理想的な生活
ものすごい数の魔物が押し寄せてきてから、早いもので二ヶ月が経った。
その間僕達は何をしていたかというと……なーんにもしていない。
というのも、何もする必要がなくなったからだ。
――僕達は今、かなりのお金持ちなのである。
……といっても、換金が追いついていないらしいから、素材だけが物凄い量余っているだけで、現物自体はそれほどないんだけどさ。
二ヶ月という結構長い期間をなんにもしなくてもよくなったのは、もちろんアイビーのおかげだ。
何せアイビーの全力は、それはもう言葉を失うくらいにすごかった。
僕が思ってたよりも大きくなってたし、もう魔物とかを寄せ付けないとかそういうレベルですらなかったからね。
彼女が全力を出してくれたおかげで、相手の魔物達はほとんど全滅。
残敵掃討はシャノンさんを始めとした冒険者の方々がしてくれたけど、やってきていた魔物達の大軍をまとめてやっつけたのはアイビーである。
当たり前だけど彼女が倒した魔物の権利は、彼女の従魔師である僕にある。
倒した魔物の数は、軽く万を超えるくらいの数があって、換金が全然追いついていない。
エンドルド辺境伯からは
「とにかく待ってくれ、払うには払うから、とにかく待ってくれ」
とものすごく焦った顔でしきりに言われたので、僕らは素直にとにかく待つことにした。
たしかにそんなに魔物の素材があっても、遠くへ売ったりとか加工したりとかがそんなすぐにできるわけじゃないからね。
僕らも別に大金を使ってしたいことがあるわけでもないので、のんびり待たせてもらっているのだ。
「ふあぁ……」
「みぃー」
背もたれを預けるのは、何故だか不思議と寝心地のいいアイビーの甲羅だ。
彼女は綺麗に手を横に置いて地面にうつ伏せになっている。
僕は今日も、アイビーの背中に乗ってお昼寝をしていた。
「仰向けになる?」
「みぃっ!」
「なるっ!」と元気いっぱいなアイビーの返答には、思わず笑ってしまう。
肩を震わせながら、地面に降りる。
アイビーのことを見上げていると、僕の視線はドンドンと下がっていき……最後には見下げる形になった。
そして眼前にいるのは、僕より少し小さいくらいのサイズになったアイビーだ。
彼女はお得意の重力魔法でごろんとひっくり返り、仰向けになった。
太陽の光をしっかりと浴びれるように、微妙に位置調整までしている。
さすがだね。
僕は地べたに背中を預け、アイビーは自分の甲羅に背中を預けて横になる。
甲羅を地面につけては不安定になるはずなのに、僕はアイビーが間違ってひっくり返っているのをみたことがない。
多分魔法を使って、上手いことバランスを取っているんだろう。
「今日のご飯は何がいい?」
「みぃ……」
アイビーは肉以外がいい……と少し嫌そうな顔をする。
僕らのご飯は、割と肉が多めだ。
誰かさんが調子に乗って、近くの森で肉を取ってくるからね。
野菜も魚もバランス良く食べたいアイビーには、それが少し不満らしい。
「グルルッ!」
「みぃっ!」
「うるさい奴がきた!」と嫌そうな顔をするアイビーと僕たちの身体に影がかかる。
そして空の覇者が、僕らの隣に降り立った。
【今日も餌を献上するでやんす】
僕の心に語りかけてくれるのは、グリフォンのサンシタだ。
相変わらず、三下口調とその立派でいかにも強そうな体躯が見合っていない。
サンシタが爪で掴んでいたのは、イノシシの魔物であるケイブボアーだった。
……それ、一昨日も獲ってきたじゃないか。
イノシシ肉ばっかりはさすがに飽きちゃうよ。
もちろん肉を食べれるだけ、ありがたくはあるんだけどさ。
「グ……グルッ!」
僕とアイビーの視線に耐えきれなくなったのは、サンシタは【あっしも混ざるでやんす】とうつ伏せになり、お昼寝の会への参加を表明した。
まあいいかと思い、再度ぼーっとタイムに戻る。
なんというかすごく……平和だ。
魔物の換金をすればいいおかげで、お金には困っていない。
僕らは労働というものから解放されたのである。
だからお昼寝だってし放題なのだ。
しすぎると夜眠れなくなるのが玉に瑕だが、それでもお昼寝を止める権利は神様にだってありはしないのである。
ちなみに僕らが暮らしているのは、アクープの街の外れの方にある、エンドルド辺境伯の元別荘。
いい感じに街から離れているというのと、木々に囲まれていて周囲の目が気にならないだろうという理由から、辺境伯が僕たちにプレゼントしてくれたのだ。
太っ腹なことだが、値段は驚きのタダ。
タダより高いものはないと前に誰かが言っていた気がするけれど、もらえるものはもらいたくなるのもまた人情だ。
僕らは食っちゃ寝を繰り返す自堕落な生活を続けながら、いい感じにスローライフを満喫している。
ゆっくりと時間を気にせず生きられるのって……控えめに言って、最高だよね。
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