表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第3巻2/25発売!!)
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/127

名もなき村


 そこは人里離れた場所にある、小さな村。

 一般人の誰からも知られることのないその場所は、しかし王国中枢にいる者であれば知らぬ者のいない、特殊な場所であった。


 人口もそれほど多くはないその村には、王国選りすぐりのエリート達が定期的に訪ねてくる。


 出張ということになっている彼らの来訪先が、その小さく辺鄙な村であることを知っている人物達は、ごく一部の例外を除いてほとんど誰も知らない。


 『剣聖』ラインハルト、『大賢者』マーリン、『龍騎士』ローガンetcetc……。


 誰も弟子を取らぬと公言してはばからぬ人物から、今までどこに行っていたのかもわからず、長い間消息不明になっていた者まで。


 やってくるのは実力はあっても、偏屈で変わっている者達ばかりだった。


 だが彼らはとある一つの目的を持って、この村を訪ねている。


 いったいその村――地図にも印されていない、名もなき村には何があるというのか。


 その答えを紐解くには、村にいる一人の少女について知る必要がある。


 今はまだ、誰にも知られていないその少女の名は――レイ。


 彼女の正体を知っているのは、世界でもほんの一握り。


 村を守る守護者達、訪れる達人達、そして王と宰相のみである……。








「レイ、あなたは強くならなければいけないわ。誰よりも強く、魔王を倒せるような存在にならなくてはいけないの」

「どうして? どうして私が強くならなくちゃいけないの?」

「それはあなたが――」






「勇者だから、か……」


 一人の少女が、夢から覚め意識を覚醒させ起き上がる。


 下りてこようとする瞼に必死に抵抗するため、ごしごしと擦る彼女はレイ。


 その齢は十五で、今年になってから成人したばかり。

 大人になりかけといった感じで、少女らしさと女性らしさを兼ね備えている。


 レイが起きたこの場所は、村の外れにある小さな家だ。

 彼女には両親はおらず、元々は孤児院で暮らしていた。


 だがとある理由から彼女は見出され、そして……この村で暮らすことになった。


 そう、神殿の神託によれば、このレイこそが……将来勇者となるべき存在なのだ。



 かつて龍巫女フレイヤと呼ばれる少女が、神託を下されたことがあった。

 彼女は、勇者と魔王の到来を預言したという。


 魔物の中にはごく一部知っている者はいたが、人間達は長い歴史の中で、その事実を忘れてしまっていた。

 けれど実は数年ほど前に、それと似たような事態が、王国に起こったのだ。

 王国の聖女、クリステラ・ツゥ・フォーミット。


 彼女は龍巫女同様、預言を授かった。

 その預言は、いつも大雑把でぼんやりとしている神託とはまったくの別物だった。

 かなり細密で、非常に詳細で、そして具体性を帯びていたのである。


 そしてその神の言葉によって、一人の少女が未来の勇者であることが発覚した。

 その少女こそが、当時孤児だったレイだったのである。


 この名もなき村は、レイのために作られた、レイのための箱庭だ。


 レイが魔王に発見されることのないように。

 彼女が一人前の勇者へ成長することができるように。


 そのために作られ、誂えられた、勇者を育てるための村。

 国中の選りすぐりのエリート達がやってきては、彼女を鍛えていく。


 そしてレイは毎日、着実に強くなっていた。


(私は……ならなくちゃいけないんだ。皆を守るための勇者に)


 勇者とは最前線で戦い続け、己の背を皆へ見せる人類の希望。

 いずれ人類にとてつもない危険をもたらすとされる魔王の対をなす存在だ


 ゆくゆくは、魔王を倒す。

 そして魔物によって人類が滅ぼされる未来を、回避しなくてはならない。



 自分がそんな、おとぎ話の中の主人公のような存在になれるのか。

 レイは未だ、自信が持てずにいる。

 だからこそ、毎日絶えず訓練を繰り返す。


 色々な達人からあらゆる技術や力を教授してもらい、己の血肉へと変えていく。


 それが今のレイのやらなければいけないことで。

 そしてそれが、今のレイの構成する全てだった。



「今日はあなたに、ラストヒールを覚えていただきます」

「ラストヒール……最上級回復魔法ですね」


 今日レイの下へやってきていたのは……王国騎士団第十番隊隊長、『白星』のソエル。

 王国騎士団の回復部隊を率いている、回復術士の中では珍しい無宗教の女性だった。


 彼女は騎士団を取り纏める立場でありながら、決して激しい言葉遣いをしない。

 その物腰はあくまでやわらかで、威厳を以て誰かを従えようという様子はない。


 けれどこの態度を維持したまま、王国騎士団の隊長に上り詰めていることこそ、彼女の魔法の腕が本物である証であった。


「レイ、あなたは今まで戦うための術を意識しすぎています。自らを傷つけすぎてはなりません。厳しいことを言うようですが、あなたはどんな時も常に最前線に立ってもらうことになります。ですから何よりも、自分の身体を大切にして下さい」

「はい……たしかに今まで、回復はポーション任せにしていました」


 今までレイの師についていた人達は皆、戦い方を教えてはくれても、傷の治し方までは教えてくれなかった。


 この世界において、傷を治し体力を回復させる方法は二つある。

 アイテムと、回復魔法だ。


 アイテムはポーション、ミドルポーションといった、服用または塗布で傷を治すことのできる道具達のこと。


 回復魔法はヒールを始めとした、魔力を使用することで己の体力を回復させる一連の魔法群のことを指している。


 今までレイはこのうちの前者、誰かから渡されたアイテムに回復を頼っていた。

 しかしそれでは物資がなくなったとき、自らを治す術がない。

 今後のことを考えれば、回復魔法を習う必要は十二分にある。


「ではまずはヒールから――」







「はあっ、はあっ……これで、オールヒールまではクリアできましたね……」


 回復魔法はヒール、ハイヒール、エクストラヒール、オールヒール、ラストヒールの五つ。


 このうちヒール、ハイヒールが下級回復魔法、エクストラヒールが中級魔法、オールヒールが上級回復魔法ということになる。

 そしてラストヒールは、最上級回復魔法である。


 レイは特訓の末、そのうちの四つ、オールヒールまでを使うことができるようになった。


「レイ、あなた筋がいいわ。きっとラストヒールも、そう遠くないうちに使えることができるようになるはずよ」


 己の弟子を褒め称えるかのように、ソエルがレイの頭を撫でる。

 回復魔法使いの到達点にして究極系の魔法……それがラストヒールだ。


 それは未だ、ソエルですらも辿り着くことのできていない境地。

 彼女が手取り足取り教えることができるのは、オールヒールまでだった。


 ラストヒールの使い方は、今までにあった文献を基にして、ソエルが長年の経験からそのやり方を推測しているに過ぎない。


 莫大な魔力を消費する代わりに、死者ですら生き返らせるという伝説の残るその魔法を、レイはソエルの一度の来訪ではマスターすることができなかった。


 そのことに忸怩たる思いはある。

 けれどレイの顔に不安はない。


 彼女は必ずしも、できのいい生徒というわけではなかった。

 しかし壁にぶつかる度に努力を重ね、最終的には全ての目的を達成することに成功していた。


 だから今回だって、最後には上手くいくはず。


「師匠……私いつか、ラストヒールを使えるようになってみせますっ!」

「その意気ですよ、レイ」


 二人は視線を交わし、頷き合う。

 そこには確かな信頼と絆があった。





 ――彼女達は、まだ知らない。











「みいっ!」

「こ、これはまさか……ラストヒール!? アイビーは、あの伝説の回復魔法まで使うことができるというのかっ!?」


 既にラストヒールをマスターしている最強の亀が、この世界には存在しているということを……。



本日より第二章を開始します!

以後は毎週火曜日更新となりますので、よろしくお願いします!


【しんこからのお願い】


この小説を読んで


「面白い!」

「続きが気になる!」

「応援してるよ!」


と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!


あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!


第二章でスタートダッシュを切るためにも、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ