残された時間
一人で屋敷へと戻る。
今日もカーチャはどこかへお出かけするらしいので、ご飯は僕らで食べることにする。
アイビーには収縮で小さくなってもらい、グラサンと帽子をつけて変装をすれば、以前よりもするりとお店で食事を取ることができた。
個室を取ってから多めに食事を頼み、アイビーと一緒に分け合って食べる。
「みっ!」
僕は大丈夫って言ったのに、アイビーが魔法の手を使って全部取り分けてくれる。
なんだかいつにも増して世話を焼いてくれる。
食事を終えて一息吐いてから、窓越しに外の景色を見つめる。
「でも、どうしたらいいんだろうね……」
勇者と魔王の話をたくさん聞いて。
本来ならほしかったはずの問いの答えをたくさん聞くこともできて。
それでも悩みは解決することなんてなくて、むしろ深まっていくばかりだった。
魔王を倒すためには沢山の課題があって。
でもそれをレイさん一人に押しつけてしまうというのは、あまりにも無責任なことだと思う。
立場上、僕は救世者のリーダーだ。
たとえいつ解散するかもわからない臨時パーティーだったとしても、メンバーの面倒をみるのはリーダーの仕事であるはずだ。
そもそも全てをレイさんに任せて安穏としていることなんて、小心者の僕にはできそうにない。
だってそんなことをしたら彼女は間違いなく、死地に向かうことになってしまうだろう。
僕はレイさんのことを……仲間だと思ってる。
だから彼女がむやみに傷つくようなことをするのを、指をくわえて見ていたいとは思わない。
僕には力がある。
そして僕が頼めばきっと、アイビーも一緒にきてくれる。
けれど何より――今の僕らは、一人じゃない。
サンシタだってアイシクルだって、僕がテイムしている魔物だ。
カーチャは僕の味方になってくれるだろうし、彼女が泣き落としをかければ辺境伯だって
無下にはできないだろう。
勇者のレイさんだけじゃなくて、元聖女のマリアさんだっている。
マリアさんの護衛のハミルさんやシャノンさんだって、頼めばきっと力を貸してくれるだろう。
それ以外にも、たくさんの、本当にたくさんの人達に僕らの生活は支えられている。
今の僕はもう、何も知らずに田舎の村から上京してきた時とは違う。
誰も頼れる人がおらず、一から関係を築き上げなければならなかった時とは違い、今の僕には助けになってくれる人や仲間……そして僕らのことを慕ったり応援してくれている人がたくさんいてくれる。
僕は英雄で、グリフォンライダーで。
そうだな、それならアイビーはさながら……英雄を助けてくれる聖獣様ってところかな?
もう一度、外の景色を見る。
王都の賑わいは、初めて来た時と何も変わらない。
けれど見える景色の色は、なんだか大きく変わっているような気がした。
僕の心が決まったからだろうか。
来た時よりもずっと、街並みが色鮮やかに見える気がしたのだ。
「みぃ?」
アイビーが僕のことを見つめてくる。
そのきらきらとした瞳は、僕の全てを見透かしているかのように澄んでいた。
「アイビー、僕らでなんとかしてみよう。きっと力を合わせれば、魔王だってなんとかなるはずだよ」
確かに僕は頼りないかもしれないけれど。
少しくらいなら君の負担を、軽くしてあげることはできるはずだから。
「……みぃ……」
「……アイビー?」
いつも元気いっぱいの彼女にしては珍しく、しゅんとしていてどこか上の空な様子だ。
こんな彼女を見るのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。
アイビーは少し思い悩んだような表情をしてから……パッと顔を上げる。
するとそこには、いつものアイビーの姿があった。
「みいっ!」
『任せて!』という感じで、彼女はドンッと自分の胸を叩く。
アイビーの様子は少し気になったけれど、こういう時の彼女はなかなか事情を打ち明けてはくれない。
なので何も言わずに、アイビーが自分なりに消化するのを待つしかないのだ。
こうして王様との謁見やゼニファーさんとのお話なんかも無事に終わり、僕らは覚悟を決めることになる。
それはハリボテなんかじゃない、本物の英雄として生きていくための覚悟。
今の混迷した状況を打開するために必要な手を打つために、自分達が矢面に出るための覚悟だ。
僕らはこうして、勇者と魔王の戦いに割り込み参加をさせてもらう決意を固めるのだった。
そうと決まれば早速動かなくちゃいけない。
残された時間は、決して長くはないんだから――。
短編を書きました!
タイトルは……
アラサーになってからゲーム世界に転生したと気付いたおっさんの、遅すぎない異世界デビュー ~魔王も討伐されてるし……俺、好きに生きていいよな?~
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