なんでもできちゃう
昼寝を終えて、魔物の素材を適当に持ち帰りながら街へと戻った。
すると案の定、ギルドには既に目撃情報が届いてしまっていた。
なんでも昏き森に、とてつもないほど大きな亀の魔物が突如として現れたのだという。
ご、ごめんなさい……事前連絡をしっかりしなかったせいで大事になってしまって。
ただ事前に僕が出されていた森での魔物討伐依頼を受けていたこともあって、冒険者達も『もしかしたら……』という気持ちにはなっていたらしい。
もしかしたらのパターンですと言うと、皆からは納得したような恐れたような顔をされた。
アイビーが元の大きさになったところを見せたことは、ほとんどなかったはずだ。
もっと大きいんですよとは言ってたけど、まさか家数軒分ほどの大きさとは思ってなかったんだろう。
ある程度打ち解けられた段階で、詳しく説明しておくべきだったな。
時刻はまだ三時前。
ゆっくりしていたとはいえ、これならまだまだ護衛に精も出せるだろう。
そうお気楽に考えていた僕が、突然やって来たギルマスの声に踵を返して走り出した。
「おい、エカテリーナ様が襲われたってのに、護衛のお前がこんなところで何油売ってんだ!」
「狙ってくるなら僕らがいないときかなとなんとなく推測はしてたんですけど、やっぱりこうなりましたか」
「泳がせていた、というわけかの?」
「いえ、保険みたいなものです」
急いで辺境伯の本邸へ戻ると、そこには倒れている人影があった。
カーチャ……ではなく、全身を痙攣させている黒尽くめの男達が。
縄に縛られていて意識も失っていないが、身体は全く思い通りに動いていないみたいだ。
アイビーの障壁は、物を守るだけじゃない。
攻撃してきた人間に衝撃を返したり、麻痺させたりといったカウンターの能力も持たせることができる。
僕は彼女に頼んで、カーチャから離れるときはそういった迎撃ができるような高度な障壁を張ってもらうようにしていた。
アイビーが疲れていたのは、実はそのせいだったりする。
無論、辺境伯にはしっかりと障壁の強度なんかを確認してもらった上で許可を取っている。
自分が離れることで、あぶり出したほうがいいかもしれません……といった具合で。
二週間もの間手出しされていないとなると、このままの状況が続くことも考えられた。
護衛料をずっともらえるのはありがたいけれど、さすがにずっと要人警護をしていては、僕もアイビーも肩が凝ってしまう。
だからこれで何か一つ、新たな動きの一つでも生まれればいいなぁくらいの軽い気持ちでやってみたわけだけど……まさか僕たち不在のタイミングを狙って、カーチャを襲うなんて。
というか本当に襲撃があるだなんて、思っていなかった。
辺境伯の子に手をかけるようなバカが本当に現れるなどとは、考えてもいなかったのだ。
しかも彼らどうやら、衛兵達を昏倒させるだけの実力があったみたい。
既にアイビーが治しているし、死人は一人も出ていないけど……これは僕の指示ミスだな。
アイビーの障壁に限界量みたいなものはないんだから、どうせなら衛兵や私兵の人達にも障壁を張っておくべきだったかもしれない。
悪用されたり、アイビーの力を言いふらされたりしたら困ると思ってたんだけど、それよりかは命を守ることの方が大切だし。
にしても選ぶのも毒殺とかじゃなくて、暗殺なんだね。
確かに僕がただのめちゃくちゃ強いグリフォンライダーだったら、その作戦も成功しただろうけど。
残念ながら僕は一般人で、規格外のアイビーがいてくれるから。
どうやらそこまでは予測と推測が追いついてなかったみたいでよかった。
本当に追いついてたら、まず手出しなんかしないだろうけどさ。
にしても生きて捕らえる事ができたから……彼らから、情報とか引き出せないのかな。
「彼らの所持品とかから身分とか判明しましたか?」
「いや、持っていたのは武器と自決用の毒だけじゃ。痺れて動けず、舌も噛めずにいるようじゃがな」
ふぅん、そうか。
「アイビー、彼らの頭の中とかのぞき見れたりする?」
「ははっ、流石にアイビーといえど精神に干渉する魔法は不可能じゃろう。そも伝心魔法や洗脳魔法なんぞ、時代の流れに沿って消えていった禁じられた……」
「みー」
「――ってできるのか!?」
首をこっくりと縦に振るアイビー。
そんなことまでできるんだ……って、聞いた僕が驚いてどうするんだ。
攻撃も防御も回復も、それにその他の特殊な魔法なんかもできて。
アイビーにできないことって、実は一つもないんじゃないだろうか。
僕は倒れている男達の頭に何か魔法のようなものを放つ彼女の姿を見て、そんな風に思った。
相変わらずアイビーは頼もしい。
頼りになるよね、本当に。
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