ぶつかる
色々と露店で食べて回ってから屋敷へと戻る。
中へ入るとさっき来てくれた女剣士とおじいちゃんが出迎えてくれた。
「……」
女性の方からはかなりきつめな視線を感じたが、苦笑でなんとかやりきって中へ入る。
「食文化の違いは、文明の発展度合に通じるものがある。セリエは王国より広く、そして歴史も長い。やはりそれだけの重みがあると感じたのじゃ」
「調味料なんかはとにかく種類が多いし、肉料理から魚料理まで幅が広い。特に魚は干物ではなく生のものも流通していた。やはり輸送手段が確立されているんじゃろうな」
「そして食材の値段も安く、それに加えて……」
カーチャの言葉を聞いているうちに、なんだか眠くなってきた。
思えば道中お昼寝をすることもできなかったし、夜に寝たのも寝袋だったから、快眠とは言いがいし。
異国にやって来た疲れがドッときたのもあるかもしれない。
張っていた気が緩んだせいで、とにかく頭がぼーっとしている。
「……って、ブルーノ……大丈夫か?」
「え? ああ、はい……問題ありません」
「みいっ」
アイビーが回復魔法をかけてくれると、幾分か頭がしゃっきりした。
けど疲れは完全には取れなかった。
多分疲れの種類が、肉体的というより精神的なものだからだと思う。
「まあ、いい。ふわあ……たしかに今日は、妾も疲れた。とりあえず使用人達に着替えさせてから寝るから、後は好きにしていいぞ」
本当なら不寝番よろしく立ってた方がいいんだろうけど、疲れて護衛の役目がまっとうできなかったら本末転倒だよね。
「みいっ」
私が見ておく、とアイビーがちっちゃな胸を張った。
そしてふよふよと浮き、カーチャの肩に乗っかる。
いつもより肩幅が狭くて最初は少し戸惑っていたけど、そこは流石アイビー。
すぐに適応して、すちゃりと四本の足で肩の上でバランスを取ってみせる。
「アイビーがいれば十分じゃ、ブルーノは今日はもう下がってよいぞ」
「はい、では……そうさせてもらいます」
折角カーチャもこう言ってくれるんだし、大人しく護衛用の部屋で休ませてもらうことにしよう。
あくびをしながら、ホテルの中を歩いて行く。
何度か往復したし、道を覚えるのが苦手な僕も流石に覚えたとばかり思っていたんだけど……。
「ここ、どこだろう……?」
道に迷ってしまった。
自慢じゃないけれど、僕はかなりの方向音痴である。
何度か通ったところであればいくつかのポイントを覚えて大体の行き方はわかるんだけど……似たような光景が続く屋敷の中だと、どうしても迷ってしまう。
道行くメイドさん達はにこやかに礼をしてはくれるけれど、僕に道を教えてはくれない。
そして僕は美人に声を出して話しかけられるような勇気はない。
なので結果として誰にも道を聞くことができず、あてのない旅を続けているのだった。
「ん、あれは……」
そこには観音開きになっているドアがあった。
そしてその先には、外の世界が広がっているのが見える。
どうやらバルコニーみたいだ。
あそこから外を見れば、今自分が居る位置がわかるかもしれない!
一縷の希望を見つけた僕は、小走りで駆けていく。
そして外の景色を見るために一歩踏み出すと……。
「――きゃっ!?」
「わわわっ!?」
勢いよく飛び出してきた女性と、思い切りぶつかってしまうのだった――。
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