エンドルド辺境伯
ちょっとした散歩くらい歩いてなんとか本邸へと辿り着いた僕ら。
さすがに家の中にグリフォンを入れることはできないらしく、彼は一人馬車を引く馬を繫留させておく厩舎へと連れて行かれていた。
不思議なことに、アイビーを連れて行くのは領主直々に許可が出ているらしい。
アイビーも一応魔物なのに、大胆なことをするなぁと思う。
グリフォンも『あっしも連れて行って欲しいでやんす!』ってめちゃくちゃ叫んでたけど……残念ながらさすがに連れていけないよね。
……ていうかさ、ずっと疑問に思ってたんだけど。
彼はどうして、グリフォンなのに口調が三下なんだろう?
……彼、空の覇者だよね?
僕の勘違いとかじゃないよね?
同じグリフォンが今の姿を見たら、呆れかえるんじゃないだろうか。
というか今思ったけど、まだグリフォンに名前付けてないや。
あとで決めておかないと。
毎回グリフォンって呼ぶのはなんか違う気がするし。
「みー」
あいつの名前なんて、三下で十分とアイビー。
……いくらなんでもそれは、可哀想すぎじゃないかな?
なんかアイビーのせいで変に見えるだけで、彼は一等級の超強い魔物なんだよ?
いや、確かにボコボコだったけどさ。
それはアイビーが強すぎただけだって。
「み!」
強いと言われて機嫌が良くなった彼女と一緒に、屋敷の中を歩く。
土地も広いが、屋敷も大きい。
しばらく歩いても、目的の辺境伯の私室にはなかなかつかない。
屋敷が大きすぎるせいで方向感覚がバグり、どう行けばつくのか既にちょっと怪しくなり始めている。
入り口から入ったときに辺境伯の私室は聞いているけど……少しでも頭を叩かれたら、記憶が飛んでしまいそうだ。
間取りとか一回説明されただけで覚えてられるほど、僕の記憶力は良くないのだ。
「みー」
え?
ここは右じゃなくて左だって?
……アイビーって、記憶力もいいんだね。
また彼女の新たな一面を発見してしまった。
敵わないなぁ、本当に。
僕はアイビーのアシストに助けられながら、妙にくねくねと曲がっている屋敷の中を歩いて行った――。
「失礼します」
「おう、入れや」
アイビーの先導に従いやって来た僕たちは、ノックをして確認を取ってから扉を開ける。
巨人の楯としても使えそうな、各所を鉄で補強してあるドアを開くと、そこには簡素な造りの部屋が一室あるだけだった。
置かれている家具も最小限だし、ゴテゴテとした装飾もない。
使っている物の質は良さそうだが、絨毯も、机も、あまり華美な見た目のものではない。
これだけ土地も屋敷も広いのだから、私室はさぞ大きいのだろうと思っていたから、ちょっと意外だ。
「もっと金ぴかな部屋だと思ってましたって顔してるぞ」
「そ、そんなこと思ってませんよ」
「あらかじめ言っておくが、俺嘘嫌いだから。適当なことばっか言ってると、領主権限発動させるぞ。何か言うなら、そのつもりでな」
「……実はちょっぴり思ってました」
エンドルド辺境伯の第一印象は……こういう表現でいいのか、非常に判断に迷うけど。
ちょっと小綺麗にしてる海賊の頭、みたいな感じというか。
髪は鏡を見ないで自分で切っているのか、前髪がぷっつりとおかっぱのようになっていて。
髭は切り揃えておらず長さがまちまち。
着ているのもところどころがほつれた、ごわごわしてそうな綿の服だ。
こうして屋敷へ入って、私室へ案内されない限り、目の前の人物が辺境伯だなどと言われても信じられなかったかもしれない。
ただ目には剣呑でありながらも、知性の光が灯っている。
こちらを観察し、どう利用するかを考えている上に立つ者特有の冷徹な眼差しだ。
「先ほどエカテリーナ様には会いました。彼女の護衛ということですが……」
「ああ、近頃うちの領地周りできな臭い動きがあってな。子飼いの奴らじゃ全部に手が届かんから、腕利きを雇おうとしたんだよ。そしたら希代の英雄様が現れたってんで、早速食指を伸ばしてみたってわけだ。でもあれだな、お前――」
辺境伯がこちらをじっと見つめる。
全てを見透かそうとするかのように、目には力が宿っていた。
彼は僕の全身をなめ回すように見つめてから、あっけらかんとこう言った。
「普通だな。思ってたのと違ったわ」
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