何者
結局レイさんはアイビーが預かることになった。
でもどうやらレイさんはレイさんでかなり忙しいようで、たまにここに遊びにくるような形になった。
こちらにやってきた時には、アイビーが修行をつけてあげるような形だ。
そして時たま、僕がレイさんの相手をしたりもするようになった。
おかげで僕の方も、普段することのなかった強い人との戦闘経験というやつを積めるようになった。
アイビーは、僕と戦うのだけは絶対に嫌がる。
前に一度だけ戦ってみたことがあるんだけど、アイビーの魔法が僕に切り傷をつけただけで、彼女は取り乱して泣き出してしまった。
彼女の性根は優しいのだ。
本当に優しいんなら心を鬼にして僕を鍛えるべきだなんて考えもあるかもしれないけれど、僕はそうは思わない。
アイビーは人によっては甘いと思ってしまうくらいに優しい。
だから大切な人を、たとえ訓練だろうと傷つけたくないのだ。
そしてきっと、そんなことをしなくても済むように、彼女は強くなったんだと思う。
ちなみに僕はアイビーと違って上手く手加減ができないから、基本的にレイさんを瞬殺してしまう。
アイビーが言うには少しずつタイムは伸びているらしいけど、戦うことに完全に意識を集中させている僕からするとその微妙な違いは感じ取れてはいない。
一瞬で倒してしまっては修行にならないような気がするけれど、どうやらこれでいいらしい。
レイさんは次の目標を僕と定めて頑張っているみたいだから、むしろその方がやる気が出るだろうということらしい。
知らなかったけれど、どうやらアイビーには人を教えて導く指導者としての能力も持っているらしい。
まだまだ彼女の新しい一面を見ることができて、僕としても嬉しい限りだ。
アイビーが何を考えているかはわからないけれど、そういうことならと僕も特に手を抜いたりはしていない。
ていうか、手を抜いて戦えるほど器用じゃないしさ。
そしてレイさんは一通り修行が終わると、僕達の家に一晩泊まっていき、アイビーと慎ましやかな女子会を開き、朝まで話をしてからゆっくりと家を出て行く。
なんだか師弟関係というより、たまに遊びに来る友達みたいな感じな気がするけど……当人達が気にしてないんなら、僕がとやかく言う必要もないよね。
そんな日々が続いていると、また新たな来客があった。
伝えよう伝えようと思っていたけれど、なんやかんやで忘れていた、レイさんについての報告。
どうやら何も言わない僕らにしびれを切らしたみたいで、アイビー共々辺境伯邸から呼び出しがかかってしまったのだ――。
「……というわけです」
「ふむ、なるほどな……」
エンドルド辺境伯は僕のざっくりとした説明を耳にして、うんうんと唸っていた。
ちなみにアイビーごと呼び出されたが、今僕は一人だ。
アイビーはカーチャに連れて行かれてしまった。
どうやらレイさんを鍛えたりしているうちについついご無沙汰になっていたのが不満だったのか、問答無用だった。
きっとアイビーは今頃、カーチャのご機嫌取りで忙しくしていることだろう。
僕の方も僕の方で、エンドルド辺境伯のご機嫌を上手く取らなくちゃいけない。
どっちがいいかと言われると、正直僕の方が貧乏くじを引かされているような気がしないでもない。
「最近はレイさんに買い物をしてきてもらっているので、前より外に行く機会も減りましたね」
「ああ、そう聞いている。アイビー達が外に出ない分、こっちも色々と動かせてもらってるぞ」
な、何をやってるんだろう。
ちょっと気になるけど……聞くのが怖い気もする。
下手にやぶ蛇になってしまわないよう、触れないのが吉かな。
僕が少しだけ考えていると、どうやらその間に辺境伯は何倍も色んなことを考えていたらしい。
彼は眉間の皺を少しだけ深くしてから、こちらを向く。
「正直なことを言えば言いたいことも聞きたいことも死ぬほどあるが……ブルーノ、一つだけ聞かせてくれ」
「はい、なんでしょう。僕に答えられる質問であれば」
「あのレイとかいう女は……いったい何者だ?」
え、何者って……レイさんは、凄腕冒険者でしょう。
……いや、前に冒険者みたいなことをしていると言ってたから、冒険者登録はしてないけど強力な魔物を倒してる魔物ハンター……とかなのかな?
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