7 【電砲】!
魔獣化したイノシシと交戦を繰り広げて数十分、雷輝は異能の力を使い加速しながらのイノシシの首や足首を木刀で重点的に狙い叩いていくが、魔獣化したイノシシは一向に倒れる気配がなく、逆に雷輝の体力が奪われていく。
(これ以上、戦いを引き延ばすると俺に勝ち目はないか……そろそろ決着つけなければならないな――)
雷輝は消耗戦に勝ち目は薄いことを悟り、攻撃をやめて、《《ある》》音を聞きながらその方向へ走ることの決めた。
魔獣化したイノシシの突進を躱しながら、《それ》がある場所まで誘導していくが、あと一歩のところでイノシシ突進が雷輝に直撃をしてしまった。ギリギリ、左腕に装着されているガントレット(トレーザー)で防いだが強大な威力により、遠くに吹きとばされてしまう。
だが、飛んでいるうちに《《その》音はどんどんと近づいてきた。それが雷輝の身体に当たる。
バシャンッ!
(……《《水》》だ……《《水》》が流れている!よし!)
偶然というより、必然だが雷輝は大量の水が流れる川に着水した。左腕はまだ動く。これで雷輝は勝機が見出せた。
「ポギ~!」
追いかけてきたイノシシも怒りの声を叫びながら豪快に川に飛び込んだ。イノシシが飛び込んだ衝撃でさざ波がい起きて、雷輝が襲うが雷輝は全身ずぶ濡れになりながらも、川にある大きかった石で、溺れることは防ぐために事が出来た。
イノシシは雷輝のほうを捕らえて足で水をかき突進しようとするが、雷輝は、フフッ、と笑みがこぼれた。
「この時を狙っていた!最大出力、解放!」
突進してこようとするイノシシに対して雷輝は身体の中に残っている電子を解き放ち、強烈な電流をイノシシに流した。【伝導率99%】
電流を流したことによりイノシシの全身の表面がこんがりと焼き目がつき、イノシシの動きが完全に動きが止まり、魔獣化したイノシシはその場に硬直し、一時的に動かなくなった。
イノシシの様子を確認した雷輝は、動く前に腰に携帯していた球が入った拳銃を抜き取り、両手でしっかりと握り、イノシシの頭をロックオンする。
そして、僅かに残った電流を拳銃の弾と一緒にイノシシにめがけて放つ。
【電砲!】
小さな電流を纏った砲弾は大きく固いイノシシの脳天を貫いた。雷輝は動物をこの手にかける後悔など、もうしていない。
頭から血が噴き出たイノシシは白目を向きながら川に倒れこんだ。
巨大な肉の塊が倒れる衝撃は前の小さな波と比べものにならずに大きく波打ち、とてつもない波をつくる。雷輝は抵抗する間もなく、波が全身を包み込み、ただ川の流れ任せて流されるしかなかった。
1秒……2秒と……3秒と経つうちにどんどん下流へ流れていき、そのうちに耳元にザーッ!と聞こえた。
大量の水が落ちていく滝があることが判明する。雷輝は無我夢中で必死にもがくが肉の塊となったイノシシに押し流されて、気づいた時にはもう……滝壺の中だ――。
一直線と底に向かい、どんどん沈んでいく。
(やばい、寒い、力が入らない、息が続かない)
ゴポゴポッゴポッ……。(肺に水が……。)
うっすらと視界がぼやけた。
(ここで死んでしまうのだろうか?、もしかしたらベル坊やイノシシをこの手で殺めた罪なのかもしれないな――)
雷輝は水中で歪む自分の手を見ながら過去のことを思い出し、目を閉じて楽になってしまおうかと目を閉じようとしたとき――水面に浮かぶ月が影に飲まれた。その影は雷輝もとへ来て足に巻き付き、雷輝を水面まで引っ張り上げた。雷輝は釣り糸にかかる魚のように頭を下に水の中を出た。
「プハッ!」
「人間か?大丈夫か?」
岸辺の崖の上にいる、アゲハに似た大人びた黒髪の女性を見て思わず黙る。そんな雷輝に対して女性は再度しゃべりかける。
「大丈夫か?聞いている?」
「あ、ああ大丈夫だ」
「じゃあ、沖まで頑張って泳げ」
その女性は雷輝を影から開放して、水の中に落とす。水の中に落とされた雷輝は死に物狂いに必死に身体を動かして泳ぎ、滝の中から出ることができた。
これが、稲月雷輝とアゲハの《《姉》》との初めて出会いだった。