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できること


 自分にできることをやっていこうと決意を固めた次の日。

 僕はカーチャにお願いをして、彼女に王国の貴族関係について教えてもらうことにした。


 今まで僕は誰かにお願いをされて、受動的に動くことがほとんどだった。


 自分から積極的に何かをしようと思い立ったことなんて、それこそ数えるほどしかないような気がする。

 けれど今回はなんとなく、それじゃダメだって思ったんだ。


 僕はたしかに、純粋な強さだけで言えばアクープ一なのかもしれない。


 グリフォンライダーなのは一応事実だし、魔王軍の幹部であるアイシクルだって従えている、それこそ英雄に相応しい力を持っている人物……という風に、外からは見えているかもしれない。


 でもそれはあくまでも、アイビーに力を貸してもらえるからこそ発揮できるものだ。


 僕という人間の本質は、村を出てきたあの時からほとんど変わっていない。


 誰かに頼み事をされてしまえば断ることもできないし。

 誰かが悲しい顔をしているのを見れば、なんとかして助けてあげられないかなと思ってしまうような、どこにでもいる普通の人間だ。


 僕には他の皆が、恐らく強さを得るに至るまでに獲得してきたような――自らの持つ、強い信念がない。


 僕は物語に出てくるような、誰にも負けない強さを突如として手に入れた少年そのもので。

 そもそも人生で何か強い目的意識を持って望んだことだってほとんどない。

 それこそ、アイビーの居場所を作ろうと頑張った時くらいな気がする。


 でも、それだけじゃダメだ。

 だから僕は敢えて、自分から一歩を踏み出すことにした。


 カーチャが招かれている、ストロボ公爵家のパーティー。

 公爵の三女の快復を祝うためのパーティーに、参加させてもらうことにしたのだ――。





「ブルーノ殿、遠路はるばるようこそお越しいただきました。私本日の主催を務めさせていただく、アルベルト・フォン・ストロボと申します」


「お初にお目にかかります、アルベルト閣下。一等級冒険者パーティー救世者のリーダーをしているブルーノと申します」


 僕が屋敷に向かうと、なぜかパーティーには公爵本人がやってきていた。

 本当なら来ないというはずだったけれど、僕達に会うためにわざわざやってきたんだと思う。

 その証拠に、今回のパーティーにはアイビーの同席も許可されているからね。


 以前セリエに行った時にいきなり教皇がやってきたことがあったので、今回はさほど動じることもなく受け答えをすることができたと思う。


「もしよければ一杯いかがですか?」


「あ、それじゃあちょっとだけ……」


 もちろん参加したからといって、何かが急激に変わるわけじゃない。


 僕には皆を思わず従わせてしまうようなカリスマ性も、力尽くで従えるような強引さも、利得で味方陣営に引き込めてしまうような知略もない。


 今の僕にできるのは、せめて少しでも有力者との顔つなぎをして、僕らの有用性について知ってもらうことくらいだ。

 有事の際、助けてもらえる戦力はどれほど居たって困ることはないのだから。


 僕はその後も、カーチャの護衛という名目で辺境伯と交渉の窓口を持っている大貴族達との顔合わせを済ませていくことにした。


 既に王国の危機を救っており、復興のために素材を無償で提供しているということもあるからか、皆の反応は予想以上にこちらに好意的なものばかりだった。


 何度か僕らの力を実際に見せたりする機会もあったおかげか、最後まで反抗的な目を向けてくる人は一人もいなかった。


 これで何かあった時に、王国全体が敵に回るようなことはなくなった……と思う。

 まだ挨拶をしただけだから、これから定期的に王都にやって来たりする必要はあるかもしれないけれど。

 今後のことを考えるなら、アクープの街以外にも伝手を持っておいて損はないものね。


 そんなこんなで毎日忙しくしていると、カーチャのすることが終わった。

 なので当然ながら護衛である僕らも辺境伯領に戻ることになる。


 ふぅ、慣れないことをするのは疲れるよ。

 一度アクープに戻ったらゆっくり……してる暇はないか。


 帰ったらアイシクルから色んな話を聞かなくちゃ。

 普段の言動からするとついつい忘れちゃいそうになるけれど、彼女はあれでも魔王十指のうちの一人なんだから。




 僕が一番気になっているのは、右手指の五体の魔物と、それらを統べる魔王の存在だ。

 ゼニファーさんが言っていた岩礁や海棲の強力な魔物達のことは、実はそこまで心配してはいない。


 ――重力魔法を使えば、魔王島に空から入ることは、多分そんなに難しいことじゃないからだ。


 それに空を飛べるのも、僕やアイビーだけじゃない。

 サンシタやアイシクル達も飛行能力は持っているし、アイビーが障壁を出してサンシタをボコボコにした時のように、シャノンさんだって空で戦うこともできる。


 だから空路を使って魔王島に到着すること自体は、できると思うのだ。


 なので僕が気にしているのはその後のこと――魔王城にいるらしい魔王十指の右手指達と、魔王そのものの戦闘能力のことだ。


 これ以上の魔物被害を悪化させないようにするため、世界の平和を守るためには、彼らを倒す必要がある。けれど具体的な強さがわからなければ、誰を連れて行けばいいかもわからない。


 アイシクルが、ざっくりとでもいいから強さを知ってくれているといいんだけど……




 僕らは行きよりもゆとりを持って、アクープの街までやってきた。

 行きは王様からの招集があったから急いでいたけど、帰りは誰に急かされることもなかったからね。


 見えてくる街を囲む城壁を見ると、帰ってきたんだなぁという感慨が湧いてくる。


「みぃ……」


 どうやらアイビーも同じ気持ちのようで、ジッとアクープの街を見つめていた。

 今の僕達にとって、この街は第二のふるさとみたいな感覚だ。

 守らなくちゃっていう使命感みたいなものが、胸にこみ上げてくるのを感じた。


「ブルーノ君、お疲れ様!」


「サンシタ、干し肉食べるかい?」


『食べるでやんす!』


 城門を守る衛兵さんも皆、見知った顔ばかりだ。

 向こうも最初の頃にこちらに恐縮していた頃の様子はどこへやら、今ではサンシタに餌付けをしながらその豊かな毛並みを撫でている。


 アクープの街の住民からすっかり受け入れられるようになっているサンシタを見て笑いながら、ほとんどフリーパスで検問を抜けて街の中へと入っていく。


「それじゃあの、ブルーノ、アイビー!」


『あっしも忘れないでほしいでやんす!』


「うむ、サンシタもな! また来るんじゃぞ! 絶対じゃからな~~!!」


 辺境伯の屋敷の前まで来たので、ここまでで護衛の役目は終わりだ。

 僕らは一旦カーチャとは別れて、家に戻るつもりだ。


 ぶんぶんと勢いよく手を振るカーチャに応えて、こっちも頑張って手を振る。


 人目があるところで大きな身振り手振りをするのは少し恥ずかしかったけれど、やっているうちになんだか楽しくなってきた。

 僕も色んなことを経験していくうちに、ずいぶんと神経が太くなったのかもしれない。


 貴族街を抜けて、一般区画へと抜けていく。

 すると事前に情報が出回っていたわけでもないだろうに、あっという間にアクープの街の人達に囲まれてしまった。


「おかえりなさい、ブルーノさん!」


「アイビー、今日は手乗りサイズなのね! ほらここ、私の手に乗って!」


「サンシタ、ちょっと腐りかけてる鯛だが、一等級魔物のお前さんなら、まだギリギリ食べられるはず!」


 辺境伯が熱心な宣伝活動を続けてくれたおかげで、今では僕らに熱心なファンがついている。

 アイビーはマスコット的なかわいさで、サンシタは気兼ねなく接することができるグリフォンとしてかなりの人気を博している。


 当初は他の濃い面子に負けないように自分で木彫りの人形を作ってサンシタだったけれど、地道な草の根運動が成功したおかげか、今では彼以外の木彫り職人が作ったサンシタ像がそこらで売られるようになっている。


 これは少し……というか結構恥ずかしいんだけど、街ではここ最近僕のグッズもそこそこ出回っている。

 木彫りの僕が拳を掲げているのを見るのは、どれだけ経ってもなれることはないように思える。


「ブルーノきゅんハァハァ……あうっ!?」


 僕らを囲むように集まってきた人の中の一人が、何かにぶつかったように後ろに跳ねた。

 大丈夫かと思うくらい息を荒げていた女性の方を見てみると、額がほんの少し赤くなっている。


 もしかして……と思いアイビーの方を見る。


「み……みみ」


 『し……知らないっ!』という感じで、ぷいっと視線を逸らされた。

 アイビー、なんでそんなことをしたのかはわからないけど……わからないからって、いたずらしたらダメじゃないか。


 僕は人混みをかき分けて、アイビーに魔法を使われてしまった女性のところへ向かう。


 もみくちゃにされながらたどり着くと、女性は額の痛みも忘れながらキラキラとその瞳を輝かせていた。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」


「ブ、ブルーノきゅん……」


「きゅん……?」


 聞いたことのない敬称をつけられてしまい、思わず首を傾げてしまう。


 アイビーも一緒になってこてんと首を横にすると、その様子を見た女の人が……なぜか鼻血を噴き出した!


「――ぶっ! もう死んでもいい!」


「ちょ、ちょっと大丈夫ですか!? 死んじゃダメですって! ――ヒールッ!」


 急いで回復魔法を使うと、鼻血の方はすぐに止まってくれた。


 けれどどうやら意識は彼方の方に飛んでいってしまっているようで、何かブツブツとうわごとを言いながら意識をもうろうとさせている。


 軽く見てみたところ、どうやら命に別状はないようだ。

 怪我や病気をしているわけでもなさそうだし……一体どうしたんだろう。


 不思議に思っていると、彼女の友達を名乗る女性達がやってきた。


「ちょっと、何やってんのよあんた!」


「うらやま……けしからんことして!」


 そしてよく意味のわからないことを言いながら、倒れた女性を引っ張ってどこかへ消えてしまった。


 ちなみになぜか倒れている女性はずっと、ゲヒゲヒと笑っていた。


「……一体、なんだったんだろうね」


「みみぃみぃ」


 アイビーが眉毛をキリリとさせて、ふぅ~っと魔法で作った煙を吐き出した。

 『知らなくていいことよ……』という感じで、僕の肩をぽふぽふと叩いてくる。


 どうやら大人の女性のつもりのようだが、やっぱりかわいらしさが勝っていて微妙に格好がついていない。


 ちなみに僕らが一連のやりとりをしている間、サンシタは餌付けの猛攻に遭っていた。


『うっぷ……ちょっと食べ過ぎやしたかね……』


 一つ一つは大した量ではなかったようだけど、久しぶりということで色んな人からもらっているうちにお腹がパンパンになってしまったようだ。


 なんだか一回り大きくなったような気のするサンシタを引き連れて、僕らは家へと向かうのだった――。


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