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【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第3巻2/25発売!!)
第二章

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サンシタの居場所


【ぐうううぅぅっっ!?】


 今の僕には、宙に浮かぶ空の覇者の姿が見えている。


 けれど彼――サンシタは自力で空を飛んでいるわけではない。

 魔法攻撃を受けて、吹っ飛ばされているのだ。


 今サンシタが戦っている相手は――。


「タイダルウェイブ!」


 手を伸ばして意識を集中させているレイさんだ。


 さっき放ったのは嵐のように強い勢いの強風だった。

 そして今彼女の指先からは、まるで大雨が降った後に起こる洪水のように物凄い勢いで水が飛び出している。


 恐らく水の上級魔法をモロに食らい、サンシタが飛んでいく勢いが更に増した。


 全身を風の刃で刻まれ、そして水浸しになりながらウォータージェットに勢いよく飛ばされているサンシタ。


 とてもではないけど、自由に空を駆けることなんてできなさそうだ。


 空の覇者とはいったい……。


【ぐ――この、程度っ!】


 けれどサンシタもさすがは一等級魔物なだけはあり、魔法の威力が弱まってからすぐに体勢を立て直して着地した。


 サンシタはそのまま、大地を駆けてレイさんの下へと向かう。

 その嘴の中からは光が漏れている。


 恐らく、空を飛ばずに駆けているのはあの魔法を使うためだと思う。

 サンシタはわりと不器用な方だから、いくつもの魔法を同時に使ったりできないしね。


 その走る速度は速い。

 空を飛ぶから忘れがちだけど、そもそもグリフォンは鳥の顔に獅子の身体を持つ魔物だ。

 飛ばすスピードは、四足歩行の肉食動物のそれ。


 あっという間にレイさんの下へと辿り着いてしまう。

 そして近付く頃には、既に魔法も発動の準備を終えているようだった。


 レイさんが剣を構える。

 その姿は初めて素振りを目にした時と同じくらい、とっても様になっていた。


 サンシタはその鋭い爪を前に出した。

 なんらかの魔法的な効果が働いているからか、彼の爪は鉄であっても容易く引き裂いてしまうだけのパワーがある。


 けれどその爪撃は空を切った。

 レイさんは軽やかな動きで、サンシタの攻撃をかわしてみせたのだ。


 次にサンシタは嘴を使ってつつこうとする構えを見せた。

 それに対しレイさんは先ほどまでのステップを止め、その足をしっかりと大地に固定させて迎え撃とうとする。


 サンシタが口から魔法を吐き出そうとしているのは僕にもわかるんだから、当然彼女もわかっているはず。


 サンシタの嘴と、レイさんの持つ剣が激突する。


 キィンという硬質な音。

 そしてそのまま、サンシタは流れるように口を開いた。


 そこには先ほどから準備をしていた激しい光が明滅している。


 魔法を迎撃する構えを見せるレイさん。

 その全身から突如として、オーラのようなものが立ち上った。

 間違いない、真っ向から攻撃に立ち向かうつもりなんだ。

 レイさんの身体から湧き出してきた光は、彼女の持つ一本の剣に吸い込まれるように収束していく。


「ガルルルッ!」


「ぜええああああああっ!」


 サンシタの口から発されたビームと、レイさんの持つ剣から放たれる光が激突する。


「わっ、まぶしっ!」


 光の奔流が網膜を焼き、僕の視界は白で埋め尽くされた。


「みいっ」


 仕方ないわね、とアイビーが痛くてどこかひりひりとする僕の目を治してくれる。

 ゆっくりと目を開けると、光は収まっていた。


 そしてそこに立っていたのは――。


【ぐ……】


 サンシタだった。

 けれどその身体は、ひどく満身創痍だ。


 あれほど綺麗に揃っていた毛並みは見るも無惨なことになっており、各所がちりちりと焦げていた。

 よく見れば今も火は消えてはいなくて、胸元のあたりが赤くなっている。


【げ……限界でやんす……】


 力尽きたのか、前足からスッと力が抜ける。

 そのままサンシタは地面に倒れ伏す。


 見れば胸は小さく動いている。

 どうやら意識を失っただけみたいだ。


 サンシタが立っている時は気付かなかったが、彼が地面に倒れ込んだことでその後ろにある、小さな影が見えてくる。


 そこにいたのは――片膝を地面につけたレイさんだった。

 荒い息を吐いてはいながらも、意識を失ってはいない。


「ふうっ、ふうっ……」


 何度かゆっくりと深呼吸をしてから、レイさんが立ち上がる。

 彼女も鎧のうちのかなりの部分が焦げてしまっていたが、身体の傷はそれほど大きくはない。



 アイビーが、試合終了を示すために前足を打ち合わせようとして……前足の長さが足りずに、くっつく前に止まってしまう。


 彼女は少しだけ悲しそうな顔をしてから、気を取り直して両の前足で地面を叩き。


「みいっ!」


 そして怪我だらけの二人を、回復魔法で癒やしてあげた。


 今サンシタとレイさんにしてもらったのは、いわゆる模擬戦というやつだ。


 アイビーはスパルタなので、最後には自分が治すからと彼女達に一度全力で戦ってもらったのである。


 結果は、想像以上と言っていいと思う。


 最近はサンシタが野生を失いすぎているせいでつい忘れかけていたが、やはり空の覇者は強かった。


 見ている感じ、以前シャノンさんとアイビーにボコボコにされていた時と比べると、動きが格段によくなっている気がしたな。

 アイビーと共に暮らしてたまに彼女の鬼のシゴキを受けるうちに、前よりずっと強くなっている気がする。


 そしてそんなサンシタとまともに戦って勝ててしまうレイさんも結構めちゃくちゃだ。

 間違いなく一等級冒険者クラスの強さはあると思う。


 魔物被害は減ったとはいえ、実力者の情報を上の人は知っておいた方がいいと思うし、辺境伯かギルマスあたりに一度話をしに行った方がいいだろうなぁ。


「みいっ、みいみいっ!」


「――ブルーノ、アイビー殿はなんと言っているのだ?」


「次は私とやってみなさいって」


「そ、それは――いや、臆してはダメだ! 不肖ながら、お相手つかまつる!」


 大きくなったアイビーとレイさんが戦い始める。

 僕が背中を向けると、背後から七色の光が物凄い勢いで輝きだしたけど……気にしないでおこう。


 レイさんの悲鳴が聞こえてくるような気もするけど、きっと幻聴だ。

 うん、そうに違いない。


 僕が歩いて行くのは、はしっこの方で地面に爪を立てているサンシタだった。

 負けてしょぼくれているみたいで、目をうるうるさせながら何やら絵を描いている。


 よく見るとそれは、沢山のグリフォンから慕われているサンシタの絵だった。

 つ、爪のサイズ結構大きいのに器用だね……。


【あっし、負けやした。わけもわからん、気に食わない新入りに負けちまいやした。あっし、もっと強くなりやす。アイビーの姉御とブルーノの兄貴の隣にいるのは、あっしなんです】




 どうやらかなり落ち込んでいる様子。


 ――大丈夫だよサンシタ。


 周りがすごすぎるだけで、君も絶対強くなってる。

 きっといつか、他のグリフォン達を見返すくらいに強くなれてるさ。


 そう言って慰めてやると、サンシタにすごい勢いで抱きつかれた。

 こうして僕らは、レイさんが気絶するまで二人でじゃれ合っているのだった。


 シゴキが終わったアイビーがすぐにサンシタを押しのけたのは……まあ言うまでもないよね。


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