英雄殿
明けて次の日。
本当なら手紙を持ってきて衛兵の人に渡すだけだったはずなのに、どうしてこんなことになったんだろう。
僕は世界を嘆き、悲哀を滲ませながら、エンドルド辺境伯の本邸へとやって来ていた。
アクープの街は中央部に貴族街と呼ばれる裕福な層の人間が、その外縁上にそれ以外の人間が住むような円形の街になっている。
辺境伯の本邸はその中心部、両者の間を取り締まる衛兵さん達のところを越え、更に奥まで行ったところにある。
そんな金持ちの中でも特に金のある人達のいる場所に、僕はグリフォンと共に来るように命令されていた。
「グルゥ」
皆見てきやすね。
処しやすか?
そんな物騒なことを言うもんじゃないよ。
確かに視線は沢山感じるけどさ。
衛兵の中でも偉いらしい、兜に赤いひたたれを着けている人の直接の先導で、僕たちは大通りを歩いている。
すると事前に情報が行くようにしてあったからか、色んな人間が僕たちの方を見てくるのだ。
身なりがいい人間も多いが、そうでない人間も結構いる。
貴族の雇っている使用人や、貴族を守るための冒険者のような人達だろう。
明らかに戦闘用の鎧を着けている冒険者の先輩が、こちらを見て苦い物を見るような目をしていた。
暴れてくれるなよ、という気持ちがこちらにまで伝わってくる。
多分、いざとなった時に僕たちを止めるようにでも言われているんだろうな。
どうやら辺境伯は、僕が屋敷に来るって事を皆に周知させたいみたいだ。
派手好きなのか、それとも話題の中心に自分がいたいタイプなのか、はたまた何か狙いでもあるのか……まだわからないな。
「みー」
肩に乗るアイビーは人が沢山いるからか、少し疲れた様子だ。
人混みってどうしても気疲れするからね、わかるよ。
辺境伯……初めて会うけど、一体どんな人なんだろう?
「もっふもふなのじゃー」
今、僕はグリフォンに抱きつく少女を見つめている。
溶かしてから冷やしたガラスみたいな、光沢のある金髪をした女の子だ。
彼女はその青い目をキラキラと輝かせながら、臆することもなくグリフォンへと抱きついている。
着ているのは目の色に合わせた真っ青なドレス。
まだ暑いからか、パレオみたいに裾が少しだけ短くなっている。
――まずはどうしてこうなったのか、僕の置かれた状況を説明しようと思う。
ここからは辺境伯の土地だと言われ、僕たちはグリフォンとアイビー同伴で門から中へと入った。
そこに広がっていたのは庭と呼ぶにはあまりにも広すぎる、草原のような広大な空間。
どうやらこれら全てが、辺境伯の私有地であるらしい。
入り口からしばらく歩くと、ようやく屋敷のようなものが見えたので、とりあえずそこ目掛けて歩いていくことにした。
贅沢な土地の使い方だなぁ。
でもこんな風にできるってことは、土地が余ってるってことだよね。
それなら僕たちも、庭付きの家とか買えるんじゃないかなぁ。
いったいいくらぐらい有れば土地が買えるんだろうとゆるーく考えていたら……何故か途中で少女にエンカウントしてしまったのだ。
彼女は僕たちを見つけると元気に、目を期待に輝かせながら走ってきた。
そしてそのまま、タックルするかのような勢いでグリフォンへと抱きついた。
……というのが、今までのざっとした流れである。
【だ、抱きつかれたでやんす!?】
「食べちゃダメだよ、傷つけてもダメだから」
【難しい注文でさぁ。でもあっし、ブルーノの兄貴のためならやってみせますとも】
グリフォンは大人しく、されるがままに抱きしめられている。
僕が手を出したらダメだと言った理由は簡単だ。
辺境伯の本邸にいる、明らかに高そうなドレスを着ている少女。
その存在がどういう人物なのかは、大体の想像がつくからね。
「あの、すみません。もしかしてエンドルド辺境伯のお子さんですか?」
「……こほん、いかにも。わらわはエンドルド辺境伯が三女、エカテリーナである。英雄殿に会えたこと、誠に光栄に思うぞ」
どうやら彼女が、今回護衛を依頼された対象である三女エカテリーナらしい。
どんな子だろう、あんまり魔物に拒否感とかないといいな、とは考えていたけれど……思ってたより、ずいぶん若い。
年齢は……十二・三歳じゃないか?
多分まだ成人はしてなさそうな見た目だ。
彼女はわざわざ咳払いをして、今したことをなかったことにしたいようだった。
そんなことしても、今ノータイムでグリフォンに抱きついていた事実は変わらないと思うんだけど……まぁここは、乗っておいてあげようかな。
僕の方が年上だと思うしね。
……というか、英雄殿?
なに、その大層な呼び名。
もしかしなくても……やっぱりそれ、僕のこと言ってるよね?
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