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アクープ


「ふぅむ、何度見ても信じられない。これがあのアイビーだとは……」


 僕達は村を出てかれこれ二週間ほどかけて、王国の首都であるナスファまでやって来ていた。


 首都にパイプを持っているらしいゼニファーさんの力を最大限利用するためでもある。


 僕たちは一度ゼニファーさんに会い、ギルドで従魔の所持契約をして、今は彼の家にお邪魔している。


「みぃー」


 今僕の肩には、僕が掬った時くらいのサイズにまで縮んでいるアイビーが乗っている。


 肩に乗れているからか、満足そうな鳴き声を出していた。


 僕の肩に乗ろうという執念は中々に凄まじかったようで、アイビーは僕の知らないうちに小さくなることができるようになっていたのだ。


 サイズ変更は割と自由自在で、大型犬くらいの大きさにも、元のサイズより一回り小さいくらいにもなれる。


 僕はとりあえず、アイビーのこの力を『収縮』と呼んでいた。


 どうやら長期間小さくなっていると疲れるみたいだけど、数週間程度なら問題なく使用ができる。


 さすがに王都にあのサイズで直接乗り込むとどうなるかわかったものではないので、この力が使えるようになってくれたのは本当にありがたい。


 以前最初に従魔登録をするために近くの街に行った時、そりゃもうてんやわんやの大騒ぎになったからね……。


「ところでブルーノ君、君はもう冒険者として活動する場所を決めていますか?」


「……一応、候補を絞ってるくらいですけど」


 とりあえず冒険者になれば、アイビーが捕獲されたりすることもなくなるだろう。


 そんな思いから職を選んだだけで、具体的なビジョンがあったりするわけではない。


 アイビーと僕に危険が及ばないような活動場所は、一応いくつか選定している。


 活動自体は……彼女と一緒に人助けでもできたらなぁ、とは思っているけれど。


「今君には二つの選択肢がある。まず一つ目は王都で冒険者をやること。縮むことができるのなら迷宮にだって入れるだろうし、色々な依頼も問題なくこなせるでしょう。アイビーがどれくらい強いのかはわかりませんが……多分私達がやられた時より、強くなってるでしょう?」


「はい、多分そうだと思います」


 アイビーはどんどん大きくなってる。

 それはたしかなんだけど……強さに関しては、未だによくわかってはいない。


 そもそも村で戦う機会なんてないし、元々イノシシとか倒せてたから、前よりどれくらい強くなったかとかはわからないんだよね。


 ただ口から雷とかも吐くようになったし、障壁みたいなのも張れるし、傷とかも治せるようになったし、最近は遠くからでも僕の声が聞こえるようになったりもしている。


 だから多分、色々と強くなってはいると思うんだ。


 そのあたりは実際に冒険者としてやってみないと、わからないけど。


「ただずっと王都にいると問題も生じます。王都には目や鼻の利く人間が多い。アイビーが狙われたり、間接的にブルーノ君が襲われたりする危険性があるのです」


 アイビーは亀型魔物としては、とても珍しい。


 アイビーの種はギガントアイビータートルっていう長い種族名になったんだけど、そもそも彼女以外にこの魔物の目撃情報はない。


 色々調べてもらったりもしたけど、アイビーの同族は少なくとも国内や国交のある国にはいないらしいのだ。


 そんな稀少な魔物を、僕みたいな別に凄くもない冒険者が持っている。


 となれば殺して奪い取ってしまおう、くらいのことを考える奴も出てくるかもしれない。


「その点二つ目の選択肢、どこか王都から外れており、かつある程度名の通った貴族の治める街へ行くという選択肢の方が色々とやりやすいでしょう。そこで貴族に認められ、保護下に入れば、そう簡単にブルーノ君達が狙われることもなくなるはずです」


 一応僕の考えも、この二つ目に近かった。


 どこか郊外の街で、誰かの庇護下に入って、僕とアイビーが平和に暮らせるような場所に行きたいって思ってたんだ。


 ずっとちっちゃくなるのはアイビーが疲れるみたいだから、土地の安い場所の空き地でも借りて、アイビーを元の姿で休ませてあげたいし。


 人づてに聞いたことはあるけれど、僕は実際に遠出をしたことはほとんどない。


 なので候補として考えている街の名前を、ゼニファーさんに言ってみる。


 彼は話を聞いてうむむと唸ってから、


「それなら……アクープが一番いいですね。エンドルド辺境伯の本邸がある、風光明媚な土地です。西には魔物の湧く森があって、冒険者としての仕事には事欠かないでしょう。若干治安は悪いですが、君とアイビーならなんとかなるでしょうし」


 アクープの街は、王都からだと結構な距離がある。

 僕の候補としては下から数えた方が早い街だ。


 馬車で半月以上かかるし、そんなにずっと馬車代と食費を出せるほどの蓄えが、僕にはないのだ。


「いや、あそこの辺境伯は非常に愉快な方でしてね。開拓民の血がそうさせるのか、とにかく新しい物好きで実力主義なのですよ。非常に強権的なので、アイビーが気に入られれば色々と諸問題が解決すると思います」


 お金がないですと正直に話すと、


「私の馬車を御者とセットで貸しましょう」


 とゼニファーさんが言ってくれた。


「……何で返せばいいですか?」


 とおそるおそる聞くと、今度アイビーの甲羅をちょっとでいいので削らせてくださいと言われた。


「アイビー、いい?」


「……んみぃ」


 仕方ないわね、という様子でオッケーを出してくれるアイビー。


 彼女には迷惑をかけっぱなしである。


 その分これから暮らしていく中で、アイビーがしっかりと暮らせるように頑張らないと。


 僕は気持ちを新たにして、ゼニファーさんに馬車をチャーターしてもらうことにした。


 こうして僕たちが冒険者としてやっていくのは、アクープの街に決定した。

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