力と力
「偽物って……偽物の英雄ってことですよね?」
「ああ、英雄ということらしいな。そいつの何よりも許せないことは、なんでも勇者を名乗っているらしいという部分だ」
一縷の望みをかけて聞いてみたけれど、現実は残酷だった。
そして誤解です、それは本当に誤解なんです。
勇者は名乗っているんじゃなくて、みんなが勝手に言いだしただけなんですって!
僕自身、一回も「我は勇者なり」とか言ってませんから!
「でもどうしてレイさんが、その人を倒しにきたんでしょうか?」
対話の糸口はどこかにないかと探してみる。
レイさんはなぜだかすごく好戦的だけれど、僕としては当たり前だけど戦いたくなんかない。
サンシタがかみつけない時点で、レイさんの力は異常だ。
アイビーは自信ありげだけど、もうこれ以上変な目立ち方をする必要はない。
「なに、気にくわないってだけだ。個人的な私怨のようなものだよ」
「それはいったい、なにに対してでしょうか?」
「勇者の看板を負うことの重さを、そいつが知らないことへの怒りだよ。そのために無理を言って村を出てきてしまったくらいだからな」
とりつくしまもないとはこのこと。
どうやらレイさんは相当頭にきているようで、何を言っても聞いてくれるような様子はない。
ちらりとアイビーの方を向く。
「みいっ!」
任せて、と彼女は告げていた。
後になって色々と聞き込みをされてから発覚するより、今言ってしまった方が今後のことを考えればいいはずだ。
なので僕は、少しためらいがちにこう告げることにした。
「あの、レイさん。大変申し訳ないんですが、一つだけ言ってもいいでしょうか」
「ああ、なんでも言ってくれて構わないぞ」
「その英雄を名乗る人物……多分、僕のことです」
「……なんだと?」
瞬間、彼女が纏う気配が変わる。
そしてビリビリとした殺気のようなものが、僕に叩きつけられるのがわかった。
重たく、ねばつくような何かが、僕の肩や頭へとのしかかってくる。
まるで空気自体が粘度を持ったかのようだった。
これが、プレッシャーってやつなのか。
「――話を、聞かせてもらおうか」
先ほどまでの優しげな瞳は完全に消え、鋭い眼光で僕のことを睨んでいる。
そしてまばたきをした次の瞬間――彼女の姿が消えたっ!?
ギイィンッ!
彼女がすぐ近くまでやってきたことに僕が気付くより、アイビーが張ってくれた障壁が発動する方が早かった。
レイさんの手は障壁に弾かれる。
どうやら僕に触ろうとしたみたいだ。
彼女は驚いた様子で即座に距離を取り、弾かれた手をプラプラと左右に振る。
「すごいな……一瞬で反撃までしてみせるとは」
「みい」
ブルーノに触れるな、とアイビーはレイさんの方を見つめながら、明らかに怒った様子だ。 対しレイさんはアイビーに目を向けることはなく、ジッと僕だけを見つめている。
どうやらレイさんは、今の一瞬の攻防をしたのは僕だと思っているようだった。
訂正をしたいところだけど、そんなことができるような雰囲気でもない。
すぐに何かしようとしてきたあたり、レイさんはその、かなり……おかんむりなようだから。
「殺しはしない……が、少し本気でいかせてもらうっ!」
鞘と刀身が擦れるスラリという音。
抜き身になった直剣は、赤く輝いている。
一目見て、ただの剣じゃない。
恐らくはダンジョンなんかから産出すると噂の、マジックウェポンってやつかもしれない。
「みいっ」
任せて、とアイビーの声。
「うん、任せるよ」
だから僕は、アイビーを信じる。
レイさんは相当に強いと思う。
けれどうちのアイビーだって……それに負けないくらい強いんだから。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「アイビー、頑張って!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!




