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【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第二章

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現実逃避


 次の日、僕達は街を出て目的の場所であるアサイーの森へとやってきていた。


 どうやらそこそこ優良な稼ぎどころらしく、歩いているとちょいちょい冒険者の人達とすれ違う。

 周囲を警戒しながら進んでいる冒険者の人達の装備を確認する。


 うん、少なくとも……一流どころの面子が気合いを入れて攻略するような場所ではないようだ。


 なんとなく所作を見ているだけでも、彼らがレイさんやシャノンさんに並ぶ実力者には見えないし。

 けれど装備なんかはしっかりと整備が行き渡っている。

 鎧にもいくつも傷痕があるけれど、よく見れば細かく補修されているようだし。


「なんだ坊主、ジロジロ見やがって」


「喧嘩なら買うぜ? ……つってもそんな薄っぺらい服しか着てねぇやつと戦って勝っても、何一つ自慢なんかできねぇけどな」


 鎧で動きが鈍くなるより、結界を維持したまま高速移動ができるようになった方がいいという提言から、僕は着の身着のままの格好だ。

 一応そこそこいい絹の服ではあるんだけど、下手に目立ちたくないからそこまで高級なものを使ってはいない。

 麻の服より着心地がいいから、僕的にはこれで十分だったりする。


 彼らは僕のことを貧乏だからなんとか薬草採取でもしないと食べていけないような見習い冒険者だと思ったらしい。

 かわいそうなものを見るような目で見てから、はんっと鼻で笑ってきた。


「うちのメンバーに何か用か?」


「へ……? ああいえ、なんでも……メンバー?」


「え、あの人ってローガン様じゃ……そっくりさん?」


 冒険者の男は僕を指さして、レイさんを指さして、そしてレイさんの後ろにいるローガンさんの方を指さした。

 明らかに僕だけが浮いてる、と言いたいんだろう。


「亀……?」


 冒険者の男達は三人組だった。

 そのうちの一番後ろにいた魔法使いの男が、僕の肩のあたりを指さす。

 そこには『やってやるわよ!』とでも言いたげな様子で小さな手でパンパンと僕の肩を叩くアイビーの姿があった。


 おいおい、ここはペットの遊び場じゃねぇぞと三人が笑い出す。

 僕は別に何も言わなかった。


 冒険者は舐められない方がいいとはよく聞く話だし、僕もそう思っていたんだけど……最近はちょっと考え方が変わってきた。


 下手に実力を出して目立ったり怖がられたりするくらいなら、ちょっとバカにされるくらいでちょうどいいと、そんな風に思うようになってきたのだ。


「ちょっとお前達、いい加減に……もががっ」


「あはは、そうですね~」


 僕は何か言いたげな様子のレイさんの口を押さえながら、適当に相槌を合わせていた。


 馬鹿にされても逆上しない僕のことを、噛みつく価値もない人間と考えたからか、冒険者の人達はすぐに森の奥深くへと消えてしまった。


 彼らの姿が見えなくなってからしばらくして、レイさんの拘束をとく。

 ぷあっ、と潜水を終えて起き上がったみたいな様子のレイさん。

 どうやらかなり怒っているようで、眉間にシワが寄っていた。


「ブルーノ、お前はそれでいいのか!」


「いいって……何がですか?」


「舐められたままでいいのかと聞いている」


「え、別にいいですけど?」


「なんだと!? どうしてだ!」


 別に舐められて実害があるわけじゃないしね。

 そりゃアイビーとか僕に危害が加わるっていうんなら話は変わるけど、ああやって口で喧嘩をふっかけてくるような人達に実際に襲いかかってくる度胸はないと思うし。


 レイさんが納得していない様子だったが、ローガンさんの方はうむうむとしきりに頷いていた。


「ブルーノ殿には自分の芯というものがある。だから他人の評価などでは揺れぬのだ。レイよ、お前に言うことではないのかもしれないがな……己の根っこにあるものというものがあるかどうかで、人間の価値は大きく変わる。お前にもいずれ……見つかるといいのだがな」


「ローガン師匠……」


 レイさんとローガンさんが何か大事そうな話をしていたので、僕とアイビーは務めて耳に入れないようにしていた。


 だって多分――ローガンさんってあの『龍騎士』ローガン本人なんだもん!

 あの冒険者の人の反応見て、点と点が線になったよ!


 時たまちらちらと見られてたのは、アイビーが珍しかったんじゃなくてローガンさんが有名だったからだったってことでしょ!?

 

 というかレイさんも、なんでそんな有名人が師匠なのさ!

 いきなり一緒に行動するなんてハードルが高すぎるし!


 でも彼女が何者なのかは絶対に聞かないよ!

 もっとめんどくさいことになるって、僕の第六感が囁いてるからね!


「ぎゃあああああああああ!!」


 内心でため息を吐きながら進んでいると、森の奥から悲鳴が聞こえてきた。

 聞き覚えのある……というかさっき僕らに話しかけてきていた冒険者の男の人の声だ。


 二人が何か言い出すより速く、僕とアイビーは助けに向かうことにした。

 余計なことを考えないように、とりあえず身体を動かして全てを忘れてしまおう。

 うん、そうだ、それがいい。


「みぃみみぃ……」


 現実逃避もほどほどにね、というアイビーのありがたい忠告に苦笑しながらも、僕は更に加速するのだった。

 アイビー、男にはね……全てを忘れたくなる時ってやつがあるのさ。

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