8 【裏の世界に1日いるごとに表の世界では1年が経過する】
滝のすぐ近くの焚火が揺れている。周囲に照らしている影は4つ。稲月雷輝、最藤アゲハ、ウリボー、雷輝を助けた女性が囲んでいた。ウリボーは雷輝の僅かな匂いを嗅いでアゲハを乗せて連れてきていた。
「先ほどは助けて頂きありがとうございました。」
溺れそうになり、死にそうになっていたところを助けてくれた女性に対して、雷輝は、頭を上げた――上半身、裸で……。
普通の場合は叫び声を上げて公然わいせつ罪で訴えられるが仕方ないのだが、上の服は水に濡れて焚火で乾かしている、本当は下の服も濡れているが、本業が警察官の雷輝は流石に女性が2二人もいる場では脱いではいけないだろうと空気を読んだ。
「気にするな」
「ありがとうございました。」
雷輝は思わず2回目の頭を下げた。女性は雷輝の半裸が気になるようで、チラチラと見てしまう。
「コホンッ、私は父親の稽古の時に、男の裸は慣れているが、純粋なこの子にはあまり好まり好ましくない、なるべくなら服を着てくれ」
女性はウリボーと一緒に遊んでいるアゲハを見て、少し笑いをしたが、雷輝には怒りの炎が焚火の木炭が弾けさせ、半裸の雷輝を襲った。
「アツッ!」
だが、そんな不幸にもめげずに雷輝は聞いてみた。
「あの、色々と聞きたいことがあるのですが」
「偶然だな。私も一緒だ」
雷輝と女性は真剣な表情に変わる。
「では、初めにこちらから単刀直入に聞きます」
雷輝は手を挙げて、続けて警察官式の質問を述べた。
「貴方はアゲハさんの姉ですか?」
女性は少し驚いた顔をした。
「ああ、アゲハは私に唯一無二の愛すべき妹。そして、私はアゲハの姉、名は最藤クロア だ」クロアという女性は美しく微笑み手を胸に当てた。(最藤クロア……それが彼女の名か、でもなんだろうな懐かしい響きだ)
「それでは、今度は私から質問する?あんたはいつ、何年、どこから黒い渦に飲み込まれましたか教えてもらおう?」
彼女――最藤クロアは雷輝の警察官の服を睨むように見つめた。雷輝は彼女の質問に一瞬、答えたほうがいいのかと悩んだが、正直に話すことにきめた。
「俺……は、2050年の日本、渋谷のスクランブル交差点で喰状武羅捕と名乗る男の手により、この場所にきたんですが、信じられられるか?」
雷輝の話を聞いて、クロアは頭を捻らせた。
「……すまないが、私には渋谷などという土地を聞いたことがない、ただ、2050年と聞いて一のことがわかった」
「私は、この世界に来る前の年は1850年は、雷輝が来たというのは2050年」
クロアは地面に2050-1850=200という数式を示した。
「これが示すことは、【この世界に1日いるごとに表《元》の世界では一年が経過する】ということだ、200年という時が経ち、わたしたちの知り合いはとっくに死んでいるな.雷輝、君は元の世界で残していった大事な人はいるか?これはあくまで仮説だが、雷輝、お前の服などを見るに可能性が高い」
雷輝はそれをきいて頭の中で表の世界に残していった剛堂燈華の顔を思いだし、胸が縛り付けられた。
彼女に再び会うために、雷輝は今いる裏の世界を脱出して表の世界に一刻も変える必要が出てきた。雷輝は、いつまでここにいてもいいか真剣に考えて、答えを出した。
「5日だ……」
「いつか?」
「俺は5日以内にここから出る!」
雷輝が、ここから脱出する期限を決める。
5日という期限は、100年もの時を生きれるようになった人類にとっては、あまりにも短い日数。雷輝は、5日を裏の世界から全力で抜け出すことに全力を尽くすことを心に誓い、立ち上がった。
そんな時に、雷輝たちがいる森の奥深くに建っている黒と白が混じる【黒白城】から激しいクラクションの音が聞こえてきた。
プウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!
らいきはその音に聞き覚えがあった。表の世界に来る前にトラックから鳴っていた音だ。
雷輝は、聞こえた方向を見て、そこが自分の目指すべきだと直感的に思ったのだった。