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神結の剣  作者: ソメイヨシノ
5/9

師を超える

納刀したまま俺は、建御雷神の間合いに入る。

男神が刀を振り下ろす。が、先に俺の居合いが決まる。


彼は一閃を受け後方に跳び下がる。俺はそれに合わせ、逆手に持ち替え彼に飛びかかり剣を振るう。

が、それよりも先に男神は上空へと飛び上がる。

追う為に飛び上がるが距離が足りない。 近場の木に足をつけ、幹を蹴りさらに飛翔する。


建御雷神の上をとった。 彼に強襲をかけるべく体勢を変える。


相手は笑っていた。

「………何度も申したであろう? 甘いと。」

俺の耳をかすめた何かを目で追う。

石だ。 石が放つ独特の風切り音が全方向から聞こえる。

「!?」

俺の体を高速で飛んでくる石つぶてが襲う。

至る所が切れる。 暗い森を見るとこの森の精霊達が投げていた。

しかし、気にしている場合ではない。俺は男神の上をとっている。

そう思い、下方を見る。

何?! いない。

「敵をよく見よ。」

耳元で彼の声が聞こえた瞬間、背中に強烈な痛みが走る。 肘鉄を食らい俺の体は地面に落ちる。


着地の瞬間に前転して受け身を取り、木の太い幹に張り付き辺りの様子を探る。


荒い息をしながら考える。どうすれば勝てるのかを。

「一撃でしとめなければならない。」

俺の声ではない。木の真後ろに神がいる。

「っ!?」

逃げるように前に走り出す。

背中に蹴りを入れられ、地面を転がる。

「降参するか? それとも死ぬまで戦うか?」

声を聞きながら、咳き込む。 血反吐を吐き出す。

「お前は失う事は惜しい。」

降参しろと言うことか。

俺は力無く立ち上がり、刀を構える。 

「こ、降参は……しない!」

「死ぬまでじゃない!」

「俺は! 勝つまで! 戦う!!!」

「………ほう。」


俺は刀を納め、目を閉じる。 

全身を集中させる。


大きく息を吸い吐き出す。足に力を込め、渾身の"縮地"を踏み出す。

瞬間、建御雷神の懐に高速で入る。

「何!?」

男神は驚き、剣を両手で握り直す。

右手で抜刀する。 が、それはいなされる。

まだだ。左手で鞘を逆手抜刀し、左脇腹から右肩へと抜き去る。

予想外の鞘での攻撃に建御雷神は自身の刀で受けた際に刀を手から落としてしまう。


「ここだぁ!!!」

俺は逆手に持ち替えていた神刀を鞘と共に男神の右肩に振り下ろす。


男神の肩に当たった鞘は中心から破壊され、粉々になる。

刀は建御雷神の右肩から腹の中央辺りまで深々と切り傷をつけ止まっている。



「はぁ、はぁ、やりました!」

俺は顔をあげ男神を見る。

「よくやった。これでこそ。これでこそだ。」

彼は笑っている。俺も達成感と喜びが混ざり合い目に涙を浮かべて笑う。

「神の腹を割いておきながら笑うとは。」

白玉様は呆れた声色で呟く。

「あっ!そうだ! 建御雷神様! 傷は大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ。 この位少しすれば治る。」

そう言うと、腹に刺さっている剣を抜き、俺に渡す。

「血が出てない……」

「神だからな。」

「そう……なんですね……」


建御雷神は俺を抱き、背中を優しく叩きながら言う。

「本当にこの一年間よくやった。」

「……はい!」

「貴様はどんな逆境にも勝てる力を持っている。」

「己を強く持ち、他者を守る事を忘れるな。」

「貴様の振るうつるぎにはこれから生まれてくる、全ての人の子の歴史を背負っているのだ。」

「必ず、彼の悪神を討て。」

そして、力強く、優しさも感じられる声色で俺に告げる。


「これは貴様に唯一託された、"使命"だ。」


俺と建御雷神は熱い握手を交わし、白玉様と下山する。



白玉様は横を歩きながら俺に尋ねる。

「なぜ、あの場面で"縮地"を選択した? 誰も教えてないが。」

縮地とは、古武術にあると聞く移動方法である。 一歩目から最高速度で相手に近づく奇襲に適した動作だ。

「建御雷神様の行動をずっと見ていたので、隠し技として今日まで秘密にしてたんですよ。」

「ほほう。 目で盗み、己の物としたのか。」

「駄目ですかね?」

「いや、素晴らしいな。」

白玉様は続ける。

「鞘と刀身の二連撃も見事だった。」

俺は照れながら答える。

「ありがとうございます」

「しかし、気を抜いてはいかんぞ? これからは建御雷神よりも強力な神と戦うのだからな。」

「はい。わかっています。」

俺は月を見上げながら答える。




板蓋宮いたぶきのみやに戻った俺は寝床につくと直ぐさま寝てしまった。


肩を揺らされて起きる。

「うん? 白玉様?」

ぼやける視界で周りを見る。

「おはようございます。」

「あっ、佐久山さんでしたか。 おはようございます。」

食事を持ってきた佐久山郎女は少し不機嫌そうにしていた。


「頂きます。」

そう言うと吸い物からいただく。……うん。一年以上食べているが毎日変わらぬ味だ。具が違うだけでそこまで美味しくない。

無心で食している俺を横目に佐久山郎女は口を開く。

「白玉様とは誰ですか?」

俺は彼女の発言に驚き、口から汁が溢れる。

袖で口元を拭きながら尋ねる。

「な、何故その名前を……?」

「先ほど起こした時に仰っていました。」

彼女は冷淡に答える。


「やはり、私の事は……」

顔を落とし呟く。

「いや、えっと、白玉様って言うのは……」

「! 故郷にいる友ですよ!」

彼女の雰囲気が明るくなる。

「本当ですか?」

「本当ですよ。」



今、こんな状況になっているのは少し前まで遡る。



2ヶ月前ーー

俺の部屋を訪れた厩戸皇子は提案する。

稲守いなもりよ。お前もそろそろ身を固めぬか?」

「お、皇子? 身を固めるとは………?」

彼は笑いながら言う。

「妻をめとると言うことだ。」

俺は白玉様を一瞥する。

彼女は、わかっているだろうな? と云う顔をしている。

もちろんだ。わかっている。 俺がここで誰かと結婚すると、当然だが歴史が変わってしまう。

俺がこの時代にいるのは歴史を変えない為だ。

結婚など本末転倒な事態だ。


だが、少し興味がある。 聖徳太子に視線を向けきく。

「妻とは誰を?」

「そうだな。佐久山郎女はどうだ? 仲も良いだろう?」

「それは光栄ですね。」

「おぉ、どうだ? 私がお前に提案するのも、私がお前を飛鳥の住人として認めているからだ。」

彼の言葉に嬉しく思う。

「ありがとうございます。」


浮かれている俺の背中に、がしがしと連続猫パンチを喰らわせてくる白玉様を無視しながら話は進む。

しかし、

「少し考える時間を下さい。」

「わかった。答えが出たら言いに来るのだぞ?」

皇子は一言残し業務に戻っていった。



白玉様と話し合う。

「妻など言語道断じゃ。」

「わかってますよ。」

彼女は難しそうな表情をする。

「しかし、厄介な事になった。この縁談はもちろんあの娘も耳にしているじゃろう。」

「それが何か?」

「わからぬのか? 佐久山郎女はお前に気がある。」

「えぇ!!」

「半年以上、一緒にいて気づかなんだか。阿呆めが。」

ムッとして言い返す。

「阿呆は酷すぎません!?」

白玉様は無視して話し出す。

「このまま板蓋宮に居るとだな。断った後、彼女との関係が不味くなるじゃろ?」

「断わること前提なんですか!? もう少し夢を見させて下さいよ……」

「当たりまえじゃ!」

そのまま話す。

「この部屋を出ていき、日国光巫女がいる社で過ごすのも視野に入れておけ。」

「でも、あそこって基本、男子禁制じゃ……」

「お前は高位な神々より授かった命を持った人の子じゃ。例外じゃ。」

「そうですか………」



時は現在に戻る。

「稲守様は私など、眼中にないのですか?」

「えっと、その。」

俺はしどろもどろになる。 結婚が出来ないと言うのは簡単だが、説明が困難だ。

彼女は胸に手を当て問う。

「私の名前の由来を知っていますか?」

「え? 名前……すまない。知らない……」

少し笑みを浮かべたかと思うと、表情を落とし話し始めた。


「私の名前は天孫降臨の際、天津日子番能邇邇芸命あまつひこほのににぎのみこと様の妻として娶られた奥様である、木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめ様から来ています。」

俺は知らない神の名前が出てきて顔をしかめる。

「奥様と同じくらい美しい女人になることを込め、名付けられました。」

「しかし、見てのとうり、私の容姿は優れません。」

「お父様、お母様には申し訳立ちませぬが、木花之佐久夜毘売の姉神のである、石長比売いわながひめ様のお名前から取ったほうが良かったのではないかと………」


そこまで言うと彼女は泣きだした。

正直、俺は脳内に疑問符しか浮かんでいなかったが、それを見た白玉様は俺に近づき説明しだした。


「天孫降臨……まぁ、邇邇芸命ににぎのみことと言う神が葦原あしはらなかつ国、すなわち日本ひのもとに降り立った神話はなしだ。」

「彼は美貌に優れる木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめを妻に取ったが、その際、彼女とは正反対の容姿をした、姉の石長比売いわながひめも同時に娶った。」

「しかし、姉の方を故郷に返してしまった……と言う物語じゃ。」


俺自身、彼女はとても美人だと思う。

が、それは現代人である俺の主観である。 この時代の美人の基準からすると、彼女はそれには当てはまらない。


なんとか元気をだして貰おうと俺は少ない語彙の中から言葉を紡ぐ。

「佐久山さん?」

彼女は泣き腫らしている顔をあげ、こちらを見る。

「俺は佐久山さんの容姿を悪いとは思わないよ?。」

「てか、俺の居た国では、君なんか美女だってもてはやされてたよ。うん。絶対。」

彼女はまだこちらを見つめている。 

俺は言葉足らずのまま続ける。

「美人の基準なんて、人それぞれだ。明確な定義があるわけでもない。」

「君の容姿を悪く言う人がいる一方で、俺みたく絶賛する人間もいる。」


「だから、佐久山さん。気にするなよ?」


言い終わった後、無性に転び回りたくなる程恥ずかしくなったが、黙って彼女の反応を見る。


彼女はいつもの明るい笑顔を見せ、言う。

「稲守様、ありがとうございます!」

彼女は言い終わると立ち上がり部屋を出ていった。


「あっ、断る事切り出せなかった……」

落胆している俺は肩を落とす。

白玉様は俺を見る。

「やれやれ、馬鹿なのかお前は?」

「へ?」

「余計に惚れたようじゃぞ? あの娘。」

彼女はため息をつき、寝転び、またため息をついた。



それから数日が過ぎた。

白玉様は朝から姿を見せて無い。

部屋で剣の手入れをしているときに彼女は帰ってきた。

「白玉様、おかえりなさい。どこに行ってたんですか?」

彼女は伸びをしながら答える。

「少し神々と会ってきた。」

「なんだか猫の集会に行ってきたみたいなノリですね……」

「うるさい。それよりも姿勢を正せ。」

彼女は声色を変えて命ずる。


これはただ事ではないと思い、正座し背筋を伸ばし彼女の言葉を待つ。

「人の子、鳥辺 学よ。 淡路へと向かえ。」


「あ、淡路ってあの淡路島ですか?」

「そうじゃ。」

「でも、なんで……」

「神を討つためじゃ。」

俺の問いに淡々と彼女は答える。


「今朝、思金神おもいかねのかみから伝言を受けた。 淡路にいる国津神が、高天原の意にそぐわず、例の悪神の味方をするような素振りを見せているようじゃ。 そこで、お前に淡路に行き、彼を説得……出来ぬ場合は討てとのことじゃ。」

「く、国津神?」

彼女は少し怒り口調で言う。

「お前は歴史は得意じゃが、古来の神に関してはてんでだめじゃな。」

「すみません。」

「分かりやすく言うと、土地の神じゃ。」

俺はなるほどと相槌をうつ。

「そういうことですか。」


白玉様は部屋を出て、告げる

「話しは戻るが、今から淡路へと向かう。」

「今からですか!?」

「そうじゃ。支度をせよ。」


俺は急いで準備を行った。 刀を腰に差し、長く伸びた髪は切る時間はないので、後ろで適当に括りまとめる。

最後に勾玉を吊るした首飾りをつける。


部屋を出る直前に佐久山郎女と偶然会う。

「何処かに行かれるのですか?」

「はい、急用で……」

俺達は沈黙した。白玉様は、早くしろと言っている。

「すみません。もう行きます。」

「そうですか……」

彼女は少しがっかりしたような表情をしていた。


「………ご武運を………」

廊下を駆け足で抜ける俺の耳に彼女の声か聞こえ、振り向く。

が、彼女はもういない。 

何故彼女は、俺が戦いに行くと知っているのだろう。


そんな一抹の疑問もあるが、今は一刻も早く淡路島に向かわなければ。

そんな思いで白玉様の後ろ姿を追った。

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