帰還
アクープの街に帰ってきた。
なんだか長かったようで短かったような、不思議な感じだ。
「空気が澄んでいて、いい場所ですね……」
馬車から身を乗り出すマリアさんが、突風に揺れる髪を抑えながら目を細めた。
身に付けているのは青と白の修道着じゃなくて、少し仕立ての良い絹の服。
貴族家や羽振りの良い商家で大切にされている一人娘、って感じの身なりだ。
「聖女s……マリア様の言う通りでございます」
マリアさんの隣から同じくひょこっと顔を出しているのは、以前までの黒っぽい戦闘着からメイド服に着替えているハミルさんだ。
この街に来てからもその呼び方はマズいだろうということで道中で矯正しようと頑張ったんだけど……どうやら呼び方一つ直すのにももう少し時間がかかるみたい。
二人ともセリエから着の身着のままでこっちにやってくることになったんだけど、流石にそのままの格好だと目立ちすぎる。
というわけで道中、カーチャとシャノンさん、そしてアイビーがいくつか服を見繕い、それっぽい見た目にコーデをしたのだ。
三人の指導(?)のおかげで、今の二人はどう見ても育ちの良い貴族令嬢とそのお付きのメイドさんという感じにしか見えない。
「ハミル、しっかりしなさい。これからは二人で頑張っていかなくちゃいけないんですから」
「うぐ……わかってはいるのですが……」
ハミルさんが気まずそうな顔をして、馬車の中に引っ込んだ。
俯いていて明らかに気落ちしている様子だ。
どうやら彼女からすると、マリアさんが聖女様以外で呼ぶことに未だに抵抗が強いらしい。 まあそこらへんは二人の問題だとは思うので、時間をかけて解決してもらえたらと思う。
ごった返す雑踏に興味津々なマリアさんは、変わらず身を乗り出している。
人の口からこんなに沢山の感嘆詞が出るんだってくらい、バリエーション豊かに驚いて手を叩いたりしている。
よく見ると身体がリズミカルに揺れているので、テンションはかなり高いみたいだ。
「みいっ!」
マリアさんの後ろ姿越しにアクープの姿を見ていると、アイビーにガジガジと指を噛まれる。
どうやら僕がマリアさんに見とれていると勘違いしたみたいだ。
嫉妬しなくても、僕はアイビーしか見てないよ。
「どこ見てるのさブルーノ」
「貴様、マリア様のお尻を――ッ!」
なんだか勘違いした様子のシャノンさんとハミルさんも一緒に怒り出す。
カーチャもアイビーも、いつの間にか馬車の中に戻っているマリアさんも一緒になって騒ぎ出す。
ああでもないこうでもないと、ものすごく姦しい。
ラピスラズリの皆と一緒にいた時もそうだったけど、男一人ぼっちの空間だと、僕はいっつも悪者扱いだ。
なんという理不尽だろうか。
けれど僕は既に学んでいる。
こういう場においては、数こそが正義なのだ。
学習している僕は何も言わず、黙って相槌を打つことで嵐が過ぎるのを待つことにした。
……情けないなんて、言わないでほしいな!
今回マリアさんを連れてくることに関しては、事前にカーチャの手紙を通して辺境伯に説明をしている。
でも一度顔を合わせる必要はあるだろうということで、カーチャと一緒に辺境伯邸に向かうことにした。
「わーっ、サンシタだサンシタだ!」
「アイビーだアイビーだ!」
「おかえりーっ!」
サンシタがいる時点で僕らが乗ってることはバレバレなので、アイビーと一緒にサンシタの上に乗って皆に手を振る。
貴族街を抜けるまでは、色んな人達に対応をして過ごす。
ふぅと一息ついてから馬車に戻ると、マリアさんがにこにこと笑っていた。
「ブルーノさん達は街の人気者なんですね」
「みいっ!」
ドヤ顔で胸を張るアイビーの頭を、マリアさんがおっかなびっくり撫でる。
アイビーの方も気を許したようで、脱力してされるがままにしていた。
貴族街に入ると、人通りが少ないのでサンシタを見ても騒がれずにスムーズに移動ができるようになる。
辺境伯の屋敷につくまでは、あっという間だった。
そして話をするために向かったカーチャを出迎えたエンドルド辺境伯に、
「お前らはほんっっっっっっとうに! 問題しか起こさないな!」
と開口一番ものすごい勢いで怒られてしまうのだった――。




