で通ろうものなら、暴発した魔力が船底を打ち抜き、容易く沈むことになるだろう。
そもそもの話、岩礁にまで辿り着くのも容易なことではない。
島の外には強力な水棲の魔物達がおり、独自の生態を築き上げているからだ。
彼らは船だろうが魔物だろうが、やってきた者を無作為に食い散らかす。
そして中でも強力な魔物達は岩礁を己の生活圏としているため、岩礁は強力な魔物達の巣くう魔境となっている。
このようにこの島は、何重もの仕掛けであらゆる侵入者を拒む構造になっている。
船で入ることが不可能な現状、その島に突入することは現実的ではないと、王国もセリエも結論を出している。
両国とも既に何度も痛い目を見ており、バカにならない被害を受けているというのもあるだろう。
この島には、鬼岩山と呼ばれる大きな岩山がある。
表面が削れ、鬼のような形になっているその鬼岩山の頂上付近。
今にも落ちそうなほどにわずかしか接地していない、断崖絶壁に一つの城がある。
その城こそ、この島の名付けの由来でもあり、そして昨今起こっている魔物の被害の活発化の原因として、世界各国を悩ませている元凶だった。
城の名は――魔王城。
魔王とそのしもべ達が住んでいる豪奢な城は、今日も変わらぬ威容で佇んでいた。
この孤島の名は、魔王島。
ここでは今日も、魔王十指が秘密裏に会合を続けていた――。
「帝国の方はどうなのだ?」
「抜かりない、万事つつがなく進んでいるとも」
そこにいるのは、ローブを被った二匹の魔物だった。
彼らはテーブルごしに向かい合った状態で、椅子に腰掛けている。
二匹とも人の形を取っているが、隙間から覗く身体は異形そのものだった。
フードを目深に被っているため、彼らの正体までは窺えない。
「東部方面の予定は全てぱぁだ、キッシンジャーめ……」
「セリエの件は返す返すも残念だったな。なんでも勇者が出たとかいう話だったか?」
「ああ、らしいな。その正体までは掴めてないという話だが……」
二人が見下ろすテーブルには、いくつもの駒が並んでいる。
駒の下に置かれているのは、ヘンディア大陸の地図だ。
ゆらゆらと揺れる蝋燭の火に照らされて、駒の影が伸びていく。
その様子は世界中に魔の手が伸びていくようで、怖気を感じさせるものだった。
「勇者が出たとなれば我らにとっては一大事だ。その牙が魔王様に届くほど成長する前に
事前に芽を摘んでおかねばならない。その役目を担うのは――我ら魔王十指の左手をおいて他にない」
「ああ、右手指の奴らは好き放題動くばかり。魔王様の爪を授かっているというのに……まったく嘆かわしい話だ」
「キッシンジャーが死に、アイシクルは消息不明……我ら左手ももうボロボロだ……故に、これ以上のミスは許されない」
「なんとしても我らの手で……」
「ああ、魔王様が動き出すより前に、あらゆる憂いを絶つ。勇者を殺し、人間の国を滅ぼし、魔王様に世界を差し上げるのだ」
「それこそが我らの使命。我らの生きる、意味……」
「「――全ては、魔王様のために」」
こうして魔王十指は動き出す。
今まで外の世界で調略や計略に精を出してきた彼らは知らない。
キッシンジャーが勇者だと勘違いしたブルーノ。
彼の家族であるとある亀が、地上最強であるということを――。
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