9 【黒白城】喰城武羅捕 白羅龍一 風魔幸太郎
自らが出した【黒渦】に飲み込まれ、自分の世界に喰城 武羅捕という青年は帰ってきた。
喰状は黒と白が混じる【黒白城】と呼ばれる城主で、王様的存在だ。誰も彼の言うことに拒めない。もし拒めなば死を意味している。
「喰状様、お帰りなさったのか、今回は随分と長い遠足じゃったの」
「ああ、ちょっとした面白い男に出会ったな、いい話を聞いた。それよりも土産が届いているか?」
「それなら届いておりますぞ、ささっこちらへ」
黒白城の一階にいる喰状の家臣の1人、白髪で長い白ヒゲを生やした老人、【白羅龍一】 は機械弄りが趣味で喰城が【黒渦】で今日、持ち帰ったトラックをエンジンをかけた研究しながら遊んでいた。トラックには、クラクションという大きな音が鳴る装置をかね備えており、今ちょうど、白羅が踏んだ。
ブウウウウウウウウ!!!
当然、一番近くにいた喰城は耳が破裂しそうな音で近寄る。
「白羅!静かにさせろ!」
「ほっほっほ、そりゃすまない事をしましたの〜時代遅れの私には喰城様のような能力は無く機械しか取り柄がないんのでじゃな」
笑いで誤魔化す白羅に、喰城はフッと笑った。
「まあ、この世界で機械を詳しいのは白羅の爺さんだけ出し、特別に許してやるよ」
「有難き幸せ」
白羅は胸に手を当てて感謝の意を喰城に汲んだ。
「でも、羽目を外しすぎるなよ。俺の寝首を搔こうとでも考えていたら、即座にレッドカードをくれてやる」
喰城は表の世界で盗んできた長方形の【赤紙】を白羅の前に突き出した。意味を知らない白羅は疑問を持った。
「レッドカード?赤い紙……はて?」
「【この世界から退場させてやる】って意味だ」
白羅は意味がわかり、手をポンッと叩いた。
「それは嫌ですわい。……それにーー」
素直に白羅は答えて、トラックの扉を開けて地面に降りた。
白羅は喰城が表世界から帰ってきたもう一つの物体、人工衛星【双月】の片割れに手を触れた。
「この未知の機械を解明する事が急務ですからの〜……のう?ドラよ」
白羅は人工衛星【双月】の上に乗っかり遊んでいる。白羅が自ら手で一から造りあげた、竜の形を模し人工知能《AI》に喋りかけた。
「ギギッ」
ドラは喜んでいるようで、白羅の肩に乗った。喰城には重そうに見えるが素材が軽いものでできているため、老人でも重さに耐えられるように設定されている。
「ドラって名前なんだよ、わらうぜ」
喰城は安易な名前を聞いて手を叩いて笑う、そんな喰城に白羅はこの名前を名付た理由の説明を始めた。
「喰城様、恐れながら西洋の言葉で竜のことをドラゴンと言うらしく、まだ未完成のこの未熟な竜をドラゴンという単語を半分に区切り、《《ドラ》》と名付けました」
こっぱ難しいを聞いた喰城は頭が痛くなり、 助けを求めようと 後ろにいたもう1人の家臣である緑髪の少年だ。
その少年は風魔 幸太郎、
喰城の能力により、風魔の里ごと飲み込まれて、この裏の世界にやってきた少年だ。里を守るために、喰城の家臣に仕方なくなった悲しい少年である。
「おい、聞いたかよ幸太郎。白羅の爺い、寂しいからペットなんぞ造ったようだぜ」
「そうですか……それよりも僕は喰城様にお耳に入れたい話がありここに参上したのですが、よろしいですか?」
風魔 幸太郎のその言葉に喰状は頷いた。
「実は……喰様様が連れてきた彼(雷輝)が森で暴れているです」
「それがどうかしたか?」
無神経な喰城に幸太郎は少しムカッとした。
幸太郎は眉間をピクピクと動かしながら話を続ける。
「恐れながら喰城様、森は我が風魔の民が住んでいるのでございます」
「だからどうした?」
「?」
「幸太郎〜、お前は家臣だが言うが俺はな、残された人生を謳歌したいんだよ、退屈な日々なんて面白くないだろう?だから俺はわざとこの俺の世界に異物を混入させたんだ。だが、そうだな……」
(奴(雷輝)らが悪影響を及ぼす行動は今はなるべく避けたい。でも、それでは楽しみが無くなる。あと、あの魂もアゲハとかいう少女から返して貰わなけば、ならないしな)
喰城は胸の内側に納めている白鳳 保和瑠と書かれた細長い筒があり、筒の外側には大きな翼を広げた鳥の形をした紋章が刻まれていた。
喰城は筒を握り、冷静に対処の仕方を考え始めた。
「……よし幸太郎、奴《雷輝》に『自分は俺《喰状》を倒そうとしている同士だ』と言い、奴《雷輝》らをお前の里に招待させろ」
「大丈夫でございますか?」
「ああ、敵だと思われなければ、なんの問題もない。もしバレても危害を与えなければ、あの善人やろうは流石に攻撃してこないだろう、そして寝静まった所を一人殺せ、いいか一人だけだぞ、一番弱そうな奴をだ、そして奴《雷輝》を我が家臣にするのだ、クックック……それと確か森の中には狼を従える奴がいたな、そいつ合流して任務に挑むのもいいぞ」
「……は、かしこまりました。」
喰城の言葉を聞いて、幸太郎は人を殺せという言葉に少し動揺したが、里の命運を守るのは自分自身だけだと喰状命令に素直に従い、すぐに行動に移そうとした。喰城は、左腕を見て再度、幸太郎に話しかけた。
「それとーーお前からのもらった、【トレーザー】だっけか?すごくいいぞ」
喰城の左腕にはガントレット【トレーザー】が装着されていた。これは幸太郎が表世界で1つ盗んできた物であり、里を守る為に喰城に献上したのだ。
喰城は、そんな幸太郎のこといざ知らず。幸太郎が見えなくなったら、近くに立っている白羅に方を向く。
「白羅、これお前にやるよ」
「いいのでございますか?」
「ああ、機械に詳しいお前の方が役に立ちそうだからな」
喰城は左腕から【トレーザー】を外して白羅に渡す。白羅は、今まで出会った金属の中で1番軽いことに驚き、【トレーザー】まじまじと見つめながら、その眼に、この物体がどんな用途に使われているのか、眼が赤く開かれて職人の眼に早くも変わった。
(次に会うのが楽しみだ、稲月雷輝)
喰城はまるで新しいおもちゃを手入れた子供のように微笑み、手を挙げて満月と重ねた。
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喰城が住む黒白城から離れた所で風魔幸太郎は、城主である喰城にこのままついて行っていいのか疑問に思っていた。
表の世界に出れた時、今まで生きてきた裏の世界とは別のあんなにも眩しくスリル溢れる所を初めて知ったからだ。子供心は踊り、幸太郎はまた表の世界に行きたくなった。
そして、幸太郎は決心した。城主である喰城武羅捕を『裏切る』という選択を。そのためにも稲月雷輝と接触を図り、仲間になる必要があった。運よくも喰城からも命が下されて口実ができた。
【一律旋風】
幸太郎は風の力を使い、森を駆け巡るのだった。