歓迎
「おい……今の見たか? あ、あれどうみてもプラズマブレス……」
「じゃああのアイビーは……亀じゃなくて、ドラゴンなのか?」
「俺に聞くなよ、わかるわけないだろ」
勝利の余韻に浸ることもなく呆然としていると、ひそひそと話している声が聞こえてきた。
ゼニファーさんからの知識を参照すると、ブレスというのはドラゴンが吐き出す特殊な吐息のことだったはず。
火を噴いたり、氷の吐息を出したり、雷を吐き出したり……みたいな。
確かにアイビーの攻撃はブレスみたいだけど、ブレスじゃない……はずだ。
だって通常、ドラゴンはブレスを一種類しか打てない。
でもアイビーってもう五種類くらい、あの攻撃にバリエーションがあるしね。
ていうかそもそも、アイビーはドラゴンじゃない。
フォルム的にどう考えても亀じゃないか。
「か、回復班! 急いでギルマスを治して!」
シンディさんが大声で叫ぶと、白いローブを着た人達がこちらへ走ってきた。
回復魔法をかけてくれようとしているみたいだ。
僕たちが倒しちゃったのに、手間をかけさせるのはなんだか罪悪感を感じてしまう。
「みー」
どうやら僕と同じ気持ちだったようで、アイビーが魔法を使ってくれた。
うつぶせに倒れて全身からブスブスと煙を出しているアンドレさんの全身に、ライトブルーの光が降り注いだ。
「なっ……回復魔法まで!? しかも後頭部の火傷が一瞬で治ったぞ!?」
「さっき飼い主守るために障壁出してたのもあいつだろ? 一体どれだけ多彩なんだ……」
皆がアイビーの多芸っぷりに驚いている。
ふふっ、そうだろそうだろ。
彼女は凄い子なのさ。
「みー」
心なしか、アイビーも鼻高々な様子だ。
確かに彼女は今まで、人に自分の力を見せる機会はほとんどなかった。
図らずもこの場所は、アイビーの力のお披露目会になったわけだ。
「う……ここは……?」
アイビーが僕にじゃれついて、その大きさのまま僕の肩に乗ろうとしていると、アンドレさんが目を覚ました。
僕より大きいんだから乗れるはずがないのに……アイビーって時々、信じられないほど頑固になるんだよね。
「そうか、俺は負けたのか……半端ないな、アイビーは」
「アンドレさん目線で、どれくらいの強さだったでしょうか?」
まともな尺度を持っていない僕では、アイビーの強さを図ることができない。
どれくらいの強さの魔物がどんなことをできて、その中で彼女がどれくらいの位置にいるのか。
ゼニファーさんが披露する魔物トークしか知識のない僕には、あまりよくわかっていないのだ。
「いや、普通に単体で二等級はいけるだろうな。一等級でも問題ないかもしれん」
「――え、えぇっ!? 一等級って冒険者で一番上ってことですよね?」
一等級冒険者、というものがどれくらい強いのかは知らないけど、トップにいるってことは相当に強いはずだ。
アイビーって……そんなに強いの?
正直半信半疑だけど……でもたしかに、元二等級のアンドレさんを倒したし。
そのアンドレさん本人からもこうして太鼓判を押されているってことは、そういうことなんだよね。
「価値は示せた……ってことで、問題ないでしょうか?」
「ああ、示しすぎなくらいさ。うちは基本的に強い奴は大歓迎。こんな強力な従魔を手懐けたブルーノもひっくるめて、俺らはお前らを歓迎するぜ。………なぁ、そうだろっ、皆!?」
アンドレさんがぐるりと周囲を見渡している。
皆はガンガンと、何かの合図のように自分達の胸を打ち鳴らした。
「当たり前よぅ、強ぇ奴は誰でも大歓迎さ!」
「畜生、賭けにゃ負けたがすんげぇ新人が入ってきたからプラマイゼロだ!」
「歓迎はするけど、私達の仕事は取らないで欲しいかなぁ」
「お前のおかげで今日は高級娼館に行けるぜ、ありがとよ!」
観戦していた人達が思い思いに言葉を発している。
中には買った賭け札がただの紙切れになったのに悲しんで地面に膝をついてる人もいたし、何やら凄い新人が来たぞという風にしたり顔をしている人達もいた。
一番奥の方では、僕の勝ちに全財産をぶっ込んだ人が狂ったように笑っているのが見える。
全体で見ると、歓迎されている……と思う。
強ければ歓迎される。
ゼニファーさんが言っていたことは正しかったみたいだ。
そして冒険者達の先輩達に、アイビーが強くても怖がっているような雰囲気はない。
この感じなら、村の人達みたく無視されたりはしないで済みそうだ。
おっきな土地でも借りて、ゆっくりできたらいいね、アイビー。
「よろしくお願いします!」
「みー!」
僕たちが声を揃えて挨拶をすると、わあっと歓声が返ってきた。
こうして僕らの初戦闘は、皆に認めて貰えるというおまけもついて、大成功のうちに終わったのだった――。
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