6 裏の世界 【血蝶】 ウリボー
(俺は喰城武羅捕というやつの力によりここに来たんだよな……それにしても――)
「ここは……どこだ?」
雷輝が周囲を見渡すと鬱蒼とする木々に覆われおり。近くに倒れているアゲハを見つけて起こしたが雷輝が上を見上げると
かつて消えたといわれていた《《満月》》が輝いていた。雷輝はそれをみて思わず目から涙が流れた。
「うっう……」
「どうして泣いているの?」
「わからない」
雷輝はそう答えたが、名字に月という文字がありながら絵としか描かれたことしか空想のものとして世間では空想のものとされた月の実物をみて感動してしまったのだ。
涙を服の布で拭きとった後、雷輝はとりあえずこの場所から離れるために歩きだそうとしたが、草むらから動物の鳴き声がきこえてきた。
「プギ~」
草むらの中を覗くとイノシシの子供が足を怪我していた。イノシシの子供は大きな人間の雷輝の姿に身を縮めたが、そこをアゲハが優しく両手で包みこんで怪我をした箇所を手で触れ、昔、姉?に教えてもらった。まじないをかけた。
「痛いの痛いの飛んでゆけ~蝶に変わって飛んで行け~」
ウリボーの怪我している箇所を流れていた血はたちまち赤い蝶に変わり満月に向かい羽ばたいてゆく。
(彼女も保有者だったのか、全く気が付かなかった。血を蝶に変える能力。今はそう思っておこう)
「ウリ~!」
元気になったイノシシの子供はアゲハにすぐになついた。アゲハも嬉しくなり、イノシシの頭を撫でたが、いつまでもイノシシの子供だと言いづらいので愛称を付けることにした。
「よしよし~ねえ、お兄ちゃんこの子なんて呼んだらいいかな~」
「そうだな、確かイノシシの子供は一般ではウリボーと呼ばれている」
「そうなんだ、じゃあ。あなたのお名前はウリボーね」
(安易な名前だな。俺もウリボーと言おう)
こうしてアゲハのペット、ウリボーが誕生したであった。
ウリちゃんの柄は普通ではなく、全体的に白い毛が生えて茶色のストライキが入っている珍しい柄だ。
でも、そんな子供は一人ではなかったようで、イノシシの大人の声の叫び声が聞こえた。
木に停まっている鳥たちが羽ばたいた。遠くからイノシシの大人の姿が見えたが様子がおかしく、《《赤い目》》だ。
そして、雷輝たちの姿を見ると急に突進した。
(あぶねえ!)
雷輝はアゲハの首元の服を引っ張り、ギリギリの所でイノシシの突進を回避した。イノシシの大人は後ろの木に激突した。黄色い枯れた葉っぱがちらつき落ちる。
「ボギ~!!!」
子供を返したほうがいいか?と雷輝は悩むが、暴れまわる大人のイノシシに手を付けられない。ひとまず保留して、様子を洞察することにした。
再度、突進してくる大人のイノシシを交わすのにも限界がある。雷輝はアゲハに指示を出す。
「アゲハ!木の上に登れ」
「わかった!私、木登り得意だからね!」
アゲハは雷輝の指示に従い、木に登ろうと一緒にいるウリボーを頭にのせて奮闘するが、ウリボーの重みにより徐々に徐々に高さが落ちてゆき、結果--最初、地面の上に帰ってきた。
「ふえええ~ん、お兄ちゃん登れないよ~」
とうとう泣き出したアゲハに、イノシシの攻撃を交わし続けていた雷輝は気づき、同時にイノシシの標的がアゲハに変わった。
(まずい!【電流石火】)
雷輝は能力を使い一気に加速をして、イノシシよりも早くアゲハのもとにたどりついて、素早く頭をアゲハの股の間にいれて、持ち上げて更に走る。
「お兄ちゃん!ごめんさない……」
「いや、俺のほうこそ頭が回らなかったようだ――今から、別の作戦を決行する」
雷輝は後ろから追いかけてくるイノシシを視界にいれて距離を測りだす。
(550…540……530……よし、この調子だ)
「今度は何をすればいいの?」
「簡単なことさ、ウリボーを絶対に離さないで目をつぶい、三秒数えてくれ」
話を素直に聞いたアゲハはギュッとウリボーを抱きしめて目を閉じた。
「3……2……1……」
そして丁度、0のタイミングで雷輝はアゲハをつかみ、振り子の原理を利用して、空高く上に投げた。アゲハは弧を描き、木々に上から落下を始める。
「【電流石火!!!】」
雷輝は限界まで能力を使い、足を木の幹に合わせ、アゲハが落下するスピードよりも、速く駆け上った。
そして彼は太い枝に足を乗せ、落ちてくるアゲハをに衝撃を吸収させつつ、見事に腕の中に収めた。
「ふーうまくいった」
下では大人のイノシシがこちらに向けてきているが。木の上にいる雷輝達が優勢だ。
木の上に雷輝達は登って、隠れているつもりだが、鼻がとても良い大人のイノシシは雷輝がいる方向が分かり、近くの木に向かい、猪突猛進を繰り返していた。
「雷輝お兄ちゃん、これからどうするの?彼女、怒ってるよ?この子、返したほうがいいのかな~」
「いや、返さないほうがいいだろう、今は寧ろ保護を優先すべきだ」
下を覗くとイノシシは目は真っ赤になり正気を失っている。暴走状態だった。もし、雷輝が何も言わずにイノシシの子供を我を失っている母親に返したら、
最悪の場合--踏みつぶされて、命を散らしまう可能性がある。雷輝はウリボーを助けるために正しい判断をしたのだ。
「ボギ~!」
(なんだ、様子おかしい)
イノシシは鳴き声が高くなり、雷輝は思わずに耳を塞いでしまう。
イノシシの体は肥大化を初めて体積が約二倍に膨れあがった、口から生えた牙も雷輝のほうへ長く鋭く伸び、雰囲気が変わった。
(まさか、魔獣化か!?)
その光景を見て雷輝は自身の横腹に残っている傷と腰に差している拳銃を見て、地方に
配属される前の警察研修時代の出来事を思い出した。
△
△
△
「いいか、稲月くん。君は今日からこのドーベルマンと一年間、組んでもらい相棒になってもらう」
動物とも上手くコミュケーションをとるための名目のために雷輝は警察犬とパートナーを組んだ。
黒くて白いドーベルマンは賢く、忠誠心も高く指示した内容は言う通りこなし、職員の誰からも愛される存在だった。名前は単純明快だが、ベル郎と名付けた。
ベル坊とは約半年もの間、朝昼晩を一緒に過ごし、友達以上の関係になった。勿論、恋人の関係はありえなく、半年前に教官の言った、相棒《|パートナー》になったのだ。それから順調で幸せな日々が続くと思っていた。
だが、そんな甘いことは続くことはなく、冷たい風が吹き、空が雲で濁ったある日--
餌をあげるために雷輝は飼育小屋に来た。
「お~い、ベル坊~どこにいるんだ~」
いつもなら尻尾を振り喜んで出迎えてくれるが。今日は呼んでも出てくることはなく、
様子を確認するために飼育小屋の鍵で開錠して、ギーと不気味な音を鳴らす網目状の扉を開けて中に入った。
中は薄暗く遠くがうまく見えない、電気をつけようとしたが、壊れていてつけられない。
「うぅぅぅぅぅぅぅ~~~」
奥のほうで不気味な声を唸る犬の鳴き声が聞こえた。首元にはベル坊と書かれた首輪がある、
「なに怒ってるんだ?。こっちにきてみろ――今日はお前の大好きな肉だぞ~」
青いバケツに入っている正方形の赤い肉の塊をトングでつかみ、投げる。
ベル坊は走り、肉を拾い喰らう。そこで雷輝は気づいた、普段大人しく可愛げのあるベル坊とは違い目の前のそいつは赤い目で犬牙が長く生えている普通じゃない。
変わりはてたベル郎が雷輝に飛びかかった、雷輝は咄嗟にバケツを離して、しゃがんだ。
ベル坊はバケツに頭を突っ込んだまま肉を数個、頬に含み食らうがすぐに雷輝のほうをむき攻撃する。雷輝は壁に立てかかっている掃除用をブラシを使い、攻撃を阻止した。
「うぅぅぅぅぅぅぅ~~~」
「どうしたんだよ、ベル坊……なんでそんなに苦しそうなんだよ。」
ベル坊は唸るのを続ける。冷静な雷輝の姿を見て牙を戻そうするが、小屋の外から男女の声が聞こえた。
その声を聴いた、ベル郎は凶暴性が戻り増した。
再び襲いかかる柴太郎を雷輝はブラシと異能を使い頭を叩いた後、すぐに小屋から抜けて、扉を閉めた。
「ここは、危険です!離れてください!」
後ろからは、ガンッ!ガンッ!とベル郎が金属の網目状の扉に体当たりをした。
談笑中だった男女は扉に体を立てかけている雷輝の姿と目視すると驚き、女性は倒れる。
「そのまま待っていてくれ!」
男は倒れた女性を抱え、教官を連れてくるために急いで寮へと走り戻った。
「ベル坊……あと少し我慢してくれ、病院に連れていって直してやるからな」
優しくしゃべりかけたが、残酷ながらベル郎の伸びた爪が雷輝の横腹をひっかいた。
血が滲み激痛が雷輝を襲うが、半年間も一緒に過ごした。彼を見捨てることなど出来ずに我慢した。
「狂暴化した犬はどこだ!?」
数分が経過すると、体格がいい教官が来た。
――――手に拳銃を持って。
「こりゃ……魔獣化してるな」
「魔獣化ですか?」
教官は連れてきた男が聞く。
「ああ、最近、目が赤くなった動物が狂暴性が増して、ほかの生物の血肉を食らうんだ、早急に処分をしないといけないな」
教官を湿った拳銃の弾を変えて、ベル坊のほうへ向けた。撃とうとした。
「待ってください!」
ベル坊に愛情を持った雷輝は殺させるのを止めるために教官の手を叩き下に向けさせて発砲は湿った地面に刺さり失敗。拳銃は教官の地面に落ちる
「何をする!、まさか、この犬をかばう気か!?
「そんなんじゃないですよ」
雷輝は教官に向けて、造り笑いをして。教官が落とした拳銃を取る。
俯きながら、愛すべきベル坊へと戻っていく。後取は足枷を巨大な玉で引きずているようにとても重い。
「ごめんよ……ごめんよ……ごめんよ……」
謝りながら、涙を流し、震える手でベル郎に標準を合わす。
「早く撃て!」
後ろから教官の罵声が雷輝の身を覆い、雷輝は覚悟を決めた。
「ああ!わかっているよ!」
拳銃のトリガーを勢いよく引いた。
中から勢いよく出た銃弾は、扉を食いちぎろうとしていたベル坊の脳天に向けて放たれた。
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△
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ドゴンッ!ドゴンッ!
「雷輝お兄ちゃん!」
昔のことを脳裏で思いだしながら、涙を少量出していたが、大きく木が揺れる衝撃により、現実に戻った。
ドゴンッ!ドゴンッ!ドゴンッ!
木に突進してくる魔獣化したイノシシは何度も突進することにより、雷輝達がいる木は倒れてしまい、雷輝はアゲハを抱えながら地面に着地した。
「アゲハはここにいてくれ……あいつは俺が倒す」
「でも……」
何かを言いたげなアゲハにイノシシの子供を再び抱きしめさせせた。
「この子を守るのはアゲハ、君の役目だ……そして、そんなアゲハを守るのは俺、稲月雷輝の役目だ」
アゲハに向けて、雷輝は微笑み、月と重なる。
「まって……おに、お姉ちゃん……う、」
アゲハの脳裏に姉の姿をうっすらとおもいだして去っていく光景を現在の雷輝に重ねり、頭を押さえた。
雷輝にはアゲハの声がきこえておらず、地面に落ちていたち丁度--拳の中に納まる大き目の石を握りしめて、魔獣化したイノシシの向けて投げた。
「お前の相手は俺だ~~~!!!!」
「ボギ~!!!」
雷輝が出した張り裂けそうな声がイノシシの声と重なりあった。