ゼニファーさん
「みぃ!」
ちゅどーん!
僕を乗せられるくらいのサイズになったアイビーの雷撃が炸裂する。
彼女が口から出す攻撃の大きさは、基本的には使うときの身体のサイズに比例する。
意識すれば収束させたり拡散させたりもできるけど、面倒くさいのかあまりやろうとはしないんだよね。
生後三年後サイズのアイビーの一撃は、拳大の光線の大きさだ。
目にも止まらぬ速さでオーガへ飛んでいき、即座にヒット。
胴体に突然の攻撃を食らったオーガが、口から血を吐き出した。
光線が消えると、まるで光に肉体を食われたかのようにそこにだけぽっかりと穴が空いている。
ドスン!
オーガが倒れ、場を静寂が支配する。
「……」
「……」
「……」
エナさんもサラさんもアイシャさんも、皆口をあんぐりと開けていた。
初めて見た時は僕もあんな顔をしていたなぁ、と少し懐かしい気分になる。
どうやらオーガくらいなら、アイビーの一撃でなんとかなるみたいだ。
確か四等級の上の方が倒せる魔物って言っていたから、とりあえず今のランクのままなら問題はなさそうかな。
「私は一度ドラゴンのブレスを見たことはあるが……確かに別物だな。むしろ威力はこっちの方が高い気がするけど」
「ていうか……僕たち何もしないうちに終わっちゃったね」
オーガ討伐だというのにあまりにもあっさりと終わったからか、二人が気の抜けたような顔をしている。
先ほどから真剣な顔をしているサラさんだけは、表情を崩してはいなかった。
「……ねぇ、帰りの馬車で話があるわ。わりと真面目な」
サラさんはそれだけ言うと、魔物の素材を回収するより先に馬車へと一人戻っていってしまった。
回復魔法の話をしていた時もそうだったけど……やっぱりアイビーのこと、だよね。
「ああ、こっちきてブルーノ。魔物の解体の仕方を教えるから」
「あ、はい。今行きます」
僕は意識をエナさんの方に戻して、彼女がナイフを突き立てているオーガの方へと走っていった。
「教会の奴らが、アイビーのところに来るかもしれない」
カーターからアクープの街へと戻るその帰途に、真剣な顔をしていたサラさんがそう告げた。
教会、というのはこの国の国教である神聖教のことだろうか。
やはり回復魔法に関連したことなんだろうか。
「……でもアクープの冒険者ギルドは、基本的に神聖教を親の仇のように憎んでるよ。ちょっと気にしすぎじゃないかな」
アイシャさんの言葉に、サラさんが首を横に振る。
それが否定の意味だっていうのは、彼女の表情からもわかる。
「人の口に戸は立てられない。正確なところまでは伝わらなくても、あと数ヶ月もしないうちに教会に話がいくでしょ。回復魔法を使える従魔を持ってる冒険者がいるってね」
「……アイビーを教会に連れて行こうとするってことですか?」
どうやら回復魔法を魔物が使えるということに問題があるようだ。
教会が秘匿(厳密には野良の回復魔法使いもいるからできてはないんだけど)している魔法を使う魔物がいるというのが、ちょっと教会の教義にひっかかるかもしれないらしい。
通常回復魔法のような高度な魔法を魔物は使わない。
ドラゴンやグリフォンと呼ばれる高位の魔物というのは、固有魔法と呼ばれる種族特有の魔法を使うのが普通らしい。
でもサラさんが言うには、アイビーが使っている回復魔法は、見る人が見れば固有魔法ではない普通の回復魔法だとわかってしまうらしい。
彼女はどうやらそれが人の口の端に上って、教会の人に知られることを危惧しているようだった。
「教会に連れてかれたらどうなるかわからないわ、最悪教会の敵として殺されるかもね。案外――巷で話題の聖女様のペットなんかとして扱われるかもしれないけど。聖女様の飼ってる亀は、回復魔法まで使えるぞ……なんて具合にね」
僕は、あまり信心深い方ではない。
家が農家だったから豊穣の神様のディアニテー様に、年に二回麦の種まきと収穫の時に祈りを捧げるくらいの信仰心しか持ち合わせてはいない。
だからそのなんたら教という宗教も知らないし、そこが崇めているなんちゃらって神様も知らない。
でも彼らがアイビーに何かしようとするなら、なんとかしなくちゃいけない。
アイシャさんの言葉を信じるなら、どうやら今すぐにどうこう、という話ではないみたいだけど。
でも心の片隅辺りで、気に留めておかないといけないな。
「冒険者ギルドとその宗教は仲が悪いんですか?」
「悪いね。前にちょっと一悶着あって、それから冒険者達はあいつらを蛇蝎のように嫌ってるよ」
なんでもエンドルド辺境伯領が西部に広がっている森を開拓しようとした時、開拓に神の正当性を云々と難癖をつけてこられたことが発端らしい。
辺境伯は教会関係者にブチギレて、神聖教の禁教令を出し、一部の例外を除いて領内の布教と信仰を禁止したんだって。
どうやらその際、森の開拓に関わっていた冒険者達とも色々と問題を起こしたらしい。
だからアクープの冒険者で、教会の奴らを好きな者はいないそうだ。
アイシャさんの話を聞いてゾッとしたんだけど、どうやら王都ではまだまだ神聖教は幅を利かせているらしい。
僕が王都じゃなくてアクープを選んだのは、正解だったみたいだ。
そんな危険があるんなら、下手に隠したりせずゼニファーさんにアイビーのことを、全部話してしまったほうがよかったかもしれない。
今後悔しても、後の祭りなんだけどさ。
「でもエンドルド辺境伯って、随分過激な人なんですね」
いくら鬱陶しかったとはいえ、宗教を攻撃するだなんて。
だってそれって、神聖教の人とかが落とすお金が期待できなくなるってことでしょ?
よく領内が豊かなままでいられるよなぁ。
魔物の出る場所と近いらしいから、魔物の素材が安定して供給されてるって事が大きいのかも。
「うちの領主様は結構変な人でね。王都と交易品を減らして他領との取引量を増やしたり、魔物を使った特産品を作ったりとかしてるのよ。変なことばっかりやるから、半分くらいは失敗なんだけどね」
「なんだか面白そうな人ですね」
魔物を使った特産品だなんて。
どんなものなんだろう、僕の頭じゃ想像つかないや。
あとで父さんと母さんに買っていくのもありかもしれない。
早くも帰郷の時の事を考えながら、エナさんの言葉に相槌を打っていると、
「あんたも他人事じゃないわよ」
とサラさん。
気を緩ませ帽子を脱いでクルクルと自分の髪を巻いている。
……確かにそうかもしれない。
だって辺境伯って、強い人とかを歓迎するこの街の主である人なわけだから。
アイビーに興味を持っても、なんら不思議じゃない。
……あ、領主様のことを聞いて今思い出した。
まだ領主様へ手紙、出してないや。
どこへ出せばいいかわからなくて、結局そのままだ。
どうせならこのまま依頼の報告をするときに、旧知の仲らしいアンドレさんに渡してもらおう。
――いや、本当にそれでいいのかな?
領主様ってなんだか過激な人みたいだし、やり方を間違えたら怒られるだけじゃ済まないかもしれない。
「すいませんサラさん、領主様への手紙ってどうやって渡すのが正しいですか?」
「え? ……そりゃ普通に衛兵経由で領主邸の家令に渡せばいいんじゃん? なんでいきなりそんな話になるわけ」
「僕、知り合いの人から領主様に手紙を出すよう言われてたのを、すっかり忘れてまして。今日あたり、渡しに行こうかなと」
どうやらアンドレさんに渡すというのは、やり方としては正しくなかったみたいだ。
考えてみると、手紙を渡す程度の雑用をギルドマスターにさせるなんておかしいもんね。
渡す前に聞けて良かった。
軽挙をせずに済んだ。
「ちょっと待って、それ誰の手紙? 村の村長さんからの挨拶とかだと、辺境伯普通に怒るよ? あの人意味のない無駄って大嫌いだから」
「多分知ってると思うんですけど、ゼニファーさんって人なんですが……」
「「「ゼニファーさん!?」」」
わっ、びっくりした。
三人ともすごく驚いた顔をしてる。
……やっぱりゼニファーさんって、この街では相当有名な人なんだなぁ。
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