僕が
辺境伯の怒濤のお説教が続いた。
色々と問題ばかり起こしてすみません……と平謝りすることしかできない。
「大体だなぁ……」
レイさんが揉め事を起こした時も、アイビーがアイシクルを連れて来た時も僕には謝ることしかできなかった。
またなんやかんやで辺境伯に迷惑をかけてしまうんだろうな。
そんな風に僕はどこか慣れたように、頭を下げる。
謝っている最中ふと視界の端に、マリアさんが映る。
彼女が申し訳なさそうな顔をしているのを見た僕は、なぜだか胸が締め付けられた。
ドクンと脈打つ心臓の理由はすぐにわかった。
――僕はマリアさんがそんな顔をしなくて済むように、彼女を連れてきたんじゃないのか。
(何をやってるんだ、僕は。これじゃあ肩身が狭いままじゃないか)
彼女がのびのびと暮らせるよう、平穏に暮らせるよう、僕はこのアクープの街に連れてきたんじゃないのか。
ここに来るまでのことは大体不可抗力だった。
とはいえ、断ろうと思えば断ることだってできたはずだ。
それでも僕は彼女を受け入れた。これは他の誰でもない、僕の意志だ。
だからこそ行動の責任は、僕が負う必要がある。
「辺境伯」
「なんだ?」
「安心して下さい、問題は起こしません」
「起こさない、っつってもだな……」
何か言いたげな辺境伯に、僕はたたみかける。
「もし何か起こっても、僕らがなんとかしますから。それどころか連れてきて助かったって、言わせてみせますよ」
「みいっ!」
僕の意見に賛成するように、アイビーが元気に声を張りあげる。
すると僕らの気持ちが溢れ出したみたいに、周りに強い風が吹いた。
魔法を使ったわけじゃないんだけど……どういうことなんだろ?
前髪を巻き上げられた辺境伯は、目を大きく見開いている。
隣にいるカーチャだけは、なぜかにこにこと笑っていた。
「……そうか、それだけ自信があるっていうんなら、俺はもう何も言わん」
「みっ!」
辺境伯の言葉に、アイビーがそれでいいのよ、という感じで頷く。
僕は一部始終を不安げに見ていたマリアさんの方を向いて、笑いかける。
大丈夫です、安心してください。
(それに、辺境伯に無鉄砲に啖呵を切ったわけじゃない。マリアさんをこちら側に連れてくることには、大きな意味がある)
民衆からの人気が非常に高い元聖女様。
そんな存在が手元に置いておけるというのは、為政者側からしても非常に価値があることだ。
どうやら教皇からの覚えもめでたいらしいマリアさんが住んでいる限り、アクープはそう簡単に手出しをされることはないだろうし。
何かあれば民衆の反発を受けることを考えれば、こちら側と仲良くせざるを得ないだろう。
残された手段は『漆黒教典』の奴らによる秘密裏な暗殺だろうけれど、僕らがいる限りそんなよくわからない奴らに手出しはさせない。
きっとこの世界で最も安全な場所は、アイビーの住んでいる我が家だろうからね。
教皇はもしかするとそういう意味も含めた上で、僕らに彼女のことを託したのかもしれない。
だとしたら僕らは完全に彼の手のひらの上で踊らされていることになる。
……まあ、それならそれで構わない。
僕らがマリアさんを預かるだけで両国の友好の架け橋になるのなら、それくらいは構わないというものだ。
だって……レイさんやアイシクルが逗留していて、もう既にかなりヤバいことになってるからね。
今更ここに元聖女が加わったところで、あんまり変わらないだろう。
まあ、絶対にもっと騒がしくなるとは思うけど。
少し騒がしいくらいの方が、きっと毎日楽しいだろう。
僕が笑いかけると、マリアさんはニコッとこちらに笑みを返してくれる。後ろに控えているハミルさんは、なぜか口をへの字にしてこちらを見つめていた。
なんにせよ、辺境伯からのお許しが出た。
色々としなければならない話やら手続きがあるらしく、マリアさんとハミルさんはしばらくしてから合流するみたいだ。
「諸処の雑事が終わったら、ブルーノさんの屋敷に行きますね」
別れ際の言葉に、僕は胸を張って頷いた。
――ようこそ、アクープの街へ!
ちょっと賑やかですけど、きっと気に入ると思いますよ。
ですから改めて……よろしくお願いします、マリアさん。




