世界は広い
まず最初に感じたのは、顔立ちの違いだった。
王国と比べると少し深い……というか、パーツの一つ一つがしっかりとしているような気がするのだ。
次にやってきたのは、感じたことのない匂い。
スパイシーというかなんというか……鼻の奥がツンとするような不思議な匂いがしてくる。 匂いの元は屋台だった。
けれど露店がいくつも並んでいることもあり、どの店なのかはわからなかった。
カーチャについていく形になるので、あまり立ち止まってじっくり観察するわけにもいかない。
後で自由時間があるだろうから、それまではざっくりとした見学だ。
「おい、あれ……」
「なんだ? ――ってあれグリフォンじゃねぇか!」
「いや、俺が見てたのはあの亀の方なんだけど……グリフォンなわけあるかよ、なんかそういう見た目の魔物だろ」
「そうかなぁ……ってなんだあの亀、たしかに気になる。ちっちゃいが、なんだか存在感がすごいな。不思議と目が離せなくなる……」
歩いていると、露店に群がっている人達の中に、冒険者パーティーがいるのが見えた。
こちらを指さしながら、何やら元気に騒いでいる。
ちなみに内容は全部聞こえてます。
このグリフォン、こう見えて本物だよ。
どうやらサンシタは、冒険者目線でもグリフォンには見えないようだ。
野性をどこかに置いてきてしまっているサンシタに明日はあるのだろうか。
【腹が減ってきたでやんす!】
匂いを嗅いでなんだか物欲しそうな顔をしているサンシタにとりあえず干し肉をあげると、【美味いでやんす!】と美味しそうに頬張り始めた。
楽しそうで何よりだ。
彼には彼の人生……グリフォン生を生きてほしいと思う。
「みいっ!」
アイビーは目が離せないと言われて喜んでいた。
かわいいね。
「何しとるんじゃ、ブルーノ」
「あっ……すみません!」
「まったく……お前達は妾の護衛なんじゃぞ……」
気付けば僕らは、あちこちへ目が移りふらふら歩いてしまっていたらしい。
声を聞き振り向いてみると、後をついてこなくなった僕達を不審に思ったカーチャがぷりぷりと怒っていた。
「ご……ごめんなさい」
「みぃ……」
【肉が美味いのが悪いでやんす……】
僕らは揃って謝った。
たしかに護衛なのに気を抜きすぎだよね。
もうちょっとちゃんとします……。
ボルゴグラードさんに急ぎ追いついた僕らが案内されたのは、これから数日の間お世話になる宿泊施設だった。
「すごい……なんだか全体的に白塗りだ……」
今回泊まるのは、セリエ相導国にやって来る賓客に泊まってもらうためのホテルということだった。
大きさも広くて、隅の方を見てもほこり一つ落ちていない。
エンドルド辺境伯の屋敷もたしかに立派だけど、正直綺麗さとか立派さで比較したらこっちの方がすごいかもしれない。
ホテルに入る前に、サンシタとは一旦お別れ。
彼はテイムされた魔物なので、厩舎に入ることになるようだ。
悲しそうな顔をしてこちらを見つめてくるサンシタに手を振り、ホテルへと入る。
するとまず目に入ってきたのは、大きな噴水だった。
すごい……この水、どうやって引いてるんだろう。
魔法で動かしてるのかな。
「みいっ?」
『水浴びしてもいい?』とアイビー。
もちろんダメなので、僕は静かに首を振った。
アイビーは少しだけシュンとした。
そんなに落ち込まないで、あとで一緒に外を見に行けばいいさ。
案内されるまま中へ入り、フロントの人に言われた通りの順序で歩いていく。
階段を上っている時も、廊下を歩いている時も、すれ違ったホテルの人達は皆一様に深く頭を下げてくれる。
ここにずっといたら、自分が偉い人にでもなったかのように勘違いしてしまいそうだ。
恐縮しながらもカーチャについていく。
僕らは護衛なので、基本的にはカーチャの部屋の前で待機だ。
護衛用の部屋はあるらしいので、結界を張って出掛けたりすることは問題なくできるだろう。
「少々待つのじゃ」
部屋に入ると、中に使用人を呼び何かを始めるカーチャ。
多分今の外向けのドレスから、過ごしやすい室内着にでも着替えているんだろう。
ぼーっとしながら着替えが終わるのを待つ。
女の子の着替えってどうして長いんだろうねと疑問を呈すると、アイビーにガジガジと指を噛まれた。
どうやらそこは触れてはいけない部分らしい。
あくびをしながら待っていると、ようやく扉が開く。
そしてその先には……おろおろする使用人と、何故か使用人のメイド服を着たカーチャの姿があった。
「よし、今からこの街の実地調査をするぞ! アイビー、ブルーノ、ついてくるのじゃ!」
これは……さすがにちょっと予想外だな。
けれど折角のお姫様のわがままだ。
僕らは頷き合ってから、カーチャと一緒に行動を開始するのだった……。
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