任せて
喫茶店に入れるかなとドキドキで交渉をしてみると、案ずるより産むが易しというか、一件目で問題なく飲食の許可が出た。
僕らが決めたのは、カフェテラスのある少しおしゃれな喫茶店だ。
生えている木々がわずかに視界を遮ってくれるテラスの内側で、僕らは空いた小腹を満たすことにした。
「ふぅ~、なんだか今日一日で、ドッと疲れたような気がするよ……」
やってきたパフェを食べると、思わず顔がほころんでしまう。
強烈な甘さが、その衝撃で身体に溜まった毒素を抜いてくれるようだった。
「みぃみぃ」
僕の向かいの席でふよふよと浮かびながら、アイビーは頼んだパンケーキを魔法で器用に切り分けている。
基本的にはどんなものでも好き嫌いなく食べる彼女は、今日はたっぷりのチョコレートソースをかけたパンケーキの上にアイスまで乗せて、完全にやりたい放題やっているようだった。
『上手いでやんす!』
ちなみにサンシタの方はというと、彼はテーブルの脇のスペースで出された鳥の丸焼きに一心不乱にかじりついていた。
彼は質より量というか、基本的にあまり味付けなどにはこだわらない。
けれど血の味はした方がいいらしいため、レア……というかほとんど生の肉を骨ごとかみ砕きながら、ワイルドに口を汚している。
その真っ赤な口元を見たら、有閑なマダムなんか腰を抜かしちゃうんじゃないだろうか。
「ひ、ひいいいいっっ!!」
と思っていたら、店の外の方から声が聞こえてくる。
ほら、やっぱり僕の思った通り……。
「あれはまさか……グリフォンのサンシタッ!?」
と思っていたら気付けばテラス席の周りに、徐々に人が集まりだしていた。
見物人の人達が僕らをぐるりと半円で囲うような形になり、なぜか店の中に大量の客が流れ込んできてしまう。
その様子を見て、店主のおじさんがこちらにグッとサムズアップをしてくる。
な、なるほど、僕らを使って集客できそうだからオッケーを出してくれたんですね……。
すんなりと入店ができた裏事情を理解し、少しだけ複雑な気分になりながらおやつを食べ終える。
お冷やのおかわりをもらって飲んでいると、周囲からちらちらと視線を感じてしまってどうにも落ち着かない。
アイビーは視線なんてまったく気にしてない様子だったし、サンシタはおかわりをほしそうにしていたけれど、僕の方はなんとなく居心地が悪く感じてしまったため、店を出させてもらうことにした。
少し申し訳なさそうにする店主さんにお代は要らないと言われたけれど、そこはしっかりしておこうときっちりと支払いを終え屋敷に戻る。
するとまた遠巻きの視線と割れていく人波。
僕は少しだけ、どんよりとした気分になってしまう。
王都での視線は、アクープで僕らに向けられるのとは、また少し毛色の違った感情が込められているように思う。
僕らのことを悪く思っているわけではなさそうなんだけど……やっぱり小市民な僕からすると、誰かから視線を向けられているというだけでどうにも落ち着かない。
いきなり王様に呼び出されたこともあり、どうにも王都に苦手意識がついてしまったかもしれない。
やっぱりアクープが一番落ち着く気がするよ。
向こうだとアイビーもサンシタも既にマスコットキャラクターみたいな感じになっているし、レイさんやマリアさんにアイシクルなんかもいるから、こんなに一気に好奇の目を向けられたりすることもないし。
屋敷に戻ると、カーチャはまだ帰ってきていなかった。
どうやらやらなければいけないことが沢山あるという言葉に嘘偽りはないらしく、帰ってくるまでまだ時間がかかるようだ。
「あんなに沢山の人目に触れながらだと、落ち着いて王都観光もできないよ」
「みぃ」
王都観光自体はしたいのだけど、やっぱりサンシタがいるととにかく目立つ。
でもサンシタをずっと厩舎の中に置いておくというのもかわいそうだ。
セリエの時も、ずいぶんと寂しそうだったしね。
どうにかしてサンシタを連れて行く方法がないものだろうか。
「アイビーの魔法でなんとかできたりする?」
「――みいっ!」
少しだけ頭を悩ませるように目をつぶってから、アイビーは『任せてっ!』という感じで頷いた。
僕は彼女を信じ、その日は眠って明日に備えることにするのだった――。
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