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【書籍化】その亀、地上最強【コミカライズ】  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)
第一章

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黄泉


 昏き森――――あらゆる生物の侵入を拒み、人間が擁する軍隊すら退けてしまうその天然の要害は、今やその役目を全く果たしておらず、機能不全を起こしていた。


 森の中の生態系を維持する上で必要不可欠である、食物連鎖のピラミッドの下にいる比較的弱い魔物達……その数が減ってしまっているのだ。


 上の方にいる強力な魔物達の数が増えたのが、その理由である。


 本来なら互いに食い合い、数の帳尻が自然と合っていくはずの強力な魔物達の個体数が減少していないのには、もちろん理由がある。


「いやぁ、相変わらず凄いですなぁ。この黒笛というやつは」


 頭に三角巾を被った、でっぷりとした肉体をした男が機嫌よさげに何かを見上げている。


 彼の目線の先、その肥え太ったオークのような腕の先につく、ソーセージのような指先には、一つの笛がある。


 彼が黒笛と呼ぶこの魔道具は、魔物を使役し、意のままに操ることのできるという破格の性能を持つ魔道具だ。


 彼――スウォームは元は二等神官の身でありながら、この黒笛の力を使うことで今は枢機卿と呼ばれる、教会内で聖女と聖戦士、教皇を除いた全ての者の上に立つことができていた。


 暗殺だろうが毒殺だろうが、魔物を使えば思いのままだ。


 魔物の襲撃があったという証拠は残っても、彼が魔物をけしかけたなどという証拠はどこにも存在しない。


 なぜなら黒笛を生み出したのは、彼が所属するセリエ宗導国でなければ――まして人間の国ですらないからである。


「黒笛――笛吹き魔神(ハーメルン)を早く使った方がいい。完全に準備を整えられてしまえば、相手にそこまでのダメージを与えられないかもしれないからな」


 彼の向かいに、一人の男が立っている。

 立っている、という言い方は正確ではない。


 なぜなら彼の身体は下半身へ向かうにつれて徐々に透明になり、足下にはただ地面が存在しているだけだからだ。


 その頭には赤く、磨き上げた鉱石のように輝いている二本の角が生えている。


 顔の造形自体は人間に近いが、むしろそれが角と身体の異常さをより際立たせるという結果を生んでいた。


 幽鬼と呼ばれる実体を伴わない霊体を持つ者達の中でも、最上位に位置している魔物である『黄泉』のキッシンジャー。


 彼は十人しかいない魔王軍の幹部の一人である。

 幹部は『魔王十指』と呼ばれており、その実力は左第一指から右第五指の順に強くなっていく。


 キッシンジャーに与えられたのは、左の第四指。

 上から数えると、魔王を除いて七番目に強い重鎮だ。


 彼は幽鬼の中でも特に珍しく、唯一魔物ユニークモンスターという他に例を見ない魔物であった。


 霊体にもかかわらず、精神だけではなく肉体にも干渉することができる。


 相手の物理攻撃を食らわずに、こちらから一方的に攻撃を加えることができるその力は、彼を十指の地位にまで押し上げた。


 右手に入ることができていないのは、魔法による飽和攻撃に弱いという弱点があるからだ。


 だが魔法に弱いと言っても、自分と同等かそれより上の者のものでなければ、基本的にダメージは通らない。


 魔法に関しては魔王軍と比べてはるかに劣る人間達の住む大陸において、彼はほぼ無敵に近かった。


 彼は魔王からとある密命を受けたため、密入国を行い、傀儡としてスウォームの面倒をここまで見てきた。


 地位もなく我欲だけがあった彼を操り、そそのかし、仄めかし、煽動してようやく枢機卿の地位にまで上り詰めさせたのだ。


 今現在、セリエ宗導国ではスウォームによる国内の改革が進んでいる。


 聖女は既にすげ替えられ、彼にとって都合のいい新たな聖女が誕生しており。

 忠実な聖戦士達のうち、恭順を示さなかった者達は不慮の事故に遭ってもらっていた。


 スウォームは元々、それほど能のある人間ではない。


 彼がそれだけのことを、やってのけたのは、協力者であり共犯者であるキッシンジャーのおかげだった。


 キッシンジャーのアドバイスに乗り、彼を相談役として側に置くことで、スウォームは今や宗導国のほぼ全てを掌握することに成功している。


 内側が制覇できたのなら、自然思考は外へと向いていく。


 スウォームは川が高きから低きに流れるようにごくごく自然に、新たな標的として隣国を見据えた。

 無論それすら、キッシンジャーの仄めかしによるものである。


 彼はいつものようにキッシンジャーに教えを乞い、まずは黒笛の力を使って魔物をけしかけ、力を削り取られた王国へ侵入し蹂躙せよという答えを得た。


 彼は言われるがまま、侵攻のための準備を整えている。


 自分の鶴の一声があれば、魔物に蹂躙された王国へ攻め込むことは容易である。


「ふ、ふふふ……これで我が国の繁栄は約束されたようなもの」


「ああ、お前の国はかつてないほどに繁栄し、お前は限りない名誉と富を得るだろう」


「これからもよろしくお願いしますぞ、キッシンジャー様」


 スウォームは気付かない。


 キッシンジャーの目が怪しく光っていることにも。

 自分が彼に言われるがまま、他国へ侵略をしようとしていることにも。


 一国の王に近い地位にある自分が、キッシンジャーへはへりくだった態度を取っていても、スウォームはなんら不思議には思わない。


 笑い声をあげるスウォームの横で、幽鬼はつまらなそうにため息を吐いていた。

 彼は髪をかき上げ、それを角に巻き付けながら、


「こんなことになんの意味があるのか……あの方の考えはいつもわからない」


 実はキッシンジャーは、今代の魔王から一つの密命を受けていた。

 その内容とは――『魔王の対となる存在である、勇者を発見すること』である。


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