エピローグ
晴天の霹靂の報せが来たのは、一生懸命動いた疲れを癒やすため、アクープの街でゴロゴロとしてからすぐのことだった。
僕らは呼び出された辺境伯から、驚愕の事実を告げられる。
「ええっ、僕達が王宮にッ!?」
「みいっ!?」
なんと僕とアイビーとサンシタが、王都に招集を受けたのだ。
僕らを呼び出したのは、王国の現国王であるヴェント二世。
なんでも今回の戦役の立役者である僕らを歓待し、褒美を取らせるということらしい。
「今回街を一つも落とされることなく、黒の軍勢を斥けた功績はかなりデカい。王としてもブルーノ達に何かしら報いなくちゃ、威厳が保てないんだろうな」
「にしても急ですね……」
「それだけお前らに耳目が集まってるってことだよ。どうだ、嬉しいだろ?」
「――全っ然! 嬉しくないです!」
僕らは困っている人や、このままだと危ないという人達が沢山いたから、手を差し伸べただけだ。
別に富や名声がほしいわけでもなんでもない。
たまに街の外に出掛けるくらいなら、旅行気分で楽しいけど、それはたまにだから楽しいのであって。
こうあっちこっちに行かされたら、楽しさより忙しさの方が勝ってしまう。
「安心せい、妾もついていくからの!」
カーチャが片目を瞑りながら、自分のことを指さす。
どうやら今回の王都行きには、彼女もついてくるつもりらしい。
辺境伯も結構乗り気な様子だった。どうやら彼的には、僕らが既に辺境伯の紐付きであることを示したい気持ちがあるらしい。
「お前が臨時で組んでた救世者の皆は、連れてきても来なくてもいいそうだ」
「それなら一応、聞いてみます」
アイシクルは行ったら悪目立ちするからお休みしてもらう。
マリアさんは外交問題にもなりかねないからこっちに留まってもらう。
それならレイさんとシャノンさんに、行くかどうかを尋ねてみなくちゃいけないな。
「王都は色々と面倒だぞ。ちなみに俺の関係者と知られることで、より面倒なことになること請け合いだ」
「そんなこと、請け合わないでくださいよ……」
王様と辺境伯は国を巻き込んだ喧嘩をしているため、向こう的には辺境伯の戦力である僕達は目の上のたんこぶ。
恐らくは今回も歓待に乗じて、引き抜き工作なんかが仕掛けられるだろうということだった。
「ハニートラップとかには気を付けろよ。引っかかって子供ができれば、それだけで一発アウトだからな」
「こ、子供っ!?」
「みみいっ!」
そういうのはブルーノにはまだ早いと、アイビーがプリプリし始める。
謝る辺境伯と「はに、とら……?」と首を傾げているカーチャを見ながら、僕は内心でため息を吐いた。
僕らの食っちゃ寝スローライフまでの道のりは長そうである。
どうやらまだまだ忙しい日々が続きそうだ。
……でもどうしてだろう。こんな日々を、悪くないと思っている自分もいる。
「みいっ!」
一緒に頑張ろうと小さくガッツポーズをするアイビーに、僕は頷きを返す。
大切なのは、何をするかより誰とするか……そんなフレーズが頭を過った。
まだまだ未熟な僕だけど。
アイビーと一緒なら大丈夫。
今は頼れる仲間もいるし、周りには信頼できる人達も増えた。
僕らはもう、あの時みたいな二人ぼっちじゃない。
皆と一緒に歩いて行けるという幸せを噛みしめながら、僕は王都行きのための準備を慌ただしく始めるのだった……。