泡
パーティー会場は泊まっている宿を少し離れたところにある、ボルゴグラード男爵の屋敷にある。
手配してもらった馬車に乗り、会場へと向かう。
「……」
外を見つめていたカーチャの顔は、緊張で強張っていた。
その横顔を見ながら、僕は自分に言い聞かせる。
言動で忘れてしまいそうになるけれど、彼女はごくごく普通の女の子。
他国の重鎮なんかと話すんだから、緊張するのも当たり前。
だから年上の僕達が、フォローしてあげなくちゃ。
「大丈夫だよ、僕らがいるから」
「みぃっ!」
僕の肩に乗ったアイビーも頷いてくれる。
アイビーは何を思ったのか、魔法を発動させる。
現れたのは――ぷかりぷかりと浮かぶ泡だった。
水魔法で作られた泡は宙を舞い、キラキラと光っている。
「すごい綺麗ね……」
「――わっ! ブルーノと妾じゃ!」
感嘆するシャノンさんの隣で、カーチャが指を差す。
その先にあるのは――僕とカーチャにそっくりな泡だった。
祭りで出るお面のような、ちょっとデフォルメされた感じの僕達の顔が浮かんでいる。
「みっ!」
アイビーが気合いを入れると、その隣にまた新たな泡ができていく。
シャノンさんにサンシタ、そしてアイビー。
他の人達は皆顔だけだけど、なぜかアイビーだけ全身モデルだった。
そしてなぜか、アイビーだけ実物よりかなり美化されているような気がする。
アイビー、君……こんなに目もキラキラしてないし、足も長くないよね?
「……みっ!」
僕が顔を向けると、アイビーはぷいっと顔をそらしてしまう。
どうやら彼女の機嫌を損ねてしまったらしく、その頬はぷくっと膨らんでいた。
僕らのやり取りを見ていたカーチャが、ぶふぉっと乙女が出しちゃいけない音を鳴らしながら、おもいきり噴き出した。
「ふふっ……」
そして少し落ち着いてから、口に手を当てて上品に笑う。
いつものように自然で、どこか人好きのする快活な笑みだ。
どうやら、肩から力が抜けてくれたみたいだ。
アイビーの頬を押しつぶすと、ぽひゅっと情けない音が鳴る。
機嫌が直ったのか、こちらに振り向く彼女。
その顔は、仕事で疲れたくたびれた中年のおじさんみたいだった。
「突然の変顔っ!?」
「ぷっ」
今まで我慢していたシャノンさんにもとうとう限界が来た。
そして僕とシャノンさんが笑っているのを見て、カーチャはまたお腹を抱えて笑い出す。
「あっはっは……ありがとうな、二人とも!」
どうやら緊張は完璧にほぐれたらしい。
既に顔を戻しているアイビーにグッと親指を立てると、彼女が前足を上げた。
僕はその意に沿って、彼女に向けてハイタッチ!
やったねアイビー、僕らの勝利だ!
勝利の余韻に浸りながらシャノンさんと目を合わせると、なぜかウィンクされた。
……それ、どういう意味ですか?
馬車の中の雰囲気が、一気に和やかムードに一変した。
このままパーティーに一生着かずに、馬車の中で一日を過ごしてしまえればいいのに。
思わずそう考えてしまうほど、中は快適な空間に早変わりしていた。
「それにしても似合っておるのぉ」
「いやあ、それほどでも……」
「ブルーノではない、アイビーの方じゃ!」
「勘違いする男って、痛々しいわよね……」
カーチャ、シャノンさん、そしてアイビー。
向けられる三対のジト目。
そ……そんな目で見ないでってば!
僕が、僕が悪かったです!
とまあそんな具合で僕が悪者になったりならなかったりしながら、道中の時間を楽しく過ごし。
こんな風に何事もなくパーティーが進めばいいなと思っていたんだけど……。
「どうも、ブルーノ殿にアイビー殿。セリエ宗導国の教皇をしている、ラドグリオンⅦ世と申します。どうか気軽にラディと呼んでください」
――どうしてパーティーに教皇様がいるのさ!?
そして彼……なんだかとってもフランクなんだけど!?
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