5 喰城武羅捕【黒渦】
雷輝が、『トレーザー』の説明を受けている頃。
渋谷のスクランブル交差点は多くの人が行き交う中、ゆらゆらと揺れるトラックが低速で侵入してきた。中には酒を飲みながらトラックを運転する若い男がいる。
トラックから盛大にエンジンを吹かしながら、クラクションを鳴らしていた。
人々は(なんだこのうるさいトラックは--)と思いながら、トラブルを起こしたくない大人たちは避けていくが丁度、スクランブル交差点の中央でBAKUとプリントされた全身黒のパーカーを来た青年が立っていた。
車は仕方なく止めたが運転手は青年に対して暴言を吐いた。
「オラオラオラ、どけよ、そこのお前、俺がブレーキ離したら、あっという間にお陀仏だぞ!」
「うるせい……」
威勢にいい運転手の男に青年は小声で返事を返し、よく聞き取れなかった運転手の男は聞き返す。
「ああ?、聞こえねえな、もう一度ハッキリ聞こえるように声をだせよ、まあお前みたいなちんちくりんのは一生できないだろうけどな、グハハハハハ!」
その言葉を聞いた青年はムカッときた。
「うるせい!酔っ払い!」
「なんだと!?」
青年は続けていう。
「お前みたいなクズが、いるからこの世がだめになるんだ!」
青年は心に溜めていた言葉をおもいっきり叫んだ、男は青年の気迫に冷や汗をかいたが言葉だけで、その場から一切動かない青年に安堵した。
「ははは、ビビったじゃねえか、なにがしたいんだよお前、じゃあな、あばよ--」
若い男は残酷な目をしてブレーキペダルから足を離して青年を本当に引こうとした。
青年はため息をつき、右腕をポケットから出した。
「やっぱり、真のクズだったな。取り合えずその車とかいう乗り物、邪魔だ消え失せろ――【黒渦】」
青年が異能を発動させるトリガーの言葉を発し、右手を手前に縮めながら回転させると若い男とトラックの前に突然、黒い渦が現れ、トラックを飲み込んでいく。
「うわぁぁぁぁ!なんだ、なんだよこれは!」
若い男は上下左右から迫りくる黒い渦に飲み込まれていくのに恐怖を感じて、間一髪のところで扉を開けて外に出た。若い男の目の前には殺気を放つ青年が見下ろしていた。
若い男は恐怖で身が震えた。
「それが、正解だ。お前には俺が直々に天罰を与えるからな――【黒渦】」
今度は青年は天《上》に向けて右手を軽く捻った。
それは、空より遥か高く宇宙空間を遊泳する双子衛星【双月】の二つの球体の間に黒い渦が一瞬現れ、繋ぎに線が切れて、制御を失った。
黒い渦は片方の球体を吸い込むように渋谷のスクランブル交差点の中央、若い男に落ちるように誘導した。神が罰を与えるように。
「ま、まじかよ……」
「ああ、マジだ今からお前は死ぬ!」
若い男はその青年が言った言葉に絶望の淵に立たせれた。
「ごめんよ……」
ポツリッ。男はやっと、やっと、やっと。今まだで大勢の人に迷若い惑をかけてきたことをやっと後悔をした。
でも、彼はもう死ぬ運命。逃れることはできない……だが、それにも関わらず、男は叫んだ。
「誰か……誰か助けてくれよ!こんな惨めな俺を!」
「了解した。【電流石火】」
――その時だった。一筋の電流が彼の目に映ったのだ。雷輝が自信を加速させる技を使い、若い男を掴みながら迫りくる衛星の落下の外側に回避した。
若い男は地面に横たわりながら気づいたときにはもう――泣いていた。
殺される【恐怖】、死ぬしか無いと思った【絶望】、今まで自分がしてきた【後悔】。そして、こんな醜い自分を身を呈して助けてもらった、
「【ありがとう……】」という気持ち。
「ケガはありませんか?」
雷輝は男にやさしくしゃべりかけた。
双子人工衛星【双月】の片割れが渋谷のスクランブル交差点の中央に落ちた頃合い。
雷輝は衛星に落ちつぶされそうになった若い男を間一髪のところで助け、黒いフードを被った青年と睨みあっていた。フードを被った青年が先に口を割った。
「おい、誰だお前は?なんでそんなクズを助けた?」
「そうだな、先にそちらが名を名乗るべきだが……先に言おう。俺の名は稲月雷輝俺は困っている人を救うために今ここに立っている、この人は困っているから助けたまでだ」
「フッ、【人を救う】それがお前のエゴか、じゃあ俺様のエゴは【この世に必要な者を選別】することだな、そうだ稲月雷輝、お前にに聞きたいことがある、この辺に《《アゲハ》》って娘がいるはずなんだが知っているか?」
「……」(なんだこいつ、なぜアゲハのことを……)
雷輝が考え込む中、後から走ってきてた剛堂平八郎と逸華は雷輝の元へたどりついた。
「稲月くん。大丈夫かね?」
「大丈夫?怪我は無い?」
「はい、こちらの方は怪我などはしていません、この人を頼みます……ってあれ?」
助けてもらった若い男はいつの間にか逃げ出していた。周囲ではスマホを片手に構えた野次馬達も集まりつつあり、若い男は米粒にしか見えなくなったっていた。
雷輝が周囲を見ている間に青年が、剛堂達に向けてあの質問をした。
「なあ、聞きたいことあるんだが、あんたらはアゲハって娘知っているか?」
「「……」」
青年の言葉に剛堂平八郎と燈華はこいつには彼女の存在を教えてはいけないと察して黙るが、目線がついアゲハがいる建物に目線がいってしまう。
青年はアゲハを見つけた。
「最藤アゲハ……ようやく見つけた。やはり近くにいたのか、姉が待っているぞ、こっちに来い【黒渦】」
青年は黒いオーラを発しながらアゲハに向けて再度異能を使う、雷輝は木刀に構え、剛堂平八郎と逸華も臨時体制をとった。
異変を感じた逸華の母親はアゲハの手を強く握り、退避しようとするが、遅かった。
【黒渦】がアゲハの周囲のガレキを飲み込み、渦がアゲハを青年の元まで運ばれたのだ。
だが、雷輝が間一髪のところでアゲハを掴み助ける。
「そいつを渡せ、そうすれば大人しく引き下が立ってやる」
「なぜアゲハを狙うかわからないが、素性がわからない君にアゲハを渡すわけにはいかない」
「そうだ、稲月くん、渡してはいけない」
「ええ」
青年と雷輝たちに緊張が走る。青年は突然笑い始めた。
「ハハハハハハハ」
「何がおかしい?」
「そりゃおかしいよ、普通の人間は俺が威嚇するとあっという間に逃げるが、お前らは違うな、確かずいぶんと前にお前らみたいな奴いたな、確か……新選組とかいってたか?まあいいか、そんな昔のこと」
(新選組――どういうことだ?それは数百年も前の過去の組織だぞ、こいつのことを調べられればアゲハについて、何か手がかりがつかめるのか?)
「雷輝くん!敵の前ですきを見せてはダメです!」
剛堂逸華のその言葉で雷輝はハッと顔を上げた。青年は目の前から消えており、彼は地に落ちた人工衛星【双月】の片割れの上に立っていた。
「せっかくだから、俺の名前を教えてやるよ!俺の名前は【喰城武羅捕】!この世界を喰らうものだ!そしておまらを俺の《世界》に来る権利を持ってから案内してやるぞ!感謝しろよ!【黒渦】――」
その言霊を叫ぶと衛星の周りの地面が黒い渦に代わり、雷輝たちを飲み込んでいく。
剛堂平八郎は咄嗟に娘の逸華だけをこの世界にとどまるように手を掴み引っ張った。
「雷輝くん!」
逸華の稲月雷輝の手をつかむ。だが、女性の彼女が綱を引っ張るように左右から激しく動かされるで、激痛が走り、身体が引きちぎられそうだった。
そんな彼女の様子を肌で感じて、雷輝は逸華の手を自ら外そうとする。堪らずに逸華は言葉を必死に紡ぐ。
「いつか……いつか、また会えるよね」
「ああ、もちろん」
逸華が渦に飲み込まれる前に雷輝は手を振りほどき、剛堂逸華を表の世界に残して、
稲月雷輝と最藤アゲハは黒い渦に飲み込まれてしまった。