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僕の太陽を守って

アクセスありがとうございます!

この【最終章】は下記の続きになります。


【第一章:共通ルート】

https://ncode.syosetu.com/n4711gz/

【第二章:パラレル・ルート(ローランド編)】

https://ncode.syosetu.com/n2992ha/


まだお読みでない方は、ぜひ先にそちらをお読みください!

よろしくお願いいたします。


 いよいよ殿下と王女様のお出ましだ。婚約式が始まる。


 この国の生き残りをかけた婚姻同盟を、魔法で世界中に発信するための儀式。


 筆頭公爵家子息として、また殿下の側近として、僕たちは最前列で殿下たちを待った。

 殿下と王女が臣下に話しかける声が聞こえ、殿下が通った後はみな顔を上げているようだ。


「筆頭って大変ね。こんなに前だと、待ってる間に筋肉痛になりそうよ」


 僕たちはファンファーレからずっと、頭を下げたままで待機している。

 それをヘザーが楽しげに揶揄した。僕の緊張を少しでもほぐそうとしたのかもしれない。


 殿下は、僕がヘザーと婚約したのを知らなかったらしい。

 そうだとしたら、昨日もわざわざ、僕をバラ園に呼び出したことも納得できる。


 僕らは互いに誤解したまま、間違った相手にクララの身の安全を託したのだ。


 王女様が声をかけたので、僕らはそろって顔をあげた。


「ローランド、ヘザーをよろしくね」

「もちろんです」


 王女様は僕に輝く笑みを向けたが、殿下はそんな王女様を優しく見つめるだけだった。

 殿下は、僕が誤解していたことに気がついている。そして、ヘザーとの婚約が偽装だということも。


 こんな状況でなければ、互いの愚かさを笑い合っていたはずだ。今は互いに、気まずさが先に立っていたが。


 殿下たちが王太子と妃の席の前に立つと、いよいよ婚約公示のための式が始まった。

 まずは式次第に則って、順調に来賓たちが進み出て、殿下たちへ挨拶を終えて席へ戻っていく。

 これが終われば、いよいよ殿下の婚約宣言へと進行する。


 来賓全員が定位置に戻った後、殿下は王女様の手を取った。

 そして、彼らが壇上の中央である玉座の前に移動したとき、前触れもなくヘザーが私の手をぎゅっと握った。


 あっと思った瞬間に、会場のいたるところから、いくつもの稲妻のような光の帯が、ドーム状の天井へと駆け上がった。

 そして、内側から爆発したかのようにドームのガラスを突き破り、天井全体が会場に落ちてくる。

 会場には爆発音と人々の悲鳴が轟いた。


 魔術師たちが、会場全体にシールドを施したようで、降り注ぐガラスの破片と天井は宙に浮いたままだった。

 だが、瓦礫の間から空が見える。今の爆発で、謁見の間の天井が取り払われたのだ。


「みなをここから逃がせ!王宮から出ろ!狙いは私だ!離れろ!」


 殿下がそう叫んだ。片手を上にあげてシールド魔法を発動したままのため、周囲の防御はがら空きだった。


「殿下をお守りしろ!ヘザー、王女を!」


 僕は周辺にいた騎士たちに呼びかけ、ヘザーは王女の元へと走っていった。

 円卓の騎士たちが殿下の周囲の守りを固め、侍女長たちが王女を背中にかばうように取り囲んだ。


「近衛は避難指示を!みなを聖堂まで誘導!そこから移転装置で、離宮へ逃せ!」


 すでに近衛兵は避難にあたっていたが、私の声で一斉に持ち場についた。

 普段から厳しい訓練をうけている衛兵たちは、こういう場面でも冷静な判断ができるようになっている。


「女性を避難させろ!ローランド、警護してやってくれ!」

「承知しました。すぐに!」


 殿下の魔法と騎士の剣、これでたいていの敵は防げる。だが、丸腰の女性たちを守りながらでは、注意力が散漫になってしまう。それでは逆に危険が増すだけだった。


「セシル。君は残ってくれ。ここを離れるのは逆に危険だ」

「分かっているわ。ローランド、部下たちを頼んだわよ。侍女長も一緒に行きなさい。これは命令です」


 王女を守っていた侍女長は、王女の側を離れることを渋る女性たちを叱咤した。


「私たちは足手まといです。自分の命を守ることだけを考えなさい。すぐに避難を!ローランド様、誘導をお願いいたします」


 涙を流して王女様の無事を祈る侍女たちを、僕と騎士たちで引きはがずように避難させていく。

 王女様はそれをほっとしたように見守っていた。


 殿下の周囲を守っているのは騎士たちで、魔術師は会場内外に散っている。

 人的な攻撃に備えたために、会場の魔法師の数が少ない。魔法で攻撃された場合、防御がお粗末になることは明らかだった。


 僕らは、いくつかある非常出口のうちで、人が少ないところを目指して駆け出していた。

 一緒にいた騎士の数名は、元侍女たちの婚約者たちだった。専属の騎士としての任務中に、王宮の隠し通路についての知識を得ていたので、僕らは彼らの案内で聖堂への抜け道を使うことにした。


 ちょうど出口に差し掛かったところで、ヘザーが叫んだ。


「ローランド!クララよ!」


 ヘザーが指差したほうを見ると、片手でシールド魔法を使うカイルが、もう一方の腕でかばうようにクララを抱えているのが見えた。


「先に行ってくれ。ヘザー、みな頼む!」


 僕の言葉を聞いて、ヘザーはしっかりと頷いた。そして、青ざめる女性たちを励ました。


「みんな行くわよ!先に行って王女様をお待ちするの!一人も欠けてはだめよ!騎士様!案内を!」


 出口から出ていく女性たちのグループから離れて、僕はカイルとクララのほうへ走った。


「カイル!大丈夫か?クララ、こっちへ!」


 その声を聞いて、カイルはクララを僕のほうへ突き飛ばした。反動でバランスを失ったクララは僕の腕の中に倒れ込んだ。


 だが、すぐに真っ青な顔をして、僕にこう訴えた。


「ローランド!あいつを見たわ!黒い軍服の男よ!果樹園の!」

「なんだって?本当か!カイル!シャザードがいるぞ!」


 そのとき、頭上に留まっていた落下物が左右の壁に打ち付けられ、壁にかけられた絵画ごとすべてがガラガラとなだれ落ちた。

 貼っていたシールドが内側から破壊され、僕は稲妻のような光がカイルに落ちたのを見た。反転魔法だ。


「カイル!大丈夫か!」


 僕はクララと共に、カイルに駆け寄った。カイルからは少し焦げたような匂いがしたが、大きな被害はないようだった。


「大丈夫だ。シャザードの名を聞いて、とっさに防御魔法を引いた。あいつは反撃が得意だと聞いていたから。助かったよ」

「いや、クララのおかげだ。やつを見たって」

「私たちの前を、普通に歩いていったわ。殿下のほうへ」


 カイルはその言葉に頷き、クララの両手を取った。


「僕は殿下の魔法援護に入る。君はローランドと逃げてくれ。守れずにすまない」

「そんなこと!カイル!お願い、死なないで!」


 涙を流すクララを見て、カイルは眩しいものを見るように目を細めて、少しだけ笑った。

 そしてポケットから箱のようなものを取り出してクララに手渡した。


「お守りだ。僕が戻るまで預かってくれ。これが君を守る」


 泣きながら頷くクララの両肩を掴んで、僕はカイルから引き離した。それは嫉妬という感情ではなくて、たぶん戦いの中の勘だったと思う。


 殿下には、すぐにもカイルの援護が必要だった。シャザード相手だとしたら、レイがいないこちらは圧倒的な劣勢だ。


「クララのことは任せろ」

「頼む」


 カイルは僕にさっと頭を下げると、土埃が舞う中を殿下のいる方向へ走っていった。

 カイルが去ったのと同時に、僕はまだ泣いているクララの手を取って、出口へと駆け出した。


 出口付近には落ちてきた瓦礫が堆積していたが、いくつかをどかせば、会場を抜け出すことができた。


 騎士たちが目印に開けて置いてくれた扉から隠し通路に入り、僕たちは聖堂への道を急いだ。


 こんな状況下で不謹慎かもしれない。だが、僕はクララを、この手で守れる喜びを感じていた。

 そして、だからこそ、殿下とカイルには無事に戻ってもらわなくてはならないと思った。


 クララが誰を愛しているのかは知らない。だが、誰であってもいい。とにかく、みなが生きていればいい。生きていればこそ、人を愛せるのだから。


 僕の魔法は弱く、通信と追跡の能力があるくらいで、戦力にはならない。

 だが、僕にでもできる戦い方はある。クララの幸せのために。


 僕たちはしっかりと手を握り合って、暗い隠し通路を駆け抜けていった。

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