マリア
自分に宛がわれた部屋になんとか辿り着いた僕は、中に空気しか入ってないんじゃないかというほど軽い布団に包まれながら一瞬で眠りについた。
そして朝になって起きてみると、何故か抱き枕サイズのアイビーが僕の隣で眠っていた。
どうやら護衛の役をシャノンさんに代わってもらい、眠りに来たらしい。
二度寝をしてから彼女と戯れ、すぐにカーチャの下へ向かう。
僕とは違って道を完璧に覚えられているアイビーに従いながら進むと、すぐにカーチャの部屋に到着。
既に朝ご飯を食べ終わり、紅茶を飲みながら一服していた彼女に昨日あったことについての説明をする。
するとすぐに答えが返ってきた。
「ふむ、その人物は間違いなく先々代の聖女マリア・ヴォラキアじゃろうな」
「先々代の聖女、マリア・ヴォラキア……」
先代じゃなくて先々代なんだね。
まだ彼女は僕とそれほど年齢が変わらないようにも見えたけど……。
「うむ、年齢自体はたしか二十歳前後だったと思うぞ」
「それだと少し年上なぐらいだね……」
セリエの聖女様っていうのは、そんなに頻繁に変わるものなんだろうか。
うちの聖女様は少し前に代替わりをしたけれど、先代の聖女様はたしか結構なご高齢だったはず。
でも今でその年齢ってことは、聖女だった時はもっと若かったはず。
今の僕とそんなに代わらない年齢で責任ある立場にいるっていうのは、一体どんな気分だったんだろう。
「みぃ」
アイビーは胸を張っていた。
どうやら私の方が若いよ、と主張しているみたいだ。
「みぃ~……」
かわいいやつめと額をつんつんしてやると、気持ちよさそうな声をあげてぐてーっと身体を預けてくる。
「相変わらず……」
「仲が良いわね……」
僕らの代わりに護衛をしてくれていたシャノンさんとカーチャの視線を浴びながら、笑い合ってこくりと頷く。
そう、僕らは実はとっても仲良しなのだ。
「ちなみに、今代の聖女様は何歳くらいなんですか?」
「今代の聖女アリエスは十九、先代の聖女ミルドラは十八じゃな」
「皆ずいぶんと若いですね……」
うむ、と頷いて腕を組むカーチャ。
彼女にしては珍しく眉間に皺を寄せながら、口をへの字に曲げている。
「前に政変があったと言ったじゃろう? あまり詳しい事情は漏れてこない故わからんのじゃが、枢機卿の一人がかなり無茶苦茶しておったらしくてな。先々代の聖女マリアはそのゴタゴタで引きずり下ろされたし、そいつが推していた先代聖女はそいつが失脚するとすぐに権力の座から引きずり下ろされた。そして現在はどこにも紐のついていない少女が聖女をやっているというわけじゃ」
「なるほど……」
「みぃ……」
聖女っていうのは本当に立場のある人間なんだろうか。
いや、あんな風に強そうな護衛に守られているから、間違いなく立場はあるんだろうけど。 でもセリエにおいては、聖女っていうのは簡単にすげ替えられるようなものってことだよね。
政治に振り回されて、バンバン交替しちゃうってことは、立場が強いわけではなさそうだし。
あのマリアさんは、聖女という立場のことをどんな風に考えているんだろう。
案外、聖女って役目から降りることができて幸せに暮らせているのかも……なんていうのは、僕の勝手な想像というか、そうあってくれたら嬉しいなっていう願望だけど。
少なくとも今の生活に満足しているような様子だった。
護衛は物騒だったけど、彼女はどこか抜けていて人がよさそうだったから、また下手に誰かに利用されないような人生を歩んでくれたらと思う。
「でも同じ宿泊施設に泊まっているっていうのに、カーチャに連絡がいかなかったのは不思議だね。先々代とはいえ聖女様なんだから、挨拶くらいはしといた方が無難だと思うけど……セリエだとまた違うのかな?」
「ふむ、今の妾にはなんとも言えんが……」
そう言うとカーチャはじっとこちら……僕とアイビーのことを交互に見て、
「案外妾ではなくブルーノたちに接触するのが目的だったりしてな?」
「まさか、そんなわけ……」
カーチャの言葉を笑い飛ばそうとした僕だけど、別れ際のマリアさんの言葉を思い出すと、笑みは引っ込んでしまった。
『はい……それでは、また』
まさか……まさかね。
そんなわけはないだろうと思いつつも、僕はカーチャの予想を強く否定することのできぬまま、ポリポリと頭を掻くのだった――。
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