名物
「……どういう想像をしてたのかわかりませんが、僕は至って普通の人間ですよ」
ちょっと場の雰囲気が弛緩したのを察して、懐に手を入れる。
武器は持ってきてないとわかってるだろうに、暗器か何かを警戒してるんだろう。
一見普通なのに実は凄腕の暗殺者、なんてはずないのにね。
そんなわけのわからない人間がいるのは、物語の中だけだ。
……僕の人生も、本の中の登場人物に負けず劣らず、振り幅は激しい気もするけどさ。
ゼニファーさんから受け取っていた手紙を、取り出して、近くにいる家令の人に渡す。
貴族に直接手紙を手渡すのはマナー違反で、場合によっては処罰もされる。
これはサラさん達から教わった、基礎的なマナーの一つだった。
辺境伯は手紙の中身を確認して、なるほどな……と口角を上げる。
彼が見たのは僕……ではなく、肩に乗ってのんきにあくびをしているアイビーだった。
「大方その亀が諸処の問題の中心だろ。どうだ、当たらずとも遠からずって感じか?」
……やっぱり辺境伯ともなると、観察眼が長けてるんだろう。
彼は一目見ただけで、一発で僕を普通の人間と看破してしまった。
グリフォンに乗ってたって事実は知ってるはずなのに、その色眼鏡だってない。
アイビーが騒動の中心点にいるってことを、こんなに早く見抜いちゃうなんて。
彼は驚嘆している僕にガハハと笑って、
「いや、冒険者ギルドから亀がバカ強って話と、お前が普通の奴ってことは聞いてたからな。あとは単純な推理をしてそれっぽく言っただけだ。こんなので驚いてたら、お前怪しい占い師とかに騙されてケツの毛までむしり取られるぞ」
と種明かしをしてきた。
……彼の辺境伯としては異様な風貌にインパクトがあったせいか、ショックを受けてたけど。
確かに少し情報が得られてれば簡単にわかることではあるのか。
どうやら僕も、緊張して頭が回っていないらしい。
「まぁなんにせよ、護衛の依頼自体はついでみたいなもんでよ。実際のところはお前さん達と顔合せしときたかったってだけだ。あとはまぁ……グリフォンが出した損害の補填とかな」
お金がないので今すぐは払えませんと正直に告げると、別に全額払わんでも護衛受けりゃそれでいいよと言ってくれる。
辺境伯からすると、グリフォンライダーである僕が娘の護衛依頼を受けるという部分に大きな価値があるみたいだった。
「最近はいい話の一つもなかったからよ、これでしばらくは盛り上がるぜ。もしかしたらグリフォン饅頭とか、グリフォン飲料とか売り出すかもしれないから、そんときは頼むな。一部パテント料は払うからよ」
どうやら辺境伯は、グリフォンで一儲けしようと考えてるみたいだ。
確かに知名度は抜群だし、あの三下グリフォンが街の名物みたいになれば利点も大きい……のかな?
あの三下グリフォンが有名になるのに、若干の恐ろしさも感じるけど。
――僕も釣られて有名になるっていうことと、あんなのがグリフォン代表みたいな売り出し方をされて大丈夫なのかという二つの点から。
あとでグリフォンたちが大挙して、グリフォンはあんな変な奴らばかりじゃないと殴り込みでもかけにきたらどうしよう。
……考えすぎか。
魔物も皆が皆、アイビーみたいに人間に近い感性を持ってるわけじゃないんだし。
でもどうやら辺境伯に、僕やアイビーを危険視して殺しとこうとか、どっか別の場所へ放り出してしまおうとか、そういった考えはないみたいで少し安心だ。
まだ全然時間は経ってないけどさ。
なんやかんやで僕たちのことを受け入れてくれてるこの街の人達ことを、嫌いじゃないと思ってる自分がいるから。
その後もどうやってアイビーを手に入れたかとか、グリフォンテイムまでの流れをざっくりと説明したりしてるうちに、結構な時間が経った。
わりと濃密な時間だったね。
聞かれるばかりで、向こうの話はあまり聞けなかったけどさ。
でも僕たちのことを知ってもらえるのは、悪い話じゃないよね。
庇護するって、明確に言われたわけじゃないけれど。
言動とか態度とかでさ、なんとなく僕たちのことを結構快く思ってくれてるっていうのが伝わってきたもの。
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