場所
もちろん最初はめちゃくちゃに恐がられていた。
飛び降りる度に周囲から人がいなくなっていたしね。
けれど、その名前がサンシタであるという事実がちょっとだけ皆の緊張や恐怖を削いでいったみたいなんだよね。
そしたら遠巻きから、恐い物知らずな子供達が、サンシタサンシタと彼のことを呼び始めるようになった。
サンシタ自身、自分の名前を呼ばれても特に気にしなかった。
そして領主の下知によりグリフォンがしっかりと僕の制御下に置かれているとわかっていた街の人達は、こう考えるようになった。
『あれ、もしかしたら今って、グリフォンのことを三下扱いできるチャンスなんじゃないか?』と。
子供達に続いてサンシタと呼ぶ大人が現れ、それが続くうちに皆がサンシタの名前を覚え、少し暗い喜びのようなものを味わった。
だが皆途中で、全く疑いもせずに自分達に接してくれるサンシタに罪悪感を持つようになり、餌付けが始まり、そしてなんだかグリフォンのくせに愛嬌があるかわいいやつじゃないかという風に認識が変わっていったのだ。
そして今や、サンシタはアクープの街の人間達に餌付けをされ、撫でられたりする存在になっている。
最初は鬱陶しがっていた彼も、餌付けをされるようになってからはめっきり大人しくなった。
どうやらグリフォン的には、食べ物を与えるというのは目上の者への献上的な意味があるらしく、サンシタは人間という生き物は殊勝じゃないかと考えるようになったみたいだ。
最初は三下として扱われていた事実は、知らない方が幸せだろう。
世の中、知らない方がいいこともあるものだ。
「よぅブルーノ、これから依頼かい?」
「あ、はい。適当に依頼を受けて、ゆっくり羽根を伸ばさせてやろうと思いまして」
「おいおい、しっかり街からは離れてくれよ? なんかあったら領主様宛に領収書切るからな」
肉屋のトムさんと別れ、ギルドへと歩いて行く。
この街の人達とも、ずいぶんと仲良くなった。
顔見知りになれたのは冒険者ギルドの人とサンシタに餌付けする人達くらいだけど、それでも相当な人数と知り合えたって言っていいだろう。
領主の後押しがあったとはいえ、グリフォンなんていう天災みたいな魔物と、それを軽々と屠るアイビーがいて、こんな風に大過なく暮らせるっていうのは、多分中々ないことだと思う。
騒々しくはあるけれど、平和だなぁ。
幸運を噛みしめながら、どこでならアイビーが羽根を伸ばせるだろうかと考えつつ。
僕は軽い足を、一歩前へと踏み出した。
「ここなら大丈夫そうだね」
「みー」
アクープの街の西には、魔物がうようよと湧いてくる昏き森という森がある。
基本的には森の外には魔物は出てこず、森の中でだけ生態系がぐるぐると回るという、不思議な森だ。
辺境伯領と隣国であるセリエ宗導国という、よくわからない宗教国家を隔ててくれている場所でもある。
なんだか攻撃的らしいその国が簡単に攻めてくることがないのは、そこにいる魔物の中に二等級とか三等級が当たり前のように存在してるらしいからだ。
だから僕も、実は昏き森には入ったことはなかったんだけど……。
「まぁ、そりゃこうなるよね」
僕の目の前では見事なまでの蹂躙が行われていた。
「みー!」
アイビーが口から光線を放ち、尻尾だけで僕くらいの大きさがある緑色のサソリを打ち抜く。
ぴちゅんという音が聞こえたかと思うと、ビームがサソリの向かいにあった木まで纏めて貫いてしまっている。
手加減に納得がいかないらしく、彼女は小首を傾げていた。
「グルッ!」
サンシタが爪を木の魔物、トレントへと振り下ろす。
ズバッと音を立てて、一刀両断。
ギザギザとした刃の跡を残しながら爪が抜けていく。
「ガルッ!!」
その後ろに控えていた二体のトレントに対しては、口から火を噴いて対応していた。
森全体が燃えるのを配慮してか、気持ち火力は抑えてあるようだ。
どうやら手加減は、サンシタの方が得意みたいだ。
サンシタの三下態度でつい忘れそうになるが、彼は泣く子も黙る一等級の魔物だ。
昏き森にいる魔物など、まったく脅威ではないんだろう。
倒したトレントを見て、なんだか残念そうな顔をしているし。
「みぃ!」
サンシタの炎が他の成木に回りそうだったのを、アイビーの水の矢が防いだ。
それを見て、三下グリフォンがハッとしたような顔をする。
自分の過失に気付いたみたいだ。
【すいやせん、アイビーさん……】
『みっ』
わかればいいのよという感じでアイビーが頷く。
久しぶりにはっちゃけられたはいいものの、上には上がいるということを改めて知ったようで、サンシタが下を向いて落ち込んでしまった。
「ああ、もうそんなに俯いてばかりいたら魔物探せないよ? どうせなら今日の夜ご飯になるような大きい獲物を狩ってみせてよ。皆でバーベキューでもしよう」
【そ…そうでやんすね、あっし空なら負けやせん。ぶち高ぇところから獲物、見つけてきやす!】
サンシタはそう言い残して、木々を掻き分けて大空へと飛び立ってしまった。
……一応、気分転換くらいにはなったのかな?
植生が割と濃くて木々が鬱蒼としてるから、空から探すのは大変だと思うけど……頑張ってもらいたいところだ。
昏き森だろうが、彼らには普通の森と何も変わらないらしい。
これなら安心して、適当な場所を探せそうだね。
周りの目を気にせずに元のサイズに戻れる、アイビーの心を休められる場所が。
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