冒険者ギルド
「こんにちはー……」
ギルドのドアを開き、まずは挨拶からと思っていた僕の声は、一瞬でかき消された。
「はぁ!? どっから見たってこのマレー草の鮮度は完璧だろうが! なんで依頼額が八割なんだよ!」
「マレー草の育つ土壌は複雑な栄養素に満ちた場所だけです。草の根を傷つけないように持ち運ぶだけでは栄養を吸い取れず、若干効能が落ちてしまうんですよ」
「おい、魔法使いはいないか? ブンド鳥を狩りに行く、取り分は頭割りだ」
「乗った! いやぁ、今月厳しかったからねぇ。助かる助かる」
入り口から入ってすぐのところ、そこに並べられている椅子とテーブルで、恐らく先輩冒険者の方々がすごい勢いで話しているのだ。
朝早くだというのに、活気が凄い。
それになんだか、変な匂いがする。
香水や体臭、汗臭さなんかが混じった息の詰まるような匂いだ。
これが冒険者の香り、というやつなんだろうか。
「みぃ……」
きれい好きなアイビーには、どうやらこの匂いがお気に召さなかったようだ。
声にいつものような覇気がない。
ちなみに彼女には、肩ではなく僕が持っているポシェットの中に入ってもらっている。
どんな難癖をつけられるかわからないから、とりあえず皆から見えないようにしたのだ。
冒険者の先輩方は、僕が入ったことになど気付いておらず、今日どの依頼を受けるか、依頼の条件がどうこうだなんて話を、口角泡を飛ばしながら行っている。
この様子を見る限りは、わざわざアイビーを隠す意味はなかったかもしれない。
「みー」
慰めるようなアイビーの声に、ポシェットを軽く叩いて答える。
落ち込んでないよ、大丈夫大丈夫。
でも冒険者の人達も、朝からこんなに大声出さなくちゃいけないなんて大変そうだ。
周りの声がうるさいから、自分達も声を張らないといけないんだろうなぁ。
外に出て話をすればいいと思うんだけど、朝早くにギルドの中でしなくちゃいけない理由があるんだろうか。
少し膨らんだ胸ポケットに触れる。
そこには、ゼニファーさんが領主様とギルドマスターに宛てて書いた手紙が入っていた。
どうやら僕のことを気に留めるように書いてくれているらしいが、中身は見ていない。
コネでランクが上がった僕への配慮らしいが……いきなり偉い人と関わったりすれば、間違いなく目立つ。
……でもアイビーのことを考えれば、どうせいつかは誰かの下に入らなくちゃいけない。
動くなら、早いに越したことはないはずだ。
とりあえずはこれを、ギルドマスターさんに渡さないといけない。
テーブルの並ぶ空間の右側には受付があり、左側には買い取りカウンターがあった。
受付は案外と空いていた。
僕の前に居たのも二人ぐらいで、大して時間もかかっていなかったみたいだし。
皆受ける前に話をするから、何を受けるか決めてからはスムーズに話が進むってことなんだと思う。
「どうぞー」
受付の人は女性だった。
胸の辺りにわかりやすい文字で、ムースと書かれている。
ムースさんね、覚えておこう。
ピンク色に染められた、なんだか角張ってるように見える服を着ている。
横の女の人も同じ服を着てるから、これがギルド職員の正式コスチュームなのかもしれない。
人当たりの良さそうな人だ。
可愛らしい印象の人で、将来お嫁さんにしたいランキングとかがあるとするなら、上位に食い込めそうな感じ。
「これをギルドマスターさんに渡しておいてもらえますか?」
懐に収めていた手紙を受け取り、裏の封蝋を見て、彼女が少しだけ眉を動かした。
その封蝋はゼニファーさんからの手紙ってことを示すものらしいけど……ギルド職員さんも、彼のことを知ってるんだろうか。
――別に聞いて困るわけでもないし、聞いちゃえばいっか。
「ゼニファーさんを知ってるんですか?」
「ええ、もちろん。恐らく国の中でこの街が一番、彼の恩恵に与っている場所ですので。すみませんシンディ、私ギルマスのところに行ってくるので対応お願いします」
「オッケー! はいはーい、二列になってるとこ悪いけど一列に組み直してねー。私んとこ並んでた方が前で、ムースの方が後ろ」
「おいおいそりゃないぜ、こっちを前にしてくれよ」
「うっさいわね、依頼料減額するわよ」
「ご、ごめんなさい……」
冒険者相手に一歩も引かないシンディさんを尻目に、ムースさんは手紙を持って、どこかへ消えてしまった。
金髪が綺麗なシンディさんに、こっちで待っててねと受付横の椅子に座らされる僕。
ぽかんとしている僕の頭の中に、フフフと笑う、自己顕示欲の強い魔物学者の姿が浮かび上がっていた。
「みー」
アイビーが鳴いている。
何かあったら私が守るから、そう言われている気がした。
なんだか大事になっちゃった気がするけど……色々と手間が省けたって、プラスに考えることにしよっと。
「み!」
それでいいのだ、とアイビー。
……ありがとう。
君のおかげで、少しだけ自信が出てきた気がするよ。
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