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【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章

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教皇のお願い


 パーティー会場に入ると、そこは正しく別世界だった。


 どれだけ背伸びをしても届かないような高い天井に、そこを彩るキラキラとしたシャンデリア。


 なんでかよくわからないけど布を手に抱えて歩いている使用人さんに、参加者のグラスが空になったかと思うと即座に次の一杯を持ってくるメイドさん。


 あちらこちらからなんだか美味しそうな匂いが漂い、気付けばふらふらと向かっていってしまいそうになる。


「みっ!」


 アイビーの声で、僕は我に帰った。

 危ない危ない……また護衛そっちのけで、食べ物に釣られるところだった。


「にしてもこれ、首下キツいねぇ……」


 今僕が着ているのは、ぴっちりとした黒のスーツだ。

 しっかりと上までボタンを締めているのでどうにも違和感があるんだよね。


 あ、ちなみにシャノンさんに言われた裏地が赤いやつだよ。

 裏地はまったく見えていないから、やっぱり意味があるのかはよくわからない。


「そう? でもさっきああ言った手前あれだけど、結構似合ってるわよ」


 シャノンさんはグラスに入ったワインをグルグルと回しながら

 ちなみにシャノンさんが着ているのは、真っ赤なドレスだった。

 髪や目の色にもマッチしていて、とっても似合っている。

 貴族家の令嬢と言われても違和感がないくらい。


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」


「みっ!」


 アイビーが身体を前に突き出す。

 どうやら彼女も誉めてもらいたいみたいだ。


「アイビーも似合ってるよ」


「みいっ!」


 ドヤッと胸を張るアイビー。

 今の彼女は、特注で誂えられた服を身につけていた。

 甲羅の下にある彼女の身体を包むような形で、サテン生地の服を作ってもらったのだ。

 サイズがちいさいおかげで、あっという間にできたので、今回のパーティーに間に合った形である。


 アイビーはは服を着てご満悦な様子。

 楽しそうで何よりだ。

 今度、彼女がお出かけの時に着れるような服をプレゼントしようかな。


「アイビー、どれがいい?」


「みっ!」


 食事はビュッフェ形式になっていて、好きな時に好きな物を食べることができるようになっている。

 どうやらアイビーはハムがご所望のようなので、取りにいく。


 ハムにはオーロラソースのようなものがかかっていて、なんとも彩り豊か。

 ハムだけだとお皿が寂しいので、ついでにキッシュや肉料理なんかも入れていく。


「みっ!」


「わっ、わかったってば」


 アイビーに叱られそうになったので、生野菜も入れていくことにした。

 彼女は食事のバランスには一家言あるのだ。


「ほらアイビー、あーん」


「みぃーっ」


 アイビーは普段なら魔法を使って自分でご飯を食べるけど、この場であんまり目立ちすぎるのは良くない。

 というわけで久しぶりに、僕はアイビーにご飯を食べさせてあげることにした。

 楊枝に刺して、ハムや野菜なんかを口許に運んでいく。

 口を汚すことなくお上品に食べるアイビー。


 僕も合間を見て、料理を食べる。

 なんというか……全体的に薄味だった。お上品な味、って言えばいいんだろうか。

 冒険者の濃ければ濃いだけいいというご飯に慣れてしまっているせいか、なんだかあまり食べた気がしない。


 とりあえずご飯を済ませたら、カーチャを見てくれていたシャノンさんと交替。今度は彼女が食事を摂る番だ。


「これはこれはエカテリーナ様、遠路はるばる……」


「いやいやメルゼ嬢、ご機嫌麗しゅう……」


 カーチャはやってくる人達を誰一人として拒まず、更には自分から積極的に話しかけにも行っていた。

 老若男女の別なく笑顔を振りまく様子に、ほっこりする人が続出している。


「先ほど食べたブルーベリーが、とても美味しかったのじゃ! あれはたしかリーム卿が治める教会領で作られたものじゃろう?」


「おおっ、よくご存じで。我が領では他にも――」


 事前に情報を覚えておいたらしく、初対面の人とも色々と突っ込んだ話をしている。

 会う前から特徴から何から覚えておくなんて、すごい記憶力だ。

 方向音痴の僕も見習いたいところである。


 でもこうして見ていると……馬車の中で緊張していたのが嘘みたいだ。

 社交界、百戦錬磨ですわ感がすごいもん。


 とりあえず障壁だけは張っているので、安心安全。

 僕らは他の護衛さん達と比べるとゆるーっとした感じで、カーチャの護衛を続けていた。


 するとすすーっと、一人の男の人が近付いてくる。

 年齢は五十代くらいだろうか。護衛も供回りもつけていないし、偉い人達が被っている縦長帽なんかもつけていない。

 恐らく、そこまで立場のある人じゃないんだろう。


 もちろんカーチャのように事前知識があるわけでもない僕は、とりあえず曖昧に微笑んでおく。

 そしてなんとかこの場を切り抜けようとしたんだけど……。


「どうも、ブルーノ殿にアイビー殿。セリエ宗導国の教皇をしている、ラドグリオンⅦ世と申します。どうか気軽にラディと呼んでください」


「な――もががっ!?」


「みっ!」


 叫び出しそうになった僕の口を、アイビーが出した魔法の手が抑える。

 あ、ありがとアイビー。

 おかげで大声を出さずに済んだ。


「あ、ちなみに今はお忍びで来てますので、ホントに気にしなくて結構ですよ」


「いっいえいえ、教皇猊下相手にそんなフランクに話せるわけないじゃないですか!」


「私はボルゴグラード助祭の私的な友人という形で参加していますから、フランクに接してもらえた方が都合が良いのです」


「そ、それじゃあ……ラディさんでお願いします」


 小声でやり取りをする。

 周囲の人間に、教皇の正体に気付いている様子はない。


 たしかに僕も、王様の顔なんか一度も見たことない。

 こうやって普通にお供もつけずにいるなんて、普通は考えないもんね。


 でも教皇様がどうしてこの場所に。

 というか、なぜ僕に話しかけにきたのだろう。


「もちろんエカテリーナ嬢にも後で話はします。けれどまず最初に、ブルーノ殿と話がしたいと思いまして」


「……僕と、ですか?」


「ええ、うちのスウォームが本当にご迷惑をおかけしました。王国との戦争になっていたかもしれないと後から報告を聞いた時は、本当にびっくりしましたよ」


 スウォームっていうのはたしか……魔王十指に操られてたっていう枢機卿の人だよね。

 あの人がはっちゃけたせいで、セリエの中は相当ぐちゃぐちゃになっているってと聞く。


 見れば教皇は明らかに顔色が悪く、目の下の隈も酷いことになっていた。

 ガタガタになってしまったセリエを立て直すため、色々と頑張っているんだろう。


「みっ!」


 アイビーも同じことを思ったのか、教皇に回復魔法をかけてあげようとする。

 あ、でもこれは……と僕が止めようとするより、彼女が魔法を使う方が早かった。


「これは……ラストヒールですか」


 アイビーが最上級回復魔法が使えることが、一瞬でバレちゃったーーっ!?


「みみっ?」


 『あれ、私何かやっちゃいました?』という感じで首を傾げるアイビーを見て、教皇が笑う。

 回復魔法を受けたおかげで、明らかに血色が良くなっていた。


「いやはや、色々と話は聞いていたのですが……やっぱり実際、会ってみるものですな」


「そう……ですか?」


「ええ、よぉくわかりました。少なくとも王国と事を構えるべきではないということがね」


 小さく頷く教皇様。

 その様子は威厳ある王様というより、孫の話を嬉しそうに聞くおじいちゃんみたいだった。

「ブルーノ殿、そしてアイビー殿。実は私がここにやって来たのは、あなた方にお願いがあるからなのです」


「僕達に、ですか?」


「み?」


 教皇様が、僕らに会うためにわざわざ皇都を出てこのアリストクラーツの街にまでやってきたってこと……?

 だとしたら多分……というか間違いなく、碌でもない理由な気がするんだけど……。

 そんな僕の懸念は、見事的中することになる。


「先々代聖女、マリア・ヴォラキア……彼女をこのセリエから、連れ出していってはくれないでしょうか?」

 

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