待つ
見慣れぬ黒い空間へ入ったかと思うと、次の瞬間には明るい場所へと出た。
その光量の差に目を白黒させていると……あれ、ここ、どこかで見たことがあるような……?
「ふわあぁ……眠いのじゃ……あったかくて、お日様もぽかぽかで……zzz……」
「……カーチャ?」
やってきたのが、見慣れた空間だった。
何度もやってきたことのある、辺境伯の屋敷の一室。
娘に甘い辺境伯が特注で作ったのだろう、周りの部屋よりも一回りも大きなカーチャの部屋だ。
奥の方には天蓋付きのベッドが見えており、開かれている窓からは涼しい風が吹いてくる。 自然光を上手く取り入れることができるようになっていて、明かりを点けずとも勉強机の上で手元が暗くならないような設計になっている。
夜でも勉強や読書ができるよう明かりの魔道具が設置されている勉強机には、教科書が広げられていた。
座り心地の良さそうな革張りの椅子に座っているカーチャは、そこでこくこくと舟を漕いでいた。
でも、それも無理もないことだと思う。
まだ未成年なのに、あっちこっちと飛び回ってたからね。
「眠たいせいか、なんだか幻聴まで聞こえてくるのじゃ……まさかブルーノがここにいるわけでもあるまいし……むにゃむにゃ……」
「ごめんね突然お邪魔しちゃって」
「何を言う、妾とブルーノの仲じゃろう。いずれ妾がナイスバディーになったらその時には……むにゃむにゃ」
……ナイスバディー?
何を言ってるんだろうと思いながら、カーチャの隣に立ち、そのまま後ろに数歩下がる。
少し後ろからカーチャのことを見つめるこの場所が、彼女を護衛する時の僕の定位置だった。
以前のことを懐かしんでいると、思わず笑みがこぼれる。
昔の思い出はキラキラとしていて、今の気持ちすら上向かせてくれるのだ。
「むにゃ……?」
足音が聞こえたからか、カーチャが顔をゆっくりとこちらに回してくる。
すると寝ぼけ眼で半分目を閉じている彼女と、視線がバッチリ合った。
「ぶるー……の……?」
「そうですよ、ブルーノですよ」
カーチャがこてんと首を傾げる。
焦点の合っていなかった瞳が徐々にその輝きを取り戻していき……カーチャがぱちりと、目を瞬かせた。
「なっ……」
「な?」
「ななななな――なんでここにブルーノがっ!?」
ずざざざざっとすごい勢いで後ずさりするカーチャ。
あわあわと口を開いている彼女に謝ってから、僕は事情を説明しようと口を開いた時に――
「みいっ!」
元気な泣き声を出しながら、アイビーもカーチャの部屋の中に入ってきた。
アイビーが入ってくる時に現れた黒い空間を見て、カーチャはどうやら事情を察したようで。
「なるほど、これもアイビーの魔法、というわけかの」
「その通りなのじゃ」
「ちょっ!? 妾の口調を真似するでない!」
「あいたたっ!? ごめん、ごめんってば!」
よだれを垂らしながら眠っていたさっきの顔がかわいかったから、ついうっかり。
「か、かわわっ!?」
どうやら心の声が出てしまっていたようで、カーチャが顔を真っ赤にさせてしまう。
ご、ごめんね。
「――わ、妾の純潔をもてあそびおって! 責任取るのじゃ、ブルーノ!」
せ、責任って……どういうこと?
僕はよくわからないながらもとにかく謝ることにした。
感情で怒る女の子相手に、理論で話をしようとしてもまったく通じない。
なのでこういう時はどっちが悪いとかは関係なく、男側が相手が機嫌を治すまで謝る敷かない。
以前父さんから教えてもらった女の子の機嫌を取る秘訣に従い、僕は百面相をしているカーチャに平謝りをし続けた。
するとアドバイスは正しかったようで、ひとしきり怒ってからカーチャは僕らのことを揺りしてくれた。
僕はなんとかしてその場を切り抜けることができ、ホッと安堵のため息を吐くのだった――。
「ふぅ、ひどい目にあったよ……」
「みぃみぃ」
『まぁまぁ』という感じで僕のことをなだめるアイビーに頭を撫でられながら、僕は屋敷に戻ってきていた。
あの後もアイシクルから色々な話を聞いたので、魔王十指に関しての情報はかなり集められた。これがあるのとないのとでは偉い違いだ。
あとでアイシクルに、なにかお礼をあげなくちゃいけないね。
屋敷に帰ってくると既にサンシタは球体フォルムから回復しており、いつものすらっとしたグリフォンに戻っている。
でもアイビーがクワトロが使っていたあの転移魔法(でいいのかな?)を使うことができるのなら、話はずいぶんと変わってくる。
どうやらあの魔法は、行ったことがある場所にしか行けないようになってるみたいだ。
なのでまず最初にアイビーが魔王島に向かう。
そしてこっちに戻ってきてから、一緒に戦う仲間を引き連れて魔王島へ再度転移する。
これができれば、魔王島に行けないという最大の問題は解決できる。
魔王十指の強さは、右第四指や右第五指といった最上位の魔物達相手では、今の僕でも勝てるか怪しいくらい。
そして右手指は五体全てが現存しているし、更に左第五指の魔物もまだ生きている。
六体の強力な魔物達をなんとかして、更に魔王とも戦わなくちゃいけないというわけだ。
「仲間がいるね……」
今では彼女の邪魔をしないように戦えるようにはなったけれど、それでもまだ僕の本気は彼女の全力にはほど遠い。
サポートならできるとは思うけど……それなら僕の役目は、魔王十指のうちの一体を引き受けて、アイビーと魔王との直接対決に邪魔が入らないようにすること、かな?
僕が誰か一人受け持ったところで、まだ魔王十指は五体も残っている。
彼らを相手取ることができるだけの仲間集めが必要だ。
一人目は、まず間違いなくレイさんだ。
後で聞いた話では、レイさんは魔王十指の中では下から数えた方が早い左二指を相手にして苦戦していたらしい。
けれど伝承によれば、勇者は魔王すら倒せるほどに強くなることができるらしい。
彼女のひたむきさがあれば、魔王十指と戦えるだけの勇者になれると思う。
次はサンシタ。
彼は僕とアイビーが魔王島に行こうという話をしている時に
『もちろんあっしも行くでやんす』
と参加を表明してくれた。
サンシタもレイさんやアイビー相手の修行を続けることで、既に普通のグリフォンとは比較にならないくらいに強くなっている。
アイシクル、マリアさん、ハミルさんの三名も何かあったら力を貸すと言ってくれている。
けれど僕も含めてだけど……魔王十指を戦うためには、まだまだ実力が足りない。
どうしようかと少しだけ悩んで、こういう時の答えを持っている彼女に聞くことを決める。
「ねぇアイビー。僕らを、魔王十指と戦うことができるようになるくらい強くしてほしいんだけど……できるかな?」
そんな僕の無茶ぶりに対し、頼もしい僕の相棒は少し首を捻って考えるようなそぶりをしてから、
「みいっ!」
と力強く、胸を張るのだった――。
「――というわけで、もし良ければ皆で一緒に修行ができればと思うんですが……どうですかね?」
僕は救世者のメンバー全員を集めていた。
集めるのにも一苦労だったよ……特にレイさんなんか、王国にすらいなかったしね。
現在僕らは、辺境伯の屋敷に集まっている。
そこで僕は彼女達に、今人間が抱えている問題について全てを打ち明けることにした。
本当はギルドを借りても良かったんだけど、あんまり色んな人にいらぬ勘ぐりをされてもつまらないからね。
それにアクープの防衛戦力である僕らの去就に関わってくるということだし、今更知らない仲でもないから、辺境伯にはしっかりと話を通しておかなくちゃいけなかったっていうのもある。
ちなみにお目付役というわけじゃないけれど、話し合いの様子を見守る見届け人としてカーチャも側で僕らの話を聞いている。
「なんと……そのようなことが……」
カーチャもかなりショックを受けているみたいだった。
たしかにできることならカーチャにはあまり物騒な話をしたくなかったんだけど……辺境伯はどうして、同室するよう命じたんだろう。
「……(ブルブル)」
このまま本当に魔物の強さが一等級上がるのなら、それが領地にどんな被害を与えることになるかを考えたからか、カーチャの身体が小さく震えた。
流石に見ていられなくなったので、立ち上がってカーチャの下へと歩いていき、彼女の震える手を握ってあげた。
カーチャの手は僕より一回りも小さく、強く握れば壊れてしまいそうなほどに白く、そして細長かった。
「大丈夫だよ。問題にならないようにするために、僕らが行くんだから」
「で、でもでも……そんな強い奴らを相手にしていたら、ブルーノもアイビーも死んでしまうのじゃ! 全てをブルーノ達が解決しなければいけない道理などない。それをしなくてはならんのは、国であり貴族のはずじゃ!」
たしかにカーチャの言っていることは正しい。
けれど彼女自身、自分が言っているのが理想論であるとわかっているためか、どこか憮然とした表情をしていた。
王国は王様と大貴族達が揉めている。
魔王十指に内側をかき乱されたセリエは一段落ついてはいるけれど、王国そのものと国交が開かれてはおらず、辺境伯達一部の貴族としか連絡は取れない状態だ。
同じく魔王十指による被害を受けている帝国なんて、王国で暮らしていたら情報はまったく入ってこない。
こんな状況で、レイさんの下足並みを揃えて魔王を討伐しに行くなんて、どう考えても不可能だ。
けどやらなければきっと、どこかで悲劇が起こる。
だから僕らがやる。
力があるからこそ、やらなくちゃいけないんだ。
「大丈夫だよ。もちろんしっかりと修行をするつもりだから」
「修行? アイビー殿やブルーノ達とは一緒にしてきたつもりだが……」
そういって不思議そうな顔をしているのは、現在各地を飛び回りながらなんとかして各国の連携を説いて回っているレイさんだ。
パーティーの最中に抜けてきてもらったため、真っ赤な絨毯を一枚の衣類に仕立て上げたような、金と赤の派手なドレスを身に付けている。
「なんでもアイビーに策があるそうです。今の僕らでも魔王十指と戦うようにするための策が」
「ほう……なんにせよ、アイビー殿の言うことなら間違いはないのだろうな」
そう言ってレイさんは、グッと唇をかみしめる。
真っ赤に塗られたルージュを、食いしばって唇から流れ出す血の紅が上書きしていく。
「私では……力不足だった。大陸をまとめ上げることもできなければ、魔王を倒すこともできそうにない……すまないな、こんな不甲斐ない勇者で」
「そんなことありませんよ。レイさんの存在は、皆の心の支えになっていると思います」
「そうなの……かな。はは、最近はあまり考える余裕もなくてね、どうにも思考がグルグルと堂々巡りを繰り返しているんだ」
たしかに僕とレイさんが純粋に力比べをすれば、軍配は僕の方にあがることだろう。
けれど強さがまだまだであったとしても、レイさんが果たしている役目は非常に大きい。
魔物の被害や突如としてやってくる黒の軍勢――王様達から直接言明されているわけではないけれど、皆ここ最近の不穏な空気というものは肌で感じ取っている。
それでもいつも通りの生活を続けることができているのには、レイさんが勇者として皆のの精神的な支柱になっていることも大きいと僕は思っている。
「それにこれから強くなっていけばいいじゃないですか。アイビー曰く、僕らはまだまだのびしろしかないみたいですよ」
「これから強く……か。そうか……そうだな。勇者の私が、くよくよしている時間なんてないものな」
「あら、そんなことにすら今更気付きましたの? 相変わらず頭の回転が遅いのね、勇者様は」
「もう一回言ってみろ、背中に生えたその羽根をむしりとってやるぞ」
レイさんの言葉を聞いてもどこ吹く風、いつもの調子でアイシクルはおーっほっほと高笑いをしている。
完全にアイドル養蜂家としての地位を確立しつつある彼女は、正直なところ来てくれないと思っていた。
けれど彼女もサンシタと同じようにたっての願いということで、魔王島への上陸を求めてきたのだ。
「というかアイシクル、お前こそいいのか?」
「いいって……何がですか?」
「だってお前……魔王十指も魔王も、お前の上司みたいなものだろう? そんな奴らに反逆なんかして、大丈夫なのか?」
アイシクルとレイさんはいつも喧嘩ばかりしている。
けれど喧嘩するほど仲がいいというやつで、二人とも相手のことをかなり気にかけている節がある。
もちろん僕がそう言うと、二人とも反抗するんだけどね。
「私、この街に住む皆様のこと、結構気に入ってますの。彼らを魔物で押しつぶして滅ぼしてしまおうとする魔王様の考え方には、やっぱり同意できません。相手は獣ではない理性ある動物なのですから、わかり合うことはできずとも、対話をすることくらいは難しくないはずですもの」
「お前……色々と考えてるんだな」
「ええ、いつも忙しい誰かさんとは違って、幸い時間には余裕がありまして」
そう言って不敵に笑うアイシクル。
見つめ返すレイさんの方も、まんざらでもなさそうだ。
やっぱり二人とも、仲良しである。
ライバルみたいな関係性なのかもしれない。
「もちろん私も行かせてもらうよん。こんな気ままな冒険者生活をしてるから、世界とか国とかはどうでもいいけどさ、こんな面白そうなことに参加しない手はないもんね」
前回の魔王軍の討伐報酬で浴びるように酒を飲んでいたシャノンさんがパチリとウィンクをしてくる。
もしかするとまだ酔っているのかもしれないと思い、回復魔法をかけた。
するともう一度、パチリとウィンクをされる。
どうやら最初からあまり酔ってはいなかったみたいだ。
シャノンさんとは、この中にいる誰よりも付き合いが長い。
知り合った順番で言えば、サンシタよりも先になるわけだし。
シャノンさんからは、先輩冒険者として色んなことを教えてもらった。
彼女がいなければ、果たしてサンシタを僕の従魔として登録することができていたかどうか……。
それに僕が危険な場所へ足を踏み入れる時に、彼女は躊躇なくその隣についてきてくれる。
無理矢理とか勇気を出してとかそういった感じではなく、いつも通りに飄々と、日常生活の延長線上のように危険地帯へと踊り出す。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「そんなの決まってるじゃん――ブルーノ君の近くにいるのが、一番刺激的でワクワクするからだよ!」
「な、なるほど……」
予想外の答えが返ってきたので、とりあえず頷いてしまう。
シャノンさんは豪放磊落というか、細かいところを気にしないタイプの人だ。
何にせよ、彼女は僕にとっては頼れる先輩だ。
貴重な戦力として頼りにさせてもらうことにしよう。
「もちろん私も戦います。こう見えて、まったく戦わないわけではありませんから」
「当然ながら、マリア様が行くのなら私も行かせてもらおう」
元聖女であり現在は人助けをしながら人々に回復魔法をかけて回っているというマリアさん。
そしてマリアさんの護衛兼お付き役であるハミルさん。
マリアさんはセリエ宗導国で聖女として各地を転々としていたとしていた際、危険地帯に足を踏み入れることも多かったという。
そのためこちらに来てからは使う機会もないものの、戦闘の心得も一通り習得しているのだという。
そしてハミルさんは多分呪いの武器なのだろう怪しげで厳つい鎧を身につけた、とにかくパワフルな戦い方をする。
彼女達がついてきてくれるようになったことで、とりあえず人員的な問題はなんとかなりそうだ。
僕・サンシタ・レイさん・シャノンさん・アイシクル・マリアさん&ハミルさん。
この六人で魔王十指を相手にすれば、アイビーと魔王の直接対決に水を差すことはないだろう。
「で、後はどうやって強くなるかなんだけど……アイビー、その方法を教えてくれる?」
「みいっ!」
重力魔法を使ってふよふよと浮かんだアイビーが、窓を開けて外へと出て行く。
バルコニーへ出て、手すりに手をかけながら彼女を見つめていると、アイビーはそのまま地面に降り立った。
ここは二階なので、自然見下ろす形になる。
皆で団子になって集まりながら、アイビーが何をするのか見つめていると――ボンッ!
アイビーが一気に大きくなった。
全開の時の大きさにはほど遠いけれど、それでもかなりの大きさだ。
屋敷の前にある庭だと窮屈に見えるほどのサイズになった彼女が、全力で魔法を使う。
「みいいいいいっっ!!」
アイビーの全身を覆うように、魔法陣が展開されていく。
少し前に転移の魔法を使った時に負けず劣らずに精緻な模様が刻み込まれている。
あの時よりアイビーの身体が大きい分、サイズも何倍も大きくあり、数え切れないほど大量の光が次々と生み出されていく。
そして空間に固定された魔法陣が七色の光を発しながら、どんどんとその光を強めていき……あっという間に目を開けていられないほどの光量になった。
手で庇を作ってなんとか光をやり過ごしてから目を開けると……そこには六つの扉があった。
「みいっ!」
アイビーが光線を打ち出し、地面に焦げ目ができていく。
よく見るとそれらは、僕達救世者のメンバーのデフォルメされた顔が描かれている。
マリアさんとハミルさんは二人でワンセットになっていて、一番左側には舌を出しながらバカっぽい顔をしているサンシタの絵まで描かれていた。
どうやらそれぞれが指定された扉をくぐれ、ということらしい。
アイビーが言っていた策と関係があるんだろうけれど……強くなるためのヒントが、扉の先にあるってことなのかな。
僕らは階段を下り、扉の前にまでやってきた。
「この先に、強くなるために必要な何かがあるってこと?」
「みぃっ!」
アイビーがそう言うのならそうなんだろう。
ということで皆で、自分の似顔絵が描かれている扉の前へと向かう。
ドアノブを握った瞬間、ドクンと胸が高鳴った。
今まで色々な戦闘経験をしてきたからだろうか、第六感のような何かが、ここから先に進むなとこちらに訴えかけてくる。
けれど僕は本能を理性で押し込み、グッとノブを握る手に力を入れる。
僕のドアは、一番右側だ。
なので左を向くと、そこには救世者のメンバー達の姿があった。
皆が別々のドアをくぐるってことは、行き先も全員別々なんだろうか。
「それじゃあお先~っ!」
シャノンさんはひらひらと手を振りながら、何のためらいもなくさっさとドアの向こう側へと入っていってしまった。
「……(こくっ)」
レイさんはこちらを見て、一つ頷いた。
そしてすぅはぁと一度大きく深呼吸をしてから、ゆっくりとドアの向こう側へ消えていった。
その後もマリアさんとハミルさんがドアを通り、アイシクルが鱗粉を飛ばしながらドアの先へと飛んでいく。
そしてそうこうしているうちに、空から一つの影が飛び降りてきた。
『アイビーの姉御の求めに応じて、参上したでやんす!』
サンシタはやってきてからアイビーから事情を聞き、ふむふむと頷くと、
『あっしも行かせてもらいやす。もう足手まといには――なりたくありやせん』
そして勢いよく、ドアを蹴破っていった。
残っているのは僕とアイビー、そして僕のすぐ右隣でハラハラと成り行きを見守っているカーチャだけだ。
「ブルーノ……」
不安そうな顔をしているカーチャを見て、僕はハッとした。
これから世界を救うことになる英雄が、女の子一人を不安がらせてどうするんだ。
以前より少しだけ小さく見える彼女の頭を撫でる。
「安心して。強くなって、帰ってくるから」
今思うと、あまり悩むことなく決めた救世者というパーティー名は、ちょっとだけ第逸れている。
だから――パーティーの名前に恥じないように、強くなれたらと思う。
「――うむっ! 待っておるぞ!」
カーチャが僕の方へぶんぶんと手を振ってくる。
不安そうな表情を押し殺しながら歯を食いしばって、情けない顔をみせてしまわないように。
僕も……皆に負けてられないな。
よしと軽く気合いを入れてから、僕もノブを開き、ドアの向こう側の世界へと歩いていくのだった――。