1.都市カルトン
「おはよう、エトヴィン。今日の調子はどうだい?」
白く長い髪をなびかせたルナが朝の挨拶をしながら部屋のカーテンを開ける。外の景色は見えず、窓を塞いでいる木の板のみが目に映る。
「……」
ルナが振り返る先には、部屋の真ん中にあるベッドの上で寝ているエトヴィンがいた。服から覗いている手も顔もほとんど包帯に覆われている彼の視線はルナの方を向かずに宙を浮いている。
「……今日も外に行ってくる。心配しなくていい」
ルナは長い髪をヘアゴムを使い、頭の後ろでひとまとめにすると、寝室を出た。掃除があまりされていないダイニングには黒いゴミ袋が二つほどまとめてあった。
ルナは小柄な見た目とは不釣り合いな大きなバックパックを背負い、手袋をつけるとダイニングのゴミ袋を掴んだ。袋の口にロープを巻き付ける。ダイニングの窓のシャッターを開けて、先にゴミ袋を二つロープを使って地面に降ろしてから、ルナも窓から降ろしてあるはしごをつたって、三階から地面に降りた。
車の部品や日用品が散らばったアスファルトをブーツで踏みつけながら、ルナは建物横のゴミ回収場に黒いゴミ袋を置いた。一カ月以上は回収されていないそこにはもうすでに十個以上ものゴミ袋が積まれていた。ひどい臭いが漂うゴミ袋の前から離れたルナは道の端に立ったまま、コートのポケットから取り出した地図を広げる。
「昨日でBブロックを探し終わったから……今日からCブロックかな」
約二カ月前に、都市カルトンはウイルスによるパニックで壊滅状態となった。ウイルスに侵された人間は、皮膚が爛れ、意思疎通が困難になり、凶暴になり健常者を襲い始める。よくフィクションの世界にあるゾンビのように人から人へ感染する。
屍病と名付けられたそれは瞬く間に広がり、都市の生命ラインの維持も困難になっていった。事態を重く見た政府が都市カルトンを隔離するのにそう時間はかからなかったが、今ではその隔離も意味をなさない。
一カ月前に、研究者たちが屍病の特効薬を作るために尽力していた場所である都市カルトン近くの研究所が焼け落ちてしまったからだ。
「……早く、花が見つかればいいんだが」
ルナは地図を畳んでポケットの中にしまった。背中のバックパックを背負い直し、ルナはアスファルトの道路に沿って、まっすぐ歩き始めた。




