ストレス
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「それってもしかしなくとも……あのゼニファーさんよね?」
「白髪交じりで、いっつも白衣を着てる、四十手前くらいに見える男の人ですね」
「間違いなくゼニファー=コーニットさんだね」
ゼニファーさんってそういう下の名前があるんだ。
……ん、あれ?
下の名前があるってことは……貴族だったりするの?
にしてはフットワークが軽すぎるような気もするんだけど……。
「なんであんたがきょとんとしてんのよ、普通逆でしょ逆」
「僕ゼニファーさんのことほとんど何も知らないんですよ。王都に顔が利いて、魔物の学者さんをやってることぐらいしか」
どうやら三人の反応を見るに、彼は結構凄い人のようだ。
いや、ムースさんが直にギルドマスターに手紙を渡しに行った時点でなんとなく察してはいたんだけど。
ゼニファーさんはとある功績から、法衣士爵として貴族になっている。
法衣士爵っていうのは、毎年年金がもらえるだけで土地とかは持たない貴族のことだ。
それだけは聞くとあんまり凄くないようにも聞こえる。
でも貴族っていうだけで、なんだかすごい偉いような気もする。
ただの学者さんじゃなかったんだったんだなぁ、ゼニファーさんって。
なんか面白くて頼りになる人って認識しかなかった。
ちなみに彼が王都から認められた功績っていうのは、数年前に起こった記録的な大不作をしのぐための方策を確立させたこと。
彼は今まで禁忌とされていてあまりなされていなかった魔物食を、普通の食事と同じくらいの味になるように品種改良をしたんだって。
ゼニファーさんと辺境伯が合同で出したいくつかの魔物食品は、今ではアクープの名物兼特産品にもなっている。
ケイブボアーと呼ばれる洞穴に住む魔物のイノシシを品種改良して草原で草を食ませるようにした、グラスポーク。
ワイルドビーというこぶし大の蜂の女王を操って取れるようにした、暴力的な甘さがありほんのり魔力も籠もっている魔糖蜜。
釣りに来た人間を噛み殺す魔物のデモンサーモンを養殖して産んだ、自分から釣り針に食いついてくるカマスサーモン。
魔物の繁殖力というのは、普通の生物の比じゃない。
一週間もあれば成体になるようなのがほとんどだ。
だから爆発的な繁殖力がある魔物を食べ続けて、なんとか飢饉が起こらないようにしたらしい。
でもその成長速度とか出荷速度が速すぎて市場を壊しかねないからって、王都からは色々と制限をかけられてるんだって。
皆を助けるために始めたことだろうに、なんだかかわいそうな気がする。
それを鬱陶しがって、最近辺境伯は王都と距離を取って、交易する相手を遠くから選ぶようにしてるらしいけど……そうなるのもわかる気がする。
「色んな人の命を助けたんですね、ゼニファーさんって」
「そうだよ。基本的に危険なばっかりでまともに来なかった商人達も、最近は血相を変えてこっちのゴマをするようになった。このアクープの街を始めとした辺境伯領じゃ、彼は尊敬の的だよ」
「ていうか私的には、ブルーノ君がどうして彼と知り合いなのかの方が気になるんだけど」
「ああ、実は前にアイビーを捕まえに来たゼニファーさん達を返り討ちにしたことがありまして」
「返り討ちにっ!?」
「それから仲良くなって、色々と骨を折ってもらいまして」
「めちゃくちゃはしょったね!? どうやったらそこから距離を縮められるのさ!」
「ちなみにアイビーの種族の名前、ギガントアイビータートルって言うんですけど、その学術名を付けたのもゼニファーさんなんですよ?」
「へぇ、どんな名前なの?」
「ゼニファー=ゼニファー=ゼニファーです」
「「「ぶふっ!」」」
やっぱり初めて聞いたとき変な名前だって思うよね。
僕も笑ったもん。
「みー!」
肩を滑って首下へやってきたアイビーに、ガジガジと耳たぶを囓られる。
わっ、ちょ、ゴメンって!
そういえば前もこの話をしたときにアイビーが怒ってたような気がする。
さすがに自分の種族の名前を笑われるのは嫌だよね、ごめんごめん。
僕の種族が人間ですって言われて笑われるようなものだもんね、そりゃあ良い気分はしなよね。
「でもアイビーみたいな亀が何匹も群れになって、どこかの池で暮らしてるって考えるとさ……」
「――ぞっとするわね」
「その池、どんな城塞より難攻不落かもね」
三人がかしましくそんな話をしているのを、僕は黙って聞いていた。
そうか……そうだね。
確かに今まであんまり考えたことはなかったけれど
もしかしたらどこかにアイビーの家族や、同種の仲間がいるかもしれないんだ。
アイビーに仲間がいるんなら、会わせてあげたいな。
彼女が優しいからあまり気にしてなかったけど。
今のアイビーの状況ってさ、例えるなら僕一人だけがゴブリンの集落で暮らしてるようなものなんだよね。
すごいストレスが溜まっていても、全然おかしくない。
ある程度路銀ができたら、ゼニファーさんと一緒に、アイビーの仲間を探しに行くのもありかもしれないな。
「みぃ!」
「あはは、ちょっとアイビー急に重くならないでってば!」
僕が珍しく真面目に考えていると、アイビーが『ラピスラズリ』の女の子達と仲良くなっていた。
……前言撤回。
全然ストレス溜まってなさそうだ。
今まではアイビーを恐がる人ばかりだったからわからなかったけど。
実は彼女って結構、コミュニケーション能力が高いのかもしれない。
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