3 【一律旋風】 【剛練剛鉄】
『次は〜渋谷〜渋谷でございま〜す、お乗り換えや、用事がある方は〜足元を気をつけてからお降りくださ〜いーーThe next of station is sibuya〜』
「もうすぐ、着くみたいね」
「アゲハそろそろ起きてくれ、もうすぐつくぞ」
「……ん、わかったーー」
雷輝がアゲハを預かって一週間でDNA調査が終わったらしいが、電話ではなく直接言い渡されられるようで、同僚の剛堂逸華と共に渋谷に直接くるようにと呼び出された。
渋谷の駅に降りると日本社会の為に働く企業戦士サラリーマン達がごった返してしており。柱の所にいる海外からの観光客は今の日本では滅多に見かけないアゲハの着物姿に注目してスマホを構えて写真を何十枚のも連続してシャッターを切っていた。
何よりも奇妙なのは雷輝の腰のベルトに木刀が差さっていることだ。
「ねーねー雷輝くん、いつも思ってたんだけど、なんで木刀なんてモノを持ち歩いているの?」
「ああそれはな、拳銃なんて物騒なモノをなるべく使いたくないからだよ」
「木刀も十分物騒なモノをだけどね」
他愛もない話を繰り広げながら、雷輝達はそんな人混みを通っていくが、役の改札をやっとの思いで出られた時に女性の叫ぶ声が聞こえ、立ち止まった。
「カバンを返してー!誰かその子を捕まえてー!」
「へへ、誰が捕まるかよ!」
女性から鞄を盗んだのは緑髪の少年だった。濃い青のジーパンにねずみ色のボロボロのパーカーを着た緑髪の少年は周囲の眼力に臆する事は無く走り去ろうとしていた。
雷輝は例え少年でも犯罪者は捕まえなければならないという責務にかられ瞬時に少年の動きを判断した。雷輝は護身用として腰にベルトの間に挟んでいた鞘から《《木刀》》を抜き取り、タイミングを見計らい、
少年の腹にぶつけた――
「そんな攻撃当たるか!」
つもりだったが、当たる前に緑髪の少年は体を捻らせて逆に木刀と雷輝の頭を順に踏みつけ上へ二段ジャンプをして通り過ぎた。
木刀と顔を蹴られ地面に倒されそうになった雷輝だが、都会に来るためにせっかくセットした髪が崩れ、少し憤りを胸に抱いた雷輝は地面に着く前に足を前に出し反転させて、どんどん離れていく少年の元へ行くべく、能力を行使することにした。
【電流石火】
今回は周囲の電柱や掲示板などに通う電気を一時的に貰い加速をして、少年の横に平行して並んだ。
「なんなんだよお前!ついてくるなよ!」
「鞄を返せ、それは君のものじゃない」
「いやだね、これはもう僕のものだ!」
少年は話を全くは聞かず、雷輝は武力で制するために木刀で何度も腰や頭を狙うが、少年は風を操る異能を使えるようで、周りに発生させた風をうまく使い、上下左右に動き回り軽々しく避けていく。
「「はっはっは……」」
「(いつまで追いかけてくる気だよ)」
「(絶対逃がさない)」
両者ともに体力が消耗して尽きかけるが、少年はこの駅から離れようと《《風を発生される能力》》を使い自分の後ろから発生させて一気に駅から抜け出そうした。
だが、その行動を待っていたかのように大柄で筋肉隆々の男が渋谷の駅の出入り口に立っていた。年齢は四十歳前後だ。雷輝はその男を知っている。同僚の女性の父親、剛堂平八郎、東京の警部補だ。
「剛堂さん!」
「おう、雷輝、こいつは俺に任せろ」
男の声を聴いた雷輝は後のことを任せて、能力を使うのをやめた。緑髪の少年は雷輝は置いて出入り口に向かい更に加速する。
「へ、おっさん邪魔だよ!【一律旋風】!」
道路口をふさぐ男を邪魔だと判断して吹き飛ばすことにした少年は異能の力を使い前方に向けて思いっきり風をなだれ込ませた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉお、やるなじゃないか少年、でもな……そんなちんけな技、俺には通じないぞ【剛錬剛鉄】」
今までに味あったことがない風の勢いに剛堂平八郎はたじろいてしまうが彼は、右足を地面のコンクリートにのめり込ませながら、異能を発動させコンクリートを針金状の鉄に変えて右全身に張り巡らせながらなんとか耐える。
そして、そのまま飛んできた少年を両手で捕まえた。
「離せよ!」
「ダメだ――お前は罪を犯した。《《大人》》しく捕まっていろ」
「離せ!僕は《《大人》》じゃない!」
剛堂平八郎が肩で背負い暴れる少年は、隙を見つけて剛堂の頭を蹴り、身を捩りうまく平八郎の腕の中から見事に逃げ出した。
幸いなことに少年が奪おうしたカバンは無事だ。
平八郎はカバンを見ては気づいてはいないが、少年は鞄の中から一つの物を選んで盗み出していた。