ガラリア
僕らはレイさんをアザゼルへと下ろし、北へと向かっていく。
その理由は一つ。
アイビーが本気を出せば、レイさん達が力を発揮させることができないからだ。シャノンさんの離脱を許したのも同じ理由だ。
アイビーが本気を出せば、正直なところ彼女一人で全てがこと足りてしまう。
周りにいる人間達は、むしろ彼女が全力を出す上では妨げになってしまうのだ。
だけど、せっかくの実力者を余らせるのはあまりにももったいない。
ということでアイビーと一緒に立てた作戦はこうだ。
まず最初の街にシャノンさんを、そして次の街にレイさん達を下ろす。
そして周囲を気にせず戦うことができるようになった僕らは、一番危険地帯である最北の街ガラリアへと向かう。
そして僕らは北から、他のメンバー達には南から向かい、魔物達を掃討していく。
こうすれば合流できた時には、魔物の脅威は去っているという寸法だ。
ガラリアの街にやって来た時、既に自体はかなり逼迫した状態だった。
ガラリアは水辺から街に至るまでにいくつか砦が置かれ、迅速に戦力が終結できる作りになっていた。
けれど既に砦は全て壊されるか魔物に占拠されてしまっており、魔物達はガラリアの外壁に取り付こうとしている。
周囲の外壁には魔物達が群がっていて、通用門には大量の魔物が列をなして並んでいる。
街を守護する冒険者と騎士団が応戦していたが、明らかに劣勢。おまけに物資も乏しそうだった。
上から投げ入れる物がなくなったのか、家屋の煉瓦から腐った野菜まで、とりあえず投げられそうな物ならなんでも投げている。
あ、腐った大根が美味いことゴブリンの喉を突き刺してる、すご……って、今は冷静に観察してる場合じゃないね。
「サンシタ、低空飛行っ!」
【任せるでやんす!】
降りる場所は、まず突破されそうになっている通用門だ。
魔物達を処理している様子は、門を守る騎士達からも見えるはずだしね。
切羽詰まってはいそうだから、出し惜しみはなしだ。
「アイビー!」
「みいっ!」
アイビーが戦闘フォームになり、巨大化する。
僕とサンシタは再度空を駆け、門に取り付く魔物達の頭上を取り、真下へと狙撃して確実に敵を削ることにした。
「ライトアローッ!」
アイビーほどではないとはいえ、僕もシングルアクションであればかなり大量の魔法を放つことができる。
ゴブリンにオーク、オーガにコボルト……アクープでも見慣れた魔物達を、魔法で倒していく。
でも、海から陸棲の魔物がどうやって……と思ったら、どうやら水棲の魔物達の背中に乗ってやってきたみたいだ。
海辺には大きな鯨がおり、その背中に大量のオークが乗っているのが見える。
しかも驚いたことに、口の中からオーガ達まででてきた。
どうやらあの鯨の魔物は、背中だけじゃなくて胃の中にまで魔物を入れることができるみたいだ。
「み゛い゛い゛ぃっ!!」
本来の姿に戻ったアイビーは、門の前で渋滞している魔物達を踏み潰しながら、同時並行で街の外壁に取り付いている魔物達を魔物で処理している。
そしてそれだけに留まらず、外壁の上から応戦していた騎士や冒険者達を回復魔法で治してもいる。
僕も負けちゃいられないと、とりあえず放つライトアローの数を十個ほど増やしてみる。
【あっしも頑張るでやんす!】
サンシタも口から炎を吐いたり、魔法を使ったりして攻撃を加え始める。
最近では特訓の成果が出てきたらしく、体力も魔力も明らかに増えていて、魔法を連続で使ってまったく疲れた様子がない。
ライトアローを乱射して魔物達を蹴散らしていく。
基本的に威力が過剰なこともあり、あっという間に魔物達を殲滅できた。
とりあえず目に見える範囲で魔物を倒してから、地面に降りる。
「……みいっ」
シュルシュルと『収縮』を使って手乗りサイズになったアイビーは、どうやらお疲れのようで。
いつもより少しだけ元気のない鳴き声を出しながら、僕の肩の上に乗る。
こちらを見る騎士や冒険者達は口を開いて、ずいぶんと間抜けな顔をしている。
おっかなびっくりといった様子でやって来る騎士に、怖がられないようなるべくにこやかな顔を作ってから、
「エンドルド辺境伯の命により救援にやって参りました。一等級冒険者のブルーノです」