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【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第3巻2/25発売!!)
第二章

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厩舎にて


 その日の夜、カーチャはボルゴグラード男爵が開くパーティーへと招かれることになった。

 それが終わったら次の日にはアリストクラーツを出発して更に北へ行き、イシュテートという街へと向かう。

 そこで待っているらしい枢機卿の一人に会ってパーティーをし、後は南下して王国へ帰って終了という日程らしい。


 カーチャはまだ成人していないし、辺境伯から決定権を渡されたりしているわけでもない。


 なので今回は純粋な親善、カーチャはただ本当にセリエの人達と仲良くしているだけでいい。

 有力者たちとの顔繋ぎと、今後も仲良くしましょうというのが目的だからね。

 馬車の速度なんかにもよるだろうけれど、あと半月前後は覚悟してほしいと言われた。


 もちろん僕的にもアイビー的にもまったく構わない。

 たしかに慣れていないベッドと枕で寝るのはちょっと慣れないけど、正直旅行気分でなんだか楽しいし。


 けれど実はそんな旅路に異議を唱える者が一人いた。

 そう――サンシタである。




【うう、あっし、つらいでやんす……】


「よしよしごめんね……」


【いくらなんでも暇すぎるでやんす! なんとかしてくだせぇ、ブルーノ兄貴!】


 厩舎の中で一人黄昏れていたサンシタが、僕がやって来るとものすごい勢いで飛び出してきた。

 本人が言っている通り、相当暇だったんだろう。


 ……見知らぬ土地に来て興奮してたせいで、昨日来るのを忘れちゃっていたという事実は、僕の心の中にしまっておこうと思う。


【……なんかめっちゃ監視もついてやすし。あいつら時々入ってくるんで、なかなかぐっすり眠れないんすよ……】


「……ごめん」


 そう、アリストクラーツの街に来てからというもの、サンシタは街中に出歩くこともできなければ、空を駆けることも許されていない。

 いくら従魔とはいえ、グリフォンを連れ回したりする許可が出なかったのだ。


 おまけに今、厩舎の近辺には明らかに警戒している様子の男達の姿がいくつも確認できる。

 いかにも武人って感じのゴリマッチョ達だ。

 実際の強さはわからないけれど、あんな人達に常に見張られているとなると、たしかにサンシタとしても気が気じゃないだろう。

 ストレスがたまるのも当然のことだ。


 エンドルド辺境伯が豪放な人だからつい忘れていたけれど。

 本来ならグリフォンっていう一等級の魔物は、領主からすると最大限警戒しなければならない凶悪な魔物なのだ。


 僕らの感覚が、ちょっと麻痺しているだけで。

 きっと街中での着陸許可を出すエンドルド辺境伯がおかしくて、こっちの対応の方が正常なんだろう。


 大変申し訳ないけれど、サンシタには我慢してもらうしかない。

 ただの護衛の僕にできることはほとんどないのだ。


「とりあえず明日になったら外でのびのびできるから、今日はなんとか耐えてね」


【後生でやんす! 後生でやんす!】


「――みっ!」


 先ほどまで何も言わず黙っていたアイビーの一喝。

 その衝撃は厩舎全体に伝わり、先ほどまでぶるんぶるんと興奮していた馬達も、すがるように叫んでいたサンシタも、あらゆる生物が一瞬で声を失った。


「みみっ!」


 バチーン!

 アイビーが魔力で作った手で放った渾身の張り手が、サンシタに突き刺さる。

 ほっぺたを真っ赤に腫らし痛いでやんす……と呟くサンシタを、アイビーはキッと睨んだ。


【――ハッ!】


 そしてサンシタは、大きく目を見開いてブルブルと震えだした。

 どうやら何かに目覚めたみたいだ。


【なるほど、つまり……この環境すら修行と思えないようじゃ、あの女に勝つのは無理ってことでやんすね!】


「みぃ」


 サンシタはそれだけ言うと納得し、黙って瞑想を始めてしまった。

 さっき僕に泣きついていた時の様子が嘘のように、呼吸音すら押し殺して意識を没入させている。


 何がなんだかわからないうちに、アイビーの鶴の一声で自体が解決したらしい。

 どうやらレイさんへのライバル意識を焚きつけてなんとかしたみたいだ。

 さすがだね、アイビー。サンシタの操り方というものを、よく理解している。


 僕はとりあえず平常心を取り戻したらしいサンシタを置いて厩舎を出る。

 するとそこには、ひっくり返って気絶しているサンシタの監視役達の姿があった。


「みっ」


 ぱちりとウィンクをするアイビー。

 どうやらサンシタに喝を入れたあの瞬間、彼らにもちょっとお灸を据えたらしい。


 たしかに監視するっていったって、何もサンシタにストレスをかけるやり方を選ぶ必要はないもんね。

 もうちょっとやり方を選んでくれれば、サンシタの安眠が妨害されることはなかったはずだし。


 ただサンシタを言いくるめるだけで終わらないところが、アイビーのアイビーたる所以である。


 サンシタ、窮屈な思いをさせちゃってごめん。

 明日街を出たら、また一緒に空を駆けようね。





 とりあえず時間が空いている今のうちに、パーティーで着るための正装を用意しなくちゃいけないんだけど……サンシタが喜ぶようなお土産でも買ってきてあげよう。

お知らせ


サンシタのセリフを【】に変更いたしました。


引き続きよろしくお願いします!

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