家族
「み~」
擦るようになで上げてやると、いつもよりもずっと高い声が出た。
くすぐったいのと気持ちいいので、幸せそうな顔をしている。
僕の肩に乗る彼女は、とてもではないがグリフォンを簡単に蹴散らすような魔物には見えない。
「ごめんねアイビー……結局僕は、君に戦いと無縁な生活を送らせることができなかったよ」
僕は本当はアイビーと一緒に適当に薬草でも採って、半日は寝て過ごすような生活をするつもりだった。
まぁたしかに三食昼寝付きで、何不自由ない生活はできてるけど。
想定していたよりもずっと、僕たちの冒険者生活っていうのは波乱に満ちていて。
アイビーは人に恐がられたり、嫌われたりするのが嫌いな優しい子だ。
そもそも戦うのだって、本当はそんなに好きじゃない。
そんな彼女を矢面に立たせて、戦わせなくちゃいけないことに申し訳なさを感じてしまう。
僕がやってきたことのほとんどが、間違っていたんじゃないかという気持ちになる。
ああ、きっとアイビーの持ち主がもっとしっかりした奴だったら。
彼女は今よりもずっと自由で素敵な生活ができていたんだろうなぁ。
「み!」
うなだれていた僕の頭を、何かが撫でた。
慣れない感触に飛び跳ねるように顔を上げると、そこには白くて半透明な手が浮いていた。
五本の指がついていて、手の大きさはオーガくらいでかなり大きい。
手だけが浮くなんて怪奇現象が、そう簡単に起こるわけない。
そんなことができる子なんて、アクープの街広しといえど彼女だけだ。
アイビーは魔法で、手まで出せるようになったらしい。
「慰めてくれるの?」
「みぃ」
甘えるな、とアイビーの出した手が僕の頭をデコピンした。
痛い。
手の大きさがとんでもないから、デコピンなのにしっぺでもされたような痛さだ。
甘えるな、ね。
厳しいね、アイビーは。
「みー」
必要なら戦う。
彼女の言葉は簡潔で、それ故にどれだけの思いを胸に秘しているのかがわかってしまう。
僕はアイビーに、無理をさせてばかりだ。
「み……」
心配しないで、とアイビーが僕の肩の上をテクテクと歩いて、そのままぴょんと飛び降りた。
そして重力魔法を使ってふよふよと浮いて、僕と同じところまで目線を合わせてきた。
「みーみー」
たとえ何があったとしても。
ブルーノだけは、私が守るから。
僕は彼女の思いを聞いて、情けない気持ちになった。
―――アイビーだって不安なんだ、当たり前のことじゃないか。
何でもできる彼女にだって、何が起こるかなんてわからないんだから。
そんな彼女に重荷を背負わせて。
心配するなとまで言わせて。
それで何もしないっていうのは、男じゃないよな。
フッと笑ってから、目の前で浮いているアイビーの小さなおでこを爪で叩いた。
さっきのお返しだ。
「みっ!?」
「心配させてよ。喜びも悲しみも、辛いことも嬉しいことも共有しよう。一緒に暮らそうって、会った時に約束したじゃないか」
アイビーが辛い気持ちをするなら、僕もそれを共有するよ。
辛いことは分けあって、半分こにしよう。
アイビーが嬉しい気持ちになれるなら、僕も嬉しいよ。
嬉しいことは二人で一緒に感じて、二倍にしちゃおう。
あの日アイビーは僕の家族になった。
家族っていうのは、誇張でもなんでもない。
アイビーの立ち位置は、そうだな……僕のお姉さんと妹の間ぐらいだろうか。
「僕も君を守るよ、アイビー。だから君の好きなようにするといい。それに全部失敗したら、また別の場所でやり直せばいいさ。君にはそれだけの力があるんだから」
だから僕は彼女がどんな感じ方、思われ方をされたとしても、アイビーを助けるために動く。
家族っていうのは、支え合うもの…………そうだろ?
そうだね、とアイビーが鳴く。
威力偵察も兼ねて攻撃をしているはずのサンシタは、上手くやれているだろうか。
そんなことを考えていると、僕たちは気付けば冒険者ギルドへと辿り着いていた。
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